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設立からわずか8年で評価額1000億ドルを超える「デカコーン企業」にのし上がった中国のバイトダンス(字節跳動)がさらなる成長の道を模索している。創業者の張一鳴氏がグローバルCEOに就任、新たに中国事業の董事長とCEOを置く組織改革はその一環。だがこれまでの成長が急激だっただけに、新たな「成長神話」を生み出すにはライバル企業との競合などさまざまな困難が待ち受ける。
組織改革
3月12日、バイトダンス創業者兼CEOの張一鳴氏は創業8周年に際し、組織の全面的なアップグレードを宣言した。新たな組織の中で、張一鳴氏はグローバルCEOに就任し、中国事業については、新たにバイトダンス(中国)董事長となる張利東氏、CEOとなる張楠氏の両者が協調して管理および業務を進めていく体制となった。
昨年4月の米テックメディア「The Information」の報道によると、同社内部では14名が張一鳴氏に直接業務報告を行っており、この時点では、まだ張一鳴氏があらゆる事を自ら処理している状態だった。今回の組織改正では、張一鳴氏が成熟した中国事業から外れ、新たに昇格した張利東董事長と張楠CEO、中国国内の機能ライン(中国戦略、収益化、戦略パートナー構築、法務、パブリックアフェアーズ、広報、財務、人事)と業務ライン(今日頭条、抖音、「西瓜視頻(Buzz Video)」、検索エンジンなど)をそれぞれ分担する。
一方、張一鳴氏は今後グローバル化と革新的な新規事業に注力する。そうした人事はバイトダンスが、グローバル化を目指すIT企業から、真のグローバルIT企業へと転換しつつあることを示している。
この8年間にバイトダンスは、ニュースアプリ「今日頭条(Toutiao)、海外版TopBuzz」の投入によって遅まきながらもモバイルインターネット急成長の恩恵に浴することができた。またショート動画アプリ「抖音(Douyin)、海外版はTikTok)」でショート動画戦争を巻き起こしてきた。そして今や6万人の従業員を抱え、多彩な製品ラインアップを取り揃え、30カ国に180拠点を持つ巨大企業となった。
バイトダンスの急速な成長に伴い、テンセントやバイドゥなど既存大手企業との競争もエスカレートしている。2020年が始まり、創業8年の若い企業ながら業界大手となったバイトダンスは、その野心を隠そうとしなくなっている。
バイトダンスの8年は、数々の成長神話が生まれた8年でもある。だが2019年、マーケットがバイトダンスについて取り沙汰したキーワードの1つが「ボトルネック」だった。同社の広告収入は右肩上がりだが、「抖音」に続くヒット製品が生まれない焦りも漂っている。成長のための新しい起爆剤を見つけ出すことは、同社が常に追求している目標である。
製品ラインアップの拡充
そのカギを握るのは、グローバル化と新規事業のほかにもう一つ、ゲーム事業だ。
米・大手情報企業「トムソン・ロイター」によると今年2月、これまで長期に渡ってゲーム事業を管轄する部門がなかったという問題を解決するため、戦略部の責任者だった厳授氏が単独でゲーム事業を管理するよう任命された。この部門の目標はテンセントがヒットさせた「王者栄躍(伝説対決 -Arena of Valor-)」に匹敵するような製品を投入、本格的ゲームの市場に進出することだ。公式情報によると厳授氏は2015年にバイトダンスに入社し、それ以前はテンセントに勤めていた。
バイトダンスは絶えずゲーム事業を強化しており、「頭騰大戦(今日頭条とテンセントの争い)」と呼ばれる両者の戦火は日に日に激しくなっている。テンセントにとって、ゲーム事業に本腰を入れ始めたバイトダンスは、この上なく危険な存在だ。
バイトダンスは以前からゲーム分野への参入を試みてきた。2018年にはすでに、囲碁AIの研究開発を行ったり、外部のゲーム会社を買収したりして、着々と勢力図を拡大しきた。
同社がゲーム領域に切り込んだ手法は同業他社と大きく違わない。傘下の今日頭条と抖音の巨大なトラフィックによって、いくつかのミニゲームで入口を作り、ユーザーの認知度を上げ、人気ゲームの共同代理や独占代理を獲得して自社プラットフォームで配信を行う。同時に社内に研究開発チームを設立し、ミニゲームの代理配信から始めて本格ゲームの自社開発に移行していくという流れだ。
チームの拡充のためにバイトダンスは、ここ1年あまりテンセントのゲーム部門の人員の引き抜きに力を入れているが、高給をもってしてもテンセントの人員の引き抜きは難しい状況だ。本格ゲームの自社開発は容易ではなく、バイトダンスが成功できるかどうかについて、依然として疑念を持っている人が多いからだ。
本格ゲームの自社開発は難しくとも、これまではゲーム関連の広告収入がバイトダンスの収益を支えてきたという面はあった。現在のバイトダンスの最大の収入源である広告の中でも、ゲーム会社は最大の広告主だ。メディア「晚点LatePost」によると、抖音の広告収入の50%以上はゲームによるものであり、1日当たりの売上高は1億5000万元(約23億2000万円)に達している。
TikTokは海外でも人気があるため、海外ゲームメーカーの広告も増えてきている。1月、米国TikTokの広告ランキングを見ると「FunPlus(趣加)」の新しいシミュレーションゲーム「State of Survival」や「フォートナイト 」、「モバイルレジェンド 」、「アークナイツ 」などの本格ゲームがTikTokの主要広告主となっている。
しかし、利益が大きいゲーム事業自体と比較すると、広告収入はせいぜいコース料理の中での“スープ”に相当する程度であり、メインディッシュの“肉”を食べるには結局、バイトダンスが自社でゲーム事業を展開しなければならないのだ。
一旦ゲーム事業が軌道に乗れば、そこから派生する知的財産(自社のタイトルやキャラクター)、eスポーツ、関連グッズなどのビジネスを拡大することができる。バイトダンスは「ショート動画」の会社から「総合エンターテインメント」企業に飛躍することができ、業界の王者であるテンセントにも正面切って挑むことができるようになる。
ゲーム分野だけではない。企業向けビジネスでもバイトダンスとテンセントは火花を散らしている。
新型肺炎流行の影響でリモートワークが注目されるなか、各企業はリソースを投入して製品を宣伝し市場シェアを広げようとしている。バイトダンスはオフィスツール「飛書(FEISHU、海外版「Lark」)」を最初は企業向けに期間限定で無料開放していたたが、2月には無期限で無料開放することにした。「企業微信(WeChat Work )」、「DingTalk(釘釘)」に比べ、後発の飛書は価格競争によってパイを奪い取ろうとしている。
これまでバイトダンスが企業向け市場として戦略の重点を置いてきたのは海外市場であり、海外版のLarkは企業向け市場開拓の急先鋒だ。業界関係者によると同社が海外に重点を置くのは、中国国内においてアリババ傘下のDingTalkと直接対決を避けるためだという。というのも、すでにテンセント、バイドゥには戦いを挑んでいる状況の中では、アリババとも全面戦争に陥るのは回避する必要があるからだ。
しかし、リモートワークの急拡大という好機を目の前にしてバイトダンスは、この密やかな戦略を放棄し、直接対決に挑むことを選んだ。
中国国内外へ同時攻勢
今日頭条CEOの朱文佳氏はインタビューに対し、「今日頭条のジグソーパズルのピースはすでに揃っており、今は総合能力で勝負する段階だ。この段階になると1カ月ぐらいで簡単に開発した機能や製品が、ユーザーエクスペリエンスを大幅に向上させるということは不可能に近い」と述べた。
言い換えれば抖音の神話が今日頭条などの分野で再び生まれる可能性は小さい。
2017年の150億元(約2300億円)から2018年の500億元(約7800億円)、さらに2019年に1000億元(約1兆5500億円)を超えるまでの、バイトダンスの売上高の伸びは驚くべきものがある。しかしユーザー投稿コンテンツ(UGC)では、爆発的な成長を持続できないという現実を見ると、今後の売り上げを伸ばす方法は既存のパイの中から見つけ出さなければならない。
昨年、張一鳴氏は「検索シーンの開拓と上質なコンテンツが続かなければ、今日頭条の成長の余地は、4000万DAU(1日あたりのアクティブユーザー数)程度しか残っていないかもしれない」と語っている。
同時にモバイルインターネット業界において広告収入増加の余地が残っているかどうかも不透明だ。インターネットデータ分析会社「Quest Mobile」のデータによると、2019年上半期は、モバイルインターネットのトラフィックと広告収入が右肩下がりの様相を呈しており、下半期のモバイルインターネットユーザーの規模の伸びはすでに1%程度に落ち込んでいる。
売上高を「三段跳び」で伸ばしているバイトダンスにとって、高い成長率を維持するには、広告収入に依存した収益構造を最適化し、新たな収益源を開拓することが不可欠であり、特に海外市場と新規事業における売上増加が必要である。新しいビジネスでは、ゲーム、BtoB、教育が期待されている。
バイトダンスは、中国国内市場ではさらに多くの戦いを仕掛け、海外市場への攻勢も強めるという劇薬を自らに対して処方している。この戦いの勝敗は、バイトダンスの次の8年の成功を左右するだろう。
(翻訳・普洱、編集・後藤)
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