アリババ傘下のネット銀行「網商銀行」 低利益でもよい理由

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アリババ傘下のネット銀行「網商銀行」 低利益でもよい理由

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中国初の民間銀行の一つであり、新興インターネット銀行の代表格である「網商銀行(MYBank)」は、アリババグループが運営する金融サービス企業「アント・フィナンシャル(螞蟻金服)」の傘下にあり、主に中小・零細企業向けの小口融資事業に携わっている。ネット銀行としてアプローチは大きく異なるものの、テンセント系列の「微衆銀行(WeBank)」と双璧をなす存在だ。

網商銀行の昨年の売上高は62億8400万元(約1000億円)で、純利益は6億7100万元(約110億円)。微衆銀行の売上高は100億元(約1600億円)、純利益は24億7400万元(約390億円)と、網商銀行は数字上では水を開けられている。しかし、薄い利益で運営するという事業スキームは、網商銀行が意図的に進めている戦略だ。

不良債権率も度外視の運営

網商銀行の董事長でアント・フィナンシャルの総裁も兼任する胡暁明氏は、同行は創業からの4年間で、1746万社の零細企業に対して累計3兆元(約47兆5000億円)の融資を行ってきたと明かしている。中国の四大銀行に数えられる国有銀行の中国工商銀行(ICBC)は、昨年1年間の融資残高が1兆3800億元(約21兆8000億円)だったことから考えると、網商銀行の事業規模はすでに小さいものとはいえない。

胡氏は、同行が昨年、金利を1.2ポイント下げたことに言及し、「多くの中小・零細企業が融資を受ける際の負担を軽減したい」と述べている。

しかし、昨年の決算報告書によると、同行の売上高で73.6%を占めているのは利息収入であり、金利を引き下げればすぐさま収益に影響してくる。しかも、収益にリスク要素をもたらす不良債権率などについても、同行は鷹揚な構えをみせる。創業した2015年、同行の不良債権率はわずか0.18%だったが、その後3年連続で上昇し、2018年には1.3%に達した。それでも既存の銀行からすれば比較的低い数値に抑えられており、胡氏も「不良債権率は5%まで許容範囲内」としている。

利益は「少しでいい」

胡董事長と金暁龍頭取はしばしば「零細企業のために」という言葉を公の場で口にする。これは、同行が「ローエンド市場」、いわゆる四~六級都市といった地方の小都市や農村にターゲットを絞り込んでいることを意味する。

網商銀行の継続的な発展を支えるのは、データに依拠したフィンテックだ。従業員はわずか800人あまりで、うち7割以上が技術者だという。アント・フィナンシャルが積み上げてきた顧客データを基に、AI(人工知能)で与信を行うことでリスクを回避できるため、無担保での貸し付けも可能になる。

また、一般的なリテールバンクと異なり、同行は店舗を一切持たないため、大幅な運営コスト圧縮にも成功している。さらに、昨年の顧客1人当たりの融資残高は2万6000元(約40万円)と少なく、これもリスク分散にひと役買っている。

低コストと小口融資。この2点が、低利率でも収益を上げられる理由だ。

もちろん、事業であるからには収益を軽視するわけにはいかない。胡董事長はこの点を強調しながらも、薄い利益を維持することで事業を健全に保つことができると説明する。

アリババ生態系の潤滑油

開業当初はアリババのEコマース事業に紐づけられた銀行だと考えられていたが、実際の業務はEコマース事業者向けに留まらない。むしろ、現在では露天商や小規模商店など、QRコード決済を導入しているオフライン事業者向けに軸足を移している。こうした事業者を中国では「碼商」と呼んでいるが、網商銀行は、こうした「碼商」が中国全土に1億以上は存在すると踏んでいる。

こうした小規模事業者向けに信用貸付を行うには、既存銀行ではコストがかかりすぎる。インターネット金融の登場により小口融資も普及したものの、時には金利が20%を超えるケースもある。網商銀行は昨年第4四半期時点でこれを11.8%にまで抑えている。

結果、創業当初は「3年で3000万業者」を集客の目標としていたが、わずか1年でその60%近くを達成した。

また、同行は、アリババグループが形成するエコシステムの随所で潤滑油の役割も果たしている。例えば、アリババが運営する次世代スーパー「盒馬鮮生(Hema Fresh)」のサプライヤー企業は、運営維持のための信用貸付を必要としているが、網商銀行はこうした企業向けに在庫担保融資やファクタリングなどを提供できるのだ。

アリババのエコシステム内では、このほかにも自動車販売や物流、農村向け信用貸付などの事業で網商銀行が力を発揮できる。アリババ、あるいはアント・フィナンシャルのエコシステムを束ねることで、相乗効果が生まれている。

海外の傘下企業にも移植へ

アント・フィナンシャル董事長兼CEOの井賢棟氏は先月、網商銀行の「310モデル(3分で申請、1秒で融資、対応スタッフ0人)」がパキスタンの電子マネー「Easypaisa」で採用されたと述べた。将来的には東南アジアやインドにも進出するという。

これは、海外にまで拡大しているアリババエコシステムをサポートするものであり、海外の傘下事業でも同行の事業モデルを転用するものだ。アリババは、東南アジアの大手EC「Lazada」「Tokopedia」「Paytm」に出資している。これらの背後には無数の小規模出店業者がいるのだ。

胡董事長によると、網商銀行はさらに他行へ技術を開放し、多くの中小金融機関のとりまとめにも動いていく。

金融のローエンド市場を開拓し、アリババのエコシステムに貢献し、事業スキームを対外開放していく同行は、すでに既存の銀行が果たす役割を超越しているようにもみえる。
(翻訳・愛玉)

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