セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け
メールマガジンに登録
深圳と香港は地続きながら、通過にパスポートや通行証が必要なため、中国本土の人にとっても香港の人にとっても実質的には「海外旅行」のようなものだ。新型コロナウイルスが流行した際には往来が厳しく制限された。コロナ禍が収束し、2023年2月に行き来が正常化されて以降、現地のトレンドとして注目されているのが香港人による深圳への「北上」である。コロナ禍前は中国本土から多くの観光客が香港にショッピングに訪れていた光景とは逆の現象が起こっているのである。
「北上消費」流行語に
香港メディアによると2023年6月にはのべ400万人、12月にはのべ668万人の香港人が深圳経由で中国本土に移動している。この数字にはビジネスでの往来も含まれているものの、人数の伸びや、特に週末に香港から出る人が増えているというデータから、レジャーでの深圳渡航が増加しているのが見て取れる。
イースター休暇の祝日で4連休となった3月29日から4月1日にはのべ190万人が深圳のイミグレーションから中国本土に入っている。香港の人口が約730万人であることを考えると、その多さが分かるだろう。
筆者が連休明けに出社すると、同僚の香港住民10人のうち5人が連休中に深圳に遊びに行っていたことが判明した。
筆者が香港に移住した2023年10月にはすでに香港住民が週末に深圳を訪れるブームを指す「北上消費」「北上熱」という言葉が生まれていたが、その熱が更に高まっているというわけだ。
北上熱の最大の理由は、コスパの高さだろう。特に外食費は深圳が圧倒的に安い。香港で火鍋を食べると一人あたり400~500香港ドル(約8000~10000円)ほどするが、深圳だと半額以下の150~200元(約3000~4000円)ほどで済む。タピオカミルクティーなどのドリンクも香港だと1杯40香港ドル(約800円)前後だが、深圳だと約半額の20元(約400円)で飲める。
「家族で食事をするなら深圳で食べたほうが絶対に安く済みますね」と40代の同僚は話す。香港からの交通費を含めてもトータルでみれば深圳に行ったほうがお得、というのが北上消費人気の最大の理由だ。
ショッピングやマッサージSPA、カラオケ、映画なども深圳の方が安い。深圳のあるマッサージ店のマッサージ師は「週末になると客の7割は香港からです。香港からの顧客がいなければ私たちの商売は成り立たない」と話す。深圳にはコストコやウォールマート傘下の会員制スーパーマーケットのサムズクラブもあり、スーパーマーケットでのショッピングも目的の一つになっている。香港から日帰りや一泊でサクッと行き来でき、手ごろな価格でショッピングや食事を楽しめる魅力は大きい。
決済アプリの普及や為替の影響も
最近では中国のモバイル決済アプリであるWeChat PayやAlipayにクレジットカードが紐づけられるようになっていたり、香港版のAlipayHKが中国本土でもほぼ制限なしでキャッシュレス利用できるようになったりと、支払いの利便性の向上も深圳に訪れやすくなった理由の一つだ。
筆者も中国ではAlipayHKを用いて決済を行っているが、香港ドルから人民元への両替が不要なのはかなり便利だと感じる。Alipay HK内のミニアプリで深圳をはじめ広東省の地下鉄に乗車できたり、タクシー配車アプリの滴滴出行(DiDi)が利用できたりするのもありがたい。
また、米ドルと連動している香港ドルのレートは対人民元でコロナ禍前と比較して約8%上昇しており、中国本土の物価が以前よりも安く感じられる。
中国本土から香港への入境者は減少傾向
香港から深圳へ北上する一方、中国本土からの香港への観光客は減少している。コロナ前の2018年はのべ約6500万人が香港へ訪れていたが、2023年にはのべ3400万人と半減した。これには複数の要因が考えられる。
かつて香港はブランド品を購入しに来る中国本土からの観光客であふれていたが、人民元安で中国本土の人にとっては香港が割高になっていること、中国の海南島で大規模な免税店がオープンしたことで買い物目的の観光客が海南島に流れたことがまず挙げられる。
さらに香港デモの影響で、観光に来た中国本土の観光客が接客などで冷遇されることが口コミで広まったことや、マレーシアやタイなど東南アジアの国にビザ無しで渡航できるようになったため選択肢が広がり、旅行先が分散したことなどもある(中国本土から香港へ行くには今でも通行証の申請が必要だ)。
中国本土から香港に来なくなり、香港からは深圳に行ってしまうため、週末の香港が空洞化し景気悪化についても叫ばれ始めているのは、香港在住としては悲しいところではあるがしばらくこのトレンドは続きそうだ。
作者:阿生
東京で中華を食べ歩く26歳会社員。早稲田大学在学中に上海・復旦大学に1年間留学し、現地中華にはまる。現在はIT企業に勤める傍ら都内に新しくオープンした中華を食べ歩いている。Twitter:iam_asheng
セミナー情報や最新業界レポートを無料でお届け
メールマガジンに登録