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高額な医療費がかかる疾病に自分自身や家族がかかった場合、治療費の捻出は頭の痛い問題だ。中国では、クラウドファンディングで治療費を募る専門のプラットフォームが複数誕生している。
そのうちの一つが、医療費に特化したクラウドファンディングサービス「軽松筹(QFund)」だ。専用のミニプログラムを使い、カルテや戸籍謄本などの資料を揃えて募集を申請すると1週間ほどで審査が終了し、微信(WeChat)などのSNSを通じて募集記事が拡散される仕組みだ。ある利用者に聞くと、募集開始後約1週間で目標金額をほぼ達成し、利用手数料は2018年前半時点で調達額の1%未満だったという。
運営元の「軽松筹網絡科技(Qingsongchou Netwerk Technology)」は、高額医療費の互助コミュニティ「軽松互助」も傘下に持つ。加入者は10元(約160円)の互助金を支払えば、重大疾病に罹患した場合、年間で最大30万元(約480万円)を積み立てられた互助金から受け取れる。
軽松互助も、競合他社の「水滴(Waterdrop)」が運営する同様のプラットフォーム「水滴互助」も、利用手数料を徴収しない。しかし、無料であるからといって、こうしたサービスが商機と無縁とは限らない。
公益事業を顧客獲得の入り口に
軽松筹網絡科技と水滴の両社は、クラウドファンディングサービスと医療費互助コミュニティ以外に、既存の医療保険商品を扱うインターネット保険プラットフォームも手掛けている。前者は「軽松e保」、後者は「水滴保」として運営されている。
公益性を押し出してはいるものの、こうした医療費互助プラットフォームは、健康不安を抱えるターゲットユーザーを数多く呼び込むことに成功している。同時に、保障が厚い魅力的な低額保険商品を提案している。入り口は公益目的でも、収益化への道筋がついているのだ。
軽松e保、水滴保の両者はともに保険代理業者として、他社の既存商品を取り扱っている。水滴保は「中国平安保険(PING AN INSURANCE)」、「泰康人寿保険(TAIKANG LIFE INSURANCE)」、「衆安在線財産保険(ZhongAn Online P&C Insurance)」など数十社と提携している。
低額で保障の充実した保険商品は当然、よく売れる。水滴保が取扱うある医療保険商品では、年間136元(約2200円)で最高600万元(約9600万円)の医療費が保障される。軽松e保が販売する商品も、価格や内容はこれと同等だ。その結果、水滴筹の登録ユーザー3億6000万人のうち1000万人が、軽松筹登録ユーザー2億人のうち500万人が、保険商品を購入している。
一方、大手の中国平安保険が販売する重大疾病プランは年間145元(約2300円)で医療保障が50万元(約800万円)なので、前出の商品に比べ保障額が大きく下がる。
低額で加入手続きも簡単なネット保険商品は、とくに地方都市で歓迎されている。水滴の創業者兼CEO沈鵬氏によると、今年3月時点で水滴筹ユーザーの76%、水滴互助ユーザーの77%が三~五級都市在住者だという。
医療費互助を入り口とした手法は、EC大手・京東集団(JD.com)傘下の「京東金融(JD Finance)」やライドシェア大手・滴滴出行(Didi Chuxing)の金融事業部門も追随している。また、軽松筹にはテンセント(騰訊)が、水滴筹には生活関連O2Oの美団点評(Meituan-Dianping)がそれぞれ複数回の出資を行っており、同分野は超大手IT企業の代理戦争といった様相を呈している。
黒字化への長い道のり
軽松e保、水滴保の両者とも大手保険会社の商品を取り扱っているため、リスク面では安心だが、収益面で見ると疑問が残る。
治療費専門のクラウドファンディングなどを経由して保険に加入するということは、保険者本人や近親者が重大疾病の経験者だということだ。彼らが両者の保険商品を購入する理由は、従来型の保険会社が設定する保障額を上回っているからだと考えられる。しかし、低額な保険料は保険会社にとって収益が削られることを意味する。まして、両者は保険会社ではないため、コミッションで利益を得る可能性を探るより方法はないだろう。
保険アドバイザーの王建京氏は、クラウドファンディングや治療費の互助コミュニティの存在意義について、「多くの人の保険に対する意識を高める役割」と定義する。こうしたプラットフォームの利用経験者は次のステップとして、本格的に保険商品の購入に進むと考えられている。こうした事業形態は、保険会社にとっては末端市場の開拓手段として、大手IT企業にとっては新たな保険事業スキームの実験台として位置付けられているといっていいだろう。
今年3月、水滴はテンセントなどが主導するシリーズBで5億元(約80億円)を調達した。沈鵬氏は「今後5年は赤字が続くだろう」としており、収益化にはまだ長い道のりが残されている。
(翻訳・愛玉)
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