ARグラスに「フルカラー」。中国Saphluxが約70億円調達、マイクロOLEDの5倍の光学効率を武器に
AR(拡張現実)デバイス向けディスプレーを手がける「賽富楽斯(Saphlux)」がこのほど、シリーズCで3億元(約70億円)を調達した。出資者は、西安西高投繁星投資基金や無錫市梁渓科創産業投資二期基金、安徽金安産業引導基金など。資金は主に、AR向けフルカラーマイクロディスプレーの量産出荷に充てられる。
Saphluxは2017年設立。米イエール大学の研究所から誕生した半導体企業として、複数の独自技術を生かしてマイクロLEDディスプレー分野に注力してきた。AR向けマイクロディスプレーとXR(クロスリアリティ)向け大画面ディスプレーの2分野をカバーする製品マトリクスを構築し、ビジネス展開を推し進めている。
創業者兼最高経営責任者(CEO)の陳辰氏は、清華大学で機械工学を学び、米ハーバード大学でポストドクター研究員を務め、イエール大学で経営学修士号(MBA)を取得。米石油サービス大手シュルンベルジェではゼロからの製品開発を主導した。共同創業者兼最高技術責任者(CTO)の宋傑氏は、化合物半導体材料およびデバイスプロセスの開発に20年近く携わった経験を持つ。
業界では一般的な一点突破型の技術アプローチとは異なり、Saphluxはエピタキシャル材料からチップ製造、光電融合まで広くカバーする技術システムを作り上げた。また、大面積シリコン基板(ウエハー)接合やエピタキシャル成長、量子ドット色変換などの中核技術を自社開発し、整備された技術プラットフォームと事業化能力を確立している。同社初となる6インチウエハーを用いたマイクロLEDの生産ラインではすでに量産が始まっており、12インチ用の生産ライン建設も進んでいる。
現在市場で主流となっているARグラスは、依然として単色表示がメインだ。赤・緑・青の3色を1枚のチップに統合してフルカラー化するのは難しく、業界の課題の一つとなっている。
Saphluxは独自開発した技術により、大面積ウエハーを用いたマイクロLED上で、その場(in-situ)形成された量子ドットの色変換を実現。従来のソリューションの課題だった赤色光の効率の低さやバラツキ、歩留まりの低さなどを根本的に回避することに成功した。この独自技術と反射型光学ソリューションを組み合わせたことで、同社のフルカラーディスプレーはサイズ・性能・コスト・量産性の全ての面で大きな優位性を発揮できるようになった。
「米メタのフルカラーマイクロディスプレー搭載グラス『Ray-Ban Display』が登場したことで、反射型光学ソリューションの大規模導入が進み、フルカラー導波路(ウエーブガイド)の光学効率は1000nits/lmから5000nits/lmに向上した。この変化によってARマイクロディスプレーに求められる輝度は大幅に下がり、従来の100万nitsから20万nits未満にまで低減した。デバイスへの導入も加速しており、フルカラーマイクロOLEDを搭載したウエーブガイド式ARグラスもすでに複数登場している」と陳CEOは話す。
この傾向が、フルカラーマイクロLEDディスプレーの普及を大きく後押ししている。Saphluxのフルカラー製品「T3-0.13」は、フルカラーマイクロOLEDと比べても光学効率が約5倍、輝度も10倍以上に向上した。使用時の輝度も1000nits未満から約5000nitsに向上しており、屋外でのARグラス使用にも耐えられる。
「T3-0.13」の実際の画面(画像は「Saphlux」提供)
XR向け大画面の分野では、量子ドット技術とCOB(Chip on Board)技術を組み合わせた直視型ディスプレーを初めて開発し、光励起量子ドット直視型ディスプレーに関する業界基準の策定を主導した。製品はすでに大量出荷を実現し、世界40社近くに提供されている。
「QD(量子ドット)COBディスプレー」のイメージ図(画像は「Saphlux」提供)
Saphluxは「中核技術の自社開発と製造委託」を組み合わせた軽資産モデルを採用しており、自社の生産ラインで研究開発と小規模生産を進めると同時に、化合物半導体ウエハーの受託工場と提携して大規模生産を実現している。陝西省西安市には6インチウエハーを用いたディスプレーの生産ラインに加え、提携先の受託工場があり、年産能力は合計で500万枚を超える。
業績面では2025年に事業化のターニングポイントを迎えた。同年4月に大量出荷を開始し、5月には単月の売上高が1000万元(約2億3000万円)を突破、通年の売上高は1億元(約23億円)に迫った。26年はARマイクロディスプレーの需要増と量産拡大により、通年の売上高が約3億元(約70億円)になる見込みだ。
今後は3つの分野で重点的な取り組みを進める方針だという。まず、フルカラーマイクロディスプレーの色・リフレッシュレート・解像度を引き続き向上させ、フルカラーARグラスの表示性能を最適化する。次に、マイクロLEDを光通信分野に応用し、その高速発光材料としての特性を生かして、AIデータセンターの伝送による消費電力削減を目指す。さらに、出荷能力を強化し、エンドユーザーの需要増に対応していく。
陳CEOは「独自技術の実用化は時間がかかるうえに難易度も高いが、一度成功すればその爆発力は極めて大きい」としたうえで、より多くの企業が独自開発を貫き、ブレイクスルーを成し遂げてほしいと語った。
*1元=約23円で計算しています。
(翻訳・田村広子)