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中国の新エネルギー車(NEV)大手BYD(比亜迪)が2025年中に日本向けのPHEV(プラグインハイブリッド)車種を発表すると明かした。今ではBEV(純電気自動車)よりもPHEVの方が勢いづいているBYDだが、そのPHEV技術の強みとは何なのか。
BYDのPHEV開発の歩み
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BYDの自動車部門「BYDオート」は2003年に誕生、当初は前身である西安秦川汽車の小型車「フライヤー」を引き継いで「BYDフライヤー」として生産していた。その後、初の自社オリジナル車種としてプロトタイプ「316」を完成させるも、各自動車ディーラーからの評判は悪く、「316」の販売計画は白紙となった過去を持つ。仕切り直して2004年に登場したのが8代目トヨタ カローラに酷似した見た目を持つセダン「F3」だ。BYDはF3以外にも、フライヤーをベースとした「F2」や「F4」といったハッチバックも計画していたようだが、結局販売にこぎつけたのはF3のみとなった。
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F3はその安さで瞬く間に人気を獲得、中国車で初めて月間1万台を販売するほどの大ヒットを記録した。登場から3年経った2008年には世界初の量産型PHEV「F3 DM」をリリースし、EVメーカーとしての第一歩を歩み始めた。現在でもBYDのPHEVに付与されている「DM(デュアルモード)」というペットネームはこのモデルが発祥だ。
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2010年には同社初のBEV「e6」を発売、同時期にはメルセデスベンツの親会社「ダイムラー(現・メルセデスベンツ グループ)」と当時にしては珍しいEV専売ブランド「デンツァ(騰勢)」を共同設立した。2010年代のBYDは今日見られるような勢いは無く、販売割合も純ガソリン車が多くを占めていた。
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転機となったのは2020年代以降だ。中国におけるNEV需要の急増に伴い、BYDの販売台数は急拡大した。2010年代中盤では毎年の累計販売台数が40~50万台だったが、2021年には78万台、2022年には179万台、2023年には302万台、2024年には427万台を記録した。
BYDのこの急成長に一役買ったのがPHEVだ。BYDは2022年に純ガソリン車の生産・販売を終了して、完全にNEVメーカーへと転身した。
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BYDの最新PHEV技術「DM-i 5.0」
BYDは2024年5月、最新のPHEVシステム「DM-i 5.0」を発表した。第5世代と位置付けるこのシステムは、エンジン熱効率 46.06%、34.48km/Lの低燃費、そして総合航続距離は2100 kmを誇ると主張する。従来のPHEVシステムと大きく異なるのは、エンジンとモーターの間に動力を切り離すデュアルクラッチが設置されている点だ。同様の仕組みは、BYDとPHEV開発競争を展開する「ジーリー(吉利汽車)」でも採用されており、多様な走行条件に合わせて最適な発電・駆動バランスを形成すると言う。
ちなみに、BYDのPHEVシステムは実は3種類が存在する。燃費重視・前輪駆動の「DM-i」以外に、加速性能重視・四輪駆動の「DM-p」やオフロード向け「DMO」が挙げられる。現在、新型車種はほぼDM-iを採用しており、DM-pの割合は減少傾向にある。なお、DMOはBYDのオフロード車ブランド「方程豹」の各モデルや、ピックアップトラック「シャーク」が採用する方式となる。
日本導入のPHEV車種はどれか?
現在、BYDは「夏」「漢」「唐」「秦L」「秦PLUS」「宋L」「宋Pro」「2代目宋Pro」「宋PLUS」「海豹(シール)05」「海豹06」「海豹07」「海獅(シーライオン)05」「駆逐艦(デストロイヤー)05」「護衛艦(フリゲート)07」の15車種にPHEVを設定し、販売中だ。では、日本市場に投入されるのはどのモデルになるのか?
大型ミニバンー夏
筆者が真っ先に思い浮かべるのが、2024年8月に発表されたばかりの「夏」だ。夏は、全長5145 mm x 全幅1970 mm x 全高1805 mm、ホイールベース3045 mmを誇る大型ミニバンとなる。デンツァD9と類似したデザインだが、D9がBEV/PHEVの両方を設定するのに対し、「夏」はPHEV専用モデルとなるDM-i 5.0を採用し、上位グレードでは容量36.6 kWhのバッテリーを搭載、純電動航続距離(CLTCモード)で180 kmと公表されている。
日本国内のBYDディーラーに話を聞くと、客からの要望としてEVミニバンを求める声は多いとのこと。現在日本で買えるEVミニバンはトヨタのアルファード/ヴェルファイアのPHEVモデルのみだが、価格は1000万円超と非常に高い。一方、夏の最上位モデルは中国で30.98万元(約650万円)で販売されており、日本での価格は700万円台になると予想される。価格面でも競争力があり、日本市場でも注目を集める可能性が高い。
グローバル展開するSUV「宋PLUS」
「夏」以外に個人的に有力視しているのが「宋PLUS」だ。欧州では「シールU」、オセアニアや東南アジアでは「シーライオン6」として販売されているモデルで、パワートレインはPHEVとBEVの2種類を用意する。
先日、日本導入モデル第4弾として純電動SUV「シーライオン7」が発表されたが、わざわざ車格を表す「7」を車名に残しているあたりに、日本でも複数モデルから構成されるシーライオン・ファミリーを形成していく思惑が感じ取れなくもない。そうなった際に「PHEVはシーライオン6、BEVはシーライオン7」というわかりやすいラインナップが可能となるだろう。
なお、宋PLUSのPHEVは1.5L直列4気筒エンジンを搭載するモデルに加え、中国には設定されていないターボモデルも一部の市場で用意されている。例えばオーストラリアでは下位グレードが1.5L自然吸気エンジン+シングルモーターの前輪駆動モデル、上位グレードが1.5Lターボエンジン+デュアルモーターの四輪駆動モデルというラインナップだ。
BYDは1月24日の「BYD 事業方針発表会2025」で、2027年までにBEVとPHEV合わせて7〜8モデル体制を日本市場に構築すると発表している。現時点でのBEV4モデル、そして公約の「毎年最低1車種追加」を踏まえると、今後数年間で少なくとも2車種のPHEVが新たに投入されることを期待したい。
日本向けPHEV第1弾は2025年末に発表予定とのこと。BYDの最新情報が入り次第、36kr Japanで随時更新していくつもりだ。
(文:中国車研究家 加藤ヒロト)
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