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中国新エネルギー車(NEV)大手の「BYD(比亜迪)」は12月1日、日本市場で大きな転換点を迎えた。
これまで純電気自動車(BEV)のみの展開だったが、エンジンも搭載したプラグインハイブリッド車(PHEV)のスポーツタイプ多目的車(SUV)「シーライオン6」を発売した。398万2000円からという衝撃的な価格を初めて公表し、競合のPHEVモデルと比較して圧倒的な価格優位性を持つ。従来の“EV一本足”の戦略から踏み込み、日本市場固有の「電動化の壁」を突破する切り札としたい考えだ。BYD Auto Japanの東福寺厚樹社長は「EVとPHEVの両方を選べるようにする」と選択肢を増やす意義を強調した。納車は2026年1月以降になるという。

「三つの不安」を解消
日本市場では、充電インフラの不足、長距離移動への不安、車両価格という三つの要因がEV普及の足かせとなってきた。
シーライオン6は、この三つを同時に解消するよう設計されている。その背景には、BYDが2008年から磨き続けてきたPHEVのDM(デュアルモード)技術の進化がある。新モデルが採用する「スーパーハイブリッド(DM-i)」は、走行の主軸をモーターに置く。エンジンは大部分のシーンで“発電機”として従属的に機能し、必要な時にだけ直接駆動に関与する。これは、従来のトヨタ式のエンジン主体ハイブリッドとは対照的で、BYDが電動化を軸に据えてきたPHEVの方向性を体現している。
充電は、CHAdeMO(チャデモ)急速充電に加え、V2L(外部給電)とV2H(住宅給電)にも対応した。航続距離は参考値ではあるが、FWDで約1200km、AWDで約1000km。EV走行は約100kmで、ユーザーは「日常はEV、長距離はガソリン」というハイブリッド運用を自然に行える。BYDの狙いは明白だ。日本市場の“EV依存への躊躇”を、電動化の技術力で圧倒し、根本から不安を打ち砕こうとしている。

EVにもなるPHV
走行モードは「EV走行」、エンジンで発電した電力をバッテリーに蓄積し、その電力によってモーターを駆動させる「シリーズ走行」、エンジンとモーターを状況に応じて使い分ける「シリーズ・パラレル走行」の3種類となる。
市街地モードでは80%以上がEV走行となり、平均的な通勤距離では実質的にEVとして使える設計でだという。一方で、高速走行ではエンジン直駆を組み合わせ、効率を最大化させる。興味深いのは、165km/hまでの加速をモーターでできるほか、時速100キロまでの加速は5.9秒という点で、ハイブリッドでありながら加速感はEVに近い。
垂直統合によるコスト削減
デザインはEVシリーズで展開される海洋シリーズを踏襲する。シャープな“OCEAN X-Face”、ウォータードロップ形状のヘッドライト、横一文字の“オーシャンスターテールライト”が特徴だ。
インテリアは15.6インチ回転式ディスプレイと12.3インチのデジタルメーターの組み合わせが特徴だ。BYDのソフトウェア電動化が最も分かりやすく体感できる部分で、「Hi BYD」と呼ぶことで動かせる音声操作もある。インフィニティ製サウンド、前席ベンチレーション、後席5段階リクライニングなど、快適性は国産車の高級SUVのレベルに達しているとも言える。

価格設定は日本市場での反応を大きく左右するはずだ。400万円を切る水準が実現できたのは、BYDが祖業のバッテリーのほか、モーター、制御系を内製化し、30年に渡りバッテリー技術を積み上げてきたコストダウンの成果が反映されているためだろう。サプライチェーン(供給網)を自社で取り込む垂直統合が、価格面での競争力として本格的に威力を発揮し始めている。
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最重要市場、日本

BYD本社のプラグインハイブリッド車の技術責任者の魯超氏は「日本は世界で4番目の自動車市場であり、20年近く日本から学び続けてきた。BYDにとって最重要市場の一つだ」と語った。だが今、その関係は変質しつつあるかもしれない。BYDは日本市場で“電動化を引っ張る推進役”となりつつあるという見方ができる。シーライオン6や来年夏に投入する日本独自モデルの軽EVのラッコはまさにその象徴だ。
ジャパンモビリティーショー2025で、BYD Japanの劉学亮社長は取材に対し「バス事業などを通じて高齢化する日本の地方を見て、軽EVが必要だと判断した」と強調し、日本市場に合わせた製品投入を2026年も愚直に進める方針を示している。「BYDは日本にフルコミットする」と述べ、技術を余すことなく投入し、シェア拡大を目指す考えだ。
(36Kr Japan編集部)
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