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米自動車大手フォード・モーターは2月13日、35億ドル(約4800億円)を投じて米ミシガン州にEV(電気自動車)向けバッテリー製造工場を建設すると発表した。フォード初のリン酸鉄リチウムイオン電池の工場となる。最大の特徴は、フォードの100%出資でありながら、製造技術は中国バッテリー大手「CATL(寧徳時代)」が提供することだ。フォードはバッテリーセルと自動車への搭載作業を担当する。
新工場は2026年に稼働する予定で、生産能力は年間35GWh(ギガワット時)、フォード社のEV 40万台分に相当するバッテリーを供給できるほか、2500人分の雇用を生み出す。
フォードは同工場が本格稼働する前、今年と来年にも北米市場向けの電動SUV「マスタング・マッハE」と電動ピックアップ「F-150ライトニング」で、CATLのリン酸鉄リチウムイオン電池のオプションを選べるようにするという。
フォードはこれまでに、「LGエナジーソリューション」と「SKオン」という韓国のバッテリーメーカーと提携してきたが、この2社が扱うのはコストの高い三元系リチウムイオン電池だった。フォードはリン酸鉄系のリチウムイオン電池を導入することで、26年までにEV化事業の利益率8%という目標達成を後押ししたい考えだ。
こうして、CATLはついに米国のバッテリー市場への参入ルートを見いだした。
昨年、米国でインフレ抑制法(IRA)が成立したことにより、自国のバッテリー産業チェーンを保護する目的で海外メーカーの米国市場参入のハードルが上がった。CATLもこの影響をまともに受け、米国に工場を建設するという計画は暗礁に乗り上げた。
法案が発表された後、一部の日韓バッテリーメーカーは米国への進出を変えなかったが、米中関係が冷え込むなかで中国企業が米国に工場を建設することは、一定のリスクを抱え込むことになる。フォードが出資し、CATLが技術提供するという提携方式により、CATLに米国市場を開拓するチャンスが訪れた。両社の新しい提携方式なら前述の規制を回避できると考える外国メディアもある。
とはいえ困難が全て解消されたわけではない。
バッテリー業界の関係者によると、技術提供という提携方式に基づき、CATLは現地でフォードの技術者を育成する必要が生じるとみられる。技術を提供するだけでは、CATLが得意とする大規模生産やサプライチェーンの緻密なコントロールといった優位性を十分に発揮することはできない。自社工場を建設してバッテリーを販売するのに比べれば、利益ははるかに少なくなる。
またコア技術を提供することで、中国のバッテリーメーカーにもデータ共有のリスクが及ぶことになる。例えば、ゼネラルモーターズはバッテリーの安全性確保を理由に、安定性に直結するバッテリー出力に関わる実験データを提供するようLGエナジーソリューションに求めたことがある。フォードもSKオンとのバッテリープロジェクト合弁協議の際に、バッテリー密度に関わる技術の提供を求めている。CATLとフォードの技術提携でも、国家レベルのコンプライアンス要件に関わってくる可能性がある。
米国市場を開拓するというのは大きな野望だが、規制の隙を突いて切り込むのもCATLにとっては現実的なことだ。実際、中国のバッテリーメーカーが海外市場に向かうのは当然の流れといえる。
中国の新エネルギー車販売台数は22年に前年比93.4%増の688万7000台となったが、市場の飽和状態と減速の兆しはすでに見え始めている。今年1月、中国の新エネルギー車の販売台数は40万8000台で、前月比49.9%の減少となり、駆動用バッテリー搭載車では同55.4%減少した。このため、バッテリーメーカーにとって世界市場の開拓が重要課題となっている。
CATLは米国に進出する前に、欧州や東南アジアでも工場建設を進めてきた。今年1月にはドイツ中部にあるバッテリー工場が正式に稼働し、中国以外に開設した最初の工場となった。
このほか国軒高科(Guoxuan High-Tech)、億緯鋰能(EVE Energy)、蜂巣能源(SVOLT)、遠景動力(エンビジョンAESC)などの中国バッテリーメーカーが、駆動用バッテリーとエネルギー貯蔵という2本柱で積極的な海外展開を進めている。国内で激しい競争を勝ち抜いてきた中国メーカーが、世界市場でもさらなる競争を繰り広げていくに違いない。
(翻訳・畠中裕子)
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