中国なしではコスト6倍——テスラ人型ロボットを陰で支えるサプライヤーたちの正体
中国上海市で開催された家電見本市「AWE 2026」で、米EV大手テスラが開発する人型ロボット(ヒューマノイド)「オプティマス(Optimus)」の第3世代モデルが公開され、イーロン・マスク氏が掲げる「年間100万台の量産」が現実味を帯びてきた。これに伴い、その背後にあるサプライチェーンにも注目が集まっている。直近では、中国のサプライヤー5社がタイに工場を建設する動きが報じられ、テスラの人型ロボット量産を支えるサプライチェーンの存在が初めて浮き彫りになった。
サプライチェーン企業が続々と海外へ
タイ現地メディアは今年2月、タイ投資委員会(BOI)が中国企業5社のタイにおける工場建設を承認したと報じた。対象企業は新剣機伝動(Seenpin)、貝特科技(Beite Technology)、三花智控(Sanhua Intelligent Controls)、拓普集団(Tuopu Group)、旭升集団(Xusheng Group)で、人型ロボットのフレームや関節、アーム・指の制御システムの生産を担う。主な供給先はテスラのほか、アップルやサムスン、ファーウェイといった大手テック企業とされている。
企業リストを見ると、各社が担う役割は明確だ。三花智控はアクチュエーターを生産し、ロボットの「筋肉」に相当する動力を提供する。拓普集団は関節モジュールやアクチュエーターなどを手がけ、ロボットの「骨格」をつなぐ役割を担う。旭升集団は関節などの部品を提供し、新剣伝動と貝特科技はロボットの精密な動きを支える遊星ローラーねじを生産する。
自動車産業からロボット分野へ
これらの企業の多くは、EV分野でテスラと長年協業してきた実績を持つ。人型ロボットのブーム到来を機に、精密製造分野で培ってきた技術を生かし、首尾よくロボットの主要部品サプライチェーンへの参入を果たした格好だ。
なかでも三花智控に対する市場の注目度は高い。テスラの主要サプライヤーとしての実績から、オプティマス向けのアクチュエーターを供給するとの見方が広がっている。同社は公式に認めていないものの、こうしたうわさは幾度も株価に影響を与えてきた。2025年上半期には、ロボット開発企業と連携しながら、全製品の開発、試作、サンプル提供を進めた。
同じくテスラの主要サプライヤーである拓普集団は、2016年からEV向けにシャシーを供給している。23年には電気駆動事業部を立ち上げ、ロボット分野に参入。アクチュエーターやセンサー、電子スキンなどを手がけ、すでに顧客に対し複数回のサンプル提供を行っている。
旭升集団はアルミ合金の成形技術を強みに、オプティマスの関節や骨格部品を生産する見込みだ。すでに、国内外の主要ロボット企業と提携を結んでいるという。
新剣伝動は前述の3社とは異なり、テスラの自動車向けサプライヤーではなかったものの、早くからオプティマスのサプライチェーンに組み込まれている。主力製品の遊星ローラーねじは、ロボットの腕や脚に不可欠な部品だ。2025年には年産100万本規模の量産プロジェクトを始動させており、すでに上場に向けた事前指導の段階に入っている。
長盈精密(Everwin Precision)や藍思科技(Lens Technology)といったテスラの長年のサプライヤーも、オプティマスの潜在的なサプライヤーとみられている。長盈精密は2025年に人型ロボット向け精密部品を約69万点納入した実績があり、藍思科技も関節モジュールやロボットハンドなど主要部品の量産・納品を実現している。
決め手はコストと製造能力
人型ロボットのアクチュエーターやねじといった部品は、EVの電気駆動システムと技術的な共通点が多く、自動車産業のサプライヤーがロボット分野へと移行するのは、極めて自然な流れといえる。
とはいえ、より本質的な理由はコストと製造能力だ。マスク氏はかつて、人型ロボット分野で最大の競合相手は中国勢だと明言した。調査会社ベイン・アンド・カンパニーによると、人型ロボット分野では、製造能力および主要部品の生産技術の50~70%を中国企業が握っているという。また、モルガン・スタンレーは、中国のサプライチェーン抜きでは、オプティマスのコストは13万1000ドル(約2100万円)まで跳ね上がり、2万ドル(約320万円)という目標をはるかに上回ると試算している。
ゴールドマン・サックスなどの調査では、現時点でサプライヤーの多くが生産能力の計画やサンプル提供の段階にあり、確実な大規模受注は獲得していないとされる。それでも、中国のサプライヤーはこの商機を逃すまいとしており、テスラも米アップルの成功モデルを再現するサプライチェーンの構築を模索している。
「オプティマス・チェーン」はすでに準備が整っており、あとは量産に踏み切るのを待つのみだ。マスク氏の計画によれば、そのタイミングは2026年内に訪れるという。
*1ドル=約159円で計算しています。
(翻訳・畠中裕子)