電池セルに「印刷」、塗布工程を効率化 中国新興が500万個で採用
産業用デジタルインクジェットプリント技術を手がける中国企業「什方科技(Shifang Technology)」はこのほど、シリーズBとその追加ラウンドで計3億元(約70億円)近くを調達した。出資には五源資本(5Y Capital)や創世夥伴創投(CCV)、同創偉業(Cowin Venture Capital)のほか、恒旭資本(Hengxu Capital)、シャオミ(小米集団)、蔚来資本(NIO Capital)なども参加した。
2020年設立の什方科技は、精度と粘度が高いミクロン級の機能性コーティング用デジタルインクジェットプリンターの中核部品やソリューションを開発している。すでにリリースした世界初の紫外線(UV)プリントエンジンは、新エネルギーやプリント基板(PCB)、自動車などの分野で幅広く活用されている。
製品の最も大きな供給先は車載電池市場だ。以前は電池セルの絶縁に被膜方式が採用されていたが、セルの大容量化に伴い、歩留まりの低下や界面劣化、膨張による破損などの問題が目立つようになった。その後採用されたUVコーティングによって問題は多少改善されたものの、マスキングの複雑さ、エッジ部分の精度不足、材料使用率の低さがコストを押し上げている。一方、UVインクジェットプリンターならプリントヘッドが材料を精密に噴射し、光によって塗膜を硬化させるため、きめ細かいコーティングができる。また、歩留まりや材料使用率が高く、装置にかかるコストも抑えられるうえ、性能要件をフレキシブルに調整することも可能だ。
同社は制御基板やインク供給システム、アルゴリズムなどを独自に開発し、ハードウエアからソフトウエア、流体制御、材料適合までを網羅する技術体系を構築した。また、機能性コーティングラボ「Praxis」を設立し、材料の検証やプリント技術の開発、製品導入までをカバーするワンストップサービスを提供している。現在、国内外50社以上の材料関連企業と提携しており、同社の材料供給システムは大手電池メーカーのサプライチェーンにも採用されている。

「什方科技」の製品
これまでにプリントエンジン「XF」シリーズや「P」シリーズをリリースしている。「XF」シリーズは、車載・蓄電用電池セルの絶縁コーティングやペロブスカイト層など、粘度・厚さ・プリントスピードが求められる用途向けに開発された。「P」シリーズは、より高い精度を要するプリント基板実装(PCBA)のコンフォーマルコーティングや固体電池のコーティング向けの製品だ。

「什方科技」のプリントエンジン
現在は新エネルギー分野で大手電池メーカー5社以上にサービスを提供しており、同社のプリントエンジンを使って絶縁コーティングされた電池セルは角型、円筒型、ブレード型などを合わせて500万個を超えた。量産初期の歩留まりは98%、材料使用率は99%を超え、プリントスピードは最高56ppmに達するという。
全固体電池の産業化が加速するなか、複数の大手電池メーカーとコーティングをめぐる実証実験も進めている。
同社にとって、PCBAのコンフォーマルコーティングが第二の成長分野となりつつある。従来のスプレーやディスペンシングによる塗布はマスキングや経路計画を必要とするが、デジタルインクジェットプリントなら、プリントしないエリアを設定し、塗膜の厚さもエリアごとに制御できる。「P」シリーズは、設計厚さ1~50マイクロメートル(μm)に対する精度が±10%以内で、生産効率は従来手法よりも10倍以上向上したという。
什方科技は自社をプリンターメーカーではなく、プリントエンジンのサプライヤーと位置付けている。新エネルギー設備や機能性材料、産業自動化が成熟するのに伴って、産業用デジタルインクジェットプリンターも工場の標準装置になりつつある。用途によって性能要件が異なるものの、プリンターの中核部品となるプリントヘッドやインクチューブ、制御基板などは共通利用がしやすい。現在、同社の部品共有率は約70%で、将来的には80%以上へ引き上げることを目指している。
*1元=約23円で計算しています。
(翻訳・大谷晶洋)