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熾烈な国内競争と値下げ合戦などの影響で、2024年もいくつかの中国電気自動車(EV)メーカーが「退場」を余儀なくされている。
愛馳汽車(Aiways)や威馬汽車(WM Motor)、HiPhi(高合)などの新興EVメーカーが経営破綻に陥ったのに続き、かつて新興EV販売ランキングでトップに立った哪吒汽車(Neta)や、吉利汽車(Geely)と百度(バイドゥ)の合弁・極越汽車(Jiyue Auto)も破産の危機に陥っている。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、2018年時点で中国には487社を超える新エネルギー車(NEV)メーカーがあった。それが23年末になると、適正に経営できているメーカーはざっと見積もってもわずか40社ほどしか残っていない。
前半戦:体力のない企業が次々と脱落
中国政府は2010年からNEV向けの補助金政策を打ち出し、産業全体に対する支援を強化していった。一時は自動車メーカーの利益のうち、この補助金が大きな割合を占めていた。例えば、 最大手の比亜迪(BYD)が2018年に取得した補助金は、年間の純利益27.8億元(約600億円)を上回る36億元(約780億円)に上っている。
しかし、補助金は2018年から段階的に縮小され、23年には完全に打ち切られた。この時期を境に、補助金依存で生き残っていた低水準の企業が真っ先に淘汰された。
その後、EV業界の競争は新たな段階を迎える。2020~24年には、中国でNEV乗用車の販売比率が5.4%から初めて50%超えを達成し、市場シェアを約45%伸ばした。ただ、恩恵を受けたのはBYDなどの一部トップ企業に限られ、市場はますます二極化が進んだ。
後半戦:覇権争いから共闘へ
気を抜けば即時敗退の勝ち抜き戦から一転、後半戦では経営統合や提携がメインテーマとなりそうだ。
市場競争がますます激化するなか、リスクを冒して拡大に走るより、社内外のリソース統合や技術共有による競争力強化を目指し始めている。
ここまで勝ち上がってきたメーカーは、いずれも武器となる独自のブランドや技術力を持ち合わせている。各社の実力が拮抗している今の状況では、価格競争を断行したところで自社へのダメージも大きい。むしろ、社内外に協力を求め、技術革新やサプライチェーンの統合を進めることで自社の競争力を高めていくほうが理にかなっている。
1つの方法は、グループの内部構造をシンプル化することだ。例えば吉利汽車は、短期間のうちに、傘下ブランド「極氪(ZEEKR)」と領克「(Lynk&Co)」を統合し、複数ブランドを「銀河(Galaxy)」に吸収合併、ピックアップトラックの「雷達(RADAR)」ブランドをグループ内に吸収するなどの改革を実施した。これにより、グループ内部の競争を緩和できるほか、コスト削減にもつながり、社内リソースのさらなる統合や連携が促される。
ちなみに、5月7日に吉利汽車は極氪を完全子会社化すると発表した。買収完了後、極氪の株式は非公開化され、米上場廃止となる見込みだ。
また、海外メーカーの合弁企業が新たに提携関係を結ぶという方法もある。合弁企業は初期には海外大手の技術力を活用して製品開発を有利に進めてきたが、EVシフトが鮮明な今の時代は、海外老舗メーカーが新エネ車の開発に出遅れたことで、合弁企業の開発効率も大きく低下している。
このため、合弁企業はリソース再編に動き出している。例えば、独アウディと上海汽車(SAIC)が発表した中国市場向けEVの新ブランド「AUDI」は、共同開発したEVプラットフォームを採用し、スマートコックピットや運転支援機能を追加するなど、老舗メーカーの経験と中国の先端技術をうまく組み合わせた事例となっている。
さらに、外部から技術を導入するのも1つの方法だ。スマート機能が新型車に標準搭載されるようになり、多くのメーカーは買収や投資、共同開発などを通じてスマート技術のアップデートを急ピッチで進めている。
独フォルクスワーゲンは小鵬汽車(Xpeng)と技術協力協定を結び、同社の株式も取得、EVと次世代E/Eアーキテクチャ「CEA(China Electrical Architecture)」を共同開発することで同意した。長城汽車(Great Wall Motor)は、自動運転技術を開発するスタートアップ元戎啓行(DeepRoute.ai)と毫末智行(Haomo.AI)に出資したほか、アウディ一汽の新型セダン「A5L」にはファーウェイのスマートカーソリューション「乾崑(Qiankun)」の運転支援システムが導入されている。
もちろん、EV業界では自動運転機能を自社内で開発する動きが主流だが、リソースを統合すれば、迅速かつ低コストでサービスをアップデートできるようになる。主要メーカーではモデルチェンジのサイクルが半年ほどに短縮されていることを考えると、他社と手を組むことには市場の変化にも機敏に対応し、業界で後れを取らないようペースアップするうえで大きなメリットがあるのだ。
命運を分ける製品力と収益力
EV業界では、過酷な競争が今後も続くとの見方が大勢を占めており、メーカー各社は技術や製品、生産能力の面で生き残りをかけた戦いにさらされると予想される。
新興EV御三家と呼ばれる蔚来汽車(NIO)、理想汽車(Li Auto)、小鵬汽車のトップも同じ考えを口にしており、将来的に生き残るNEVメーカーは5~7社だろうと語っている。椅子取りゲーム状態のEV市場で、脱落を回避するために強化すべきポイントはいくつもある。
まず重要なのは製品そのものだ。自動車の購入で決め手となるのは多くの場合「使い勝手のよさ」だろう。単なる交通手段という位置づけではなく、安全かつ快適で、スマート機能の充実したモデルを選びたいと消費者は考える。実際に、高価格帯のモデルでは、運転支援機能の充実度や使用感が重視されるという。
このため、スマート技術でリードしているメーカーは市場で主導権を握ることができる。業界最大の成功者であるBYDですら、激しさを増す競争を乗り切るため、技術力を絶えず強化することに力を注いでいる。24年11月に、スマート技術の向上のために今後1000億元(約2兆1500億円)を投じることを発表し、将来的にグローバル市場における発言権を獲得する考えを明らかにした。
また、人工知能(AI)や大規模言語モデル(LLM)の登場で、自動運転にAIを活用するという新たな技術的アプローチが生まれ、自動運転システムのデータ処理や意思決定能力が向上したほか、技術コストの削減にもつながっている。
自動車メーカーが強化すべき別のポイントは、生産から販売、納車に至るプロセスの能力と安定性だ。人気車種があれば良いというわけではなく、人気車種の確実な納車を支える生産体制や収益構造が必要になる。
小鵬汽車の何小鵬CEOは、今後の10年に勝ち抜き戦の最終段階に進めるのは、AIを搭載した自動車を年間100万台販売できる企業だけだと語ったことがある。しかし現時点で、この基準に達している企業はBYDだけだ。
2024年中に相次いで大ヒットモデルを売り出したシャオミと小鵬汽車は、いずれも生産能力の不足に頭を痛めている。逆に、合弁企業の多くは生産能力が過剰で、深刻なケースだと稼働率がわずか38%にとどまっている。つまり、業界内では販売台数に見合った生産能力を確立することができていないのだ。
しかも、複数の新エネ車メーカーは最近になってようやく「売れば売るほど赤字」の状況を脱したばかりだ。開発やマーケティングなどに多額の費用を投じているため、蔚来汽車や小鵬汽車、零跑汽車(Leapmotor)など新興EVのトップメーカーですら依然として黒字転換できていない。2024年通年の各社の損失額は、蔚来汽車が224億元(約4700億円)、小鵬汽車が57億9000万元(約1200億円)、零跑汽車は28億2000万元(約590億円)だった。
こうした状況を受け、EV業界では「赤字の縮小」と「生き残り」を最優先目標に掲げ、スケールメリットによる生産能力拡大と技術改良によるコスト削減が進められてきた。メーカー各社は、価格と技術の分野でそれぞれ工夫を凝らし、低価格モデルやレンジエクステンダー搭載車を続々と打ち出してきた。
EV市場で各社が競い合っている市場シェアや販売台数は、結局のところ企業が管理体制を自ら変革していくプロセスの反映であり、それには生産システムやサプライチェーン管理、マーケティング戦略など多方面にわたるシステムが関係している。
大きな変革を遂げることができれば、業界での発言権が増し、市場競争でも有利な位置を占めることができる。逆に販売台数を伸ばせないなら、市場での影響力は次第に弱まり、最終的には落後者になってしまうことだろう。
*1元=約21円で計算しています。
(翻訳・畠中裕子)
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