AR試着アプリ「Intoo」、質感やフィット感まで再現 返品率40%減

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中国は2016年以降、VR(仮想現実)およびAR(拡張現実)業界の発展を支える政策を相次いで打ち出している。工業情報化部は2018年12月に「仮想現実産業の発展加速に関する指導意見」を発表し、コア技術、プロダクト供給、実用化、プラットフォーム構築、規格制定などVR産業発展の重要任務を設定。また「第14次5カ年計画(十四五)」でも、VRとARは向こう5年間のデジタル経済の重要産業に位置付けられた。

工業情報化部傘下の市場調査会社「賽迪顧問(CCID)」によると、中国のVR・AR業界は2020年の市場規模が413億5000万元(約7400億円)で、前年に比べ46%増えた。技術進歩に伴って各分野でVRとARの応用が進み、2023年には市場規模が1000億元(約1兆8000億円)を超える見通しだ。

2016年に設立された「英領之途信息科技(Intoo)」はハードウェアとソフトウェアを組み合わせたARプロダクトを開発し、AR産業のエコシステム構築を目指している。企業向けに自動車、産業用リモートメンテナンス、展示場デジタル化改修などARベースのカスタマイズサービスを提供。消費者向けにも仮想試着、ポータブルARディスプレイ「社交魔方(Entertainment Cube)」、ゲーム機、腕時計など10種類以上のARプロダクトを開発している。

ARエコシステムの構築を目指す英領之途

創業者の黄陽之CEOは、「設立当初に企業向けのARグラスや産業用リモートメンテナンスシステムを開発した」と説明。「同時にソフトウェアとハードウェアの開発チームをつくり、研究開発の重点を消費者向けに移しながらARを使った仮想試着システムを開発した。ユーザーはスマホやタブレットを使って、現実世界のユーザーに仮想の衣服を着せられる」という。

従来のオンラインショッピングではモデルが商品を着用した画像しか見られないため、購入後のユーザーが商品に満足感を得られないことがあり、返品するにも時間がかかるという「悪循環」があった。また、既存の仮想試着アプリは開発コストが高い上に利用シーンも限られ、顧客体験が劣るといった課題がある。

英領之途はSLAM(自己位置推定・環境地図作成)、ニューラルネットワークのトレーニグ、3Dのテクスチャー(質感)認識などのさまざまな技術を駆使して仮想の衣服と身体を合わせることで、実際に試着する時と同じような効果を最大限に再現した。

仮想試着アプリのシミュレーター機能

素材の質感や着用時のフィット感までがリアルに再現できるほか、ユーザーは360度のさまざま角度から見え方を確認できる。さらに商品を自由にコーディネートして友だちと共有することも可能だ。同アプリは現実世界での衣服購入体験を再現すると同時に試着や衣服購入の新しい遊び方を生み出した。

一方、AR仮想試着システムの導入によって返品率が40%減り、ユーザーの粘着性も70%上がることで販売者は純利益を4倍に増やせるという。

黄CEOは、AR仮想試着システムを通じて女性ユーザーの獲得を目指した。今後リリース予定のプロダクトで、女性ユーザーに男性ユーザーとコミュニケーションをとってもらうことや、家族単位の消費活動では女性が決定権を握る場合が比較的多いため、やはり重要なユーザーになると想定している。

社交魔方

次世代プロダクトとして開発を進めている社交魔方は六面体のARディスプレイで、展開すれば大きなディスプレイとなるほか、折り畳むことも複数のディスプレイを同時に操作することもできるという。

展開自在の社交魔方

今後はこれまでに蓄積した技術を生かしてライトフィールドディスプレイ(裸眼で実物を見ているかのようなリアルで立体的な映像を表示するディスプレイ)用チップを独自開発し、自社施設での量産化を目指す。また、同社が開発したソフトウェアでは、コンピュータビジョンとIMU(慣性計測装置)の融合したアルゴリズムがさまざまなインタラクションや位置情報システムに使われている。将来的にはエンターテイメント、ゲーム、プロダクトプレイスメント(ドラマや映画内での商品宣伝)などが事業成長の柱となる見通しだ。

同社はこれまでに米大手VCのPlug and Playや中国大手アクセラレーター「奇績創壇(MiraclePlus)」から資金を調達し、30件以上の特許を保有している。黄CEOは英インペリアル・カレッジ・ロンドンの大学院でコンピューター学科を修了、中国では早くから消費者向けARの研究者として活躍し、米経済紙フォーブスの「30 UNDER 30 CHINA 2018(中国で活躍する30歳未満の30人)」などに選出された。

また、同社は無錫市政府と業界団体の支援でメタバース産業創業拠点を設立。年末には起業コンテストを開催し、XR(クロスリアリティ。VR・AR・MRなどの仮想空間と物理空間の融合技術)分野のスタートアップ企業をサポートしながら共に事業成長を目指すという。
(翻訳・神戸三四郎)

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