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去年9月、インターネットコンテンツの制作と開発を手掛ける「米未伝媒(MEWE)」の牟頔CCOは決断を迫られていた。2つの新規プロジェクト案から1つを選択しなければならなかったのだ。1つはMEWEが得意とするお笑い番組、もう1つは全く未知の領域である音楽番組だった。
この時、何故か牟CCOは音楽番組を選び、その決断によって、大人気音楽番組『楽隊的夏天(The Big Band)』(=バンドの夏)が生まれた。中国最大の動画サイト「iQIYI(愛奇芸)」上で配信されるこの番組がきっかけで人気に火が付いたバンドユニットも多く、その代表とも言える「刺猬(Hedgehog)」は、今年中国で全国ツアーの開催が決定している。ほかにも、全国11か所を巡る「皇后皮箱(QueenSuitcase)」のツアーは、すでにチケットが完売したという。
ロックバンドと大衆文化
96年に結成したロックバンド「新褲子(New Pants)」のボーカル彭磊氏は、『バンドの夏』第1ラウンドの出演が終わった後に、「ロックバンドの人気はもう終わったと思っていたが、まだこんなに影響力が残っていたなんて」と感極まった。
中国ポップミュージックの歴史の中で、ロックバンドが脚光を浴びたのは90年代だと言われる。しかし、94年に香港コロシアムで行われたロックコンサートを最後に、ロックバンドは大衆に注目されなくなり、マイノリティ文化へと変わっていった。
これまでも音楽バラエティ番組にロックバンドを取り入れようとする動きはあったが、ロックバンドの強い個性と番組の大衆性の間には越えがたい壁があるようで、実現には至らなかった。
しかし、ヒップホップやストリートダンスといった若者文化さえもバラエティ化される中で、ロックバンドは取り残された貴重な「金脈」の1つになっている。強烈な個性をもつメンバーは天然のエンターテインメント材料であり、しかも、バンドの成長過程からは「物語」が生まれやすい。牟CCOは「我々が何かを作り出した訳ではない。彼らのエネルギーは最初から存在していたものだ」と語っている。市場でまだ爆発的な人気を集めているわけではないが、その人気は少しずつ広がっている。
中国の特殊な音楽市場
音楽レーベル「摩登天空(Modern Sky)」創業者である沈黎暉氏は、「ロックバンドがビジネスとして成功しないとすれば、芸術性が足りないことが原因だ」と語る。ピンク・フロイド、ビートルズ、U2等のトップバンドを例に挙げ、「彼らは2、3世代にわたって愛されており、彼らの楽曲が1番売れる」と語った。
しかし、中国の特殊な音楽市場では、アーティストは単純に楽曲とパフォーマンスだけでは生活できず、様々な職業で生計を立てることを余儀なくされる。こうした環境の中、『バンドの夏』はロックバンドにとって、大衆に広く認知され、世の中に自分を売り込むための新たな選択である。
牟CCOは「会社の戦略においては、大きな反省点が見つかった」と語る。一度はショートムービー分野を試みたが、すぐにショートムービーやMCN(マルチチャンネルネットワーク)ではなく、長編動画のトップコンテンツこそ自分たちの強みだと判断し、方向転換したという。今年、中国コンテンツ産業の市場環境が悪化しており、競合他社に負けない自社の強みを打ち出す必要性が生じている。
オリジナル楽曲に人気
近年は、中国もライブハウスの数が増加しているという。小さなライブハウスから、音楽レーベル会社に依存しない独立したバンドユニットが数多く生まれた。音楽配信サイトの競争が落ち着くにつれて、トップコンテンツは各社で配信できるようになった。これにより各サイトは独自コンテンツに力を入れるようになり、独立したバンドユニットのオリジナル楽曲が人気を呼びつつある。
音楽番組にもその傾向がはっきりと見て取れる。音色や歌声の良さを競い合う番組が減り、「自分の歌を歌う」ことに重きを置く番組が増えている。『バンドの夏』を含め、現在人気の音楽番組は全てオリジナル楽曲を扱っている。
『バンドの夏』はこうした時代の流れに沿い、さらにロックバンドを大きく前進させることに成功した。『バンドの夏』により中国のオリジナル音楽市場の可能性は大きく広がった。とはいえ単なる1つの音楽番組に音楽産業全体を担うほどの力はない。
今後は『バンドの夏』を盛り上げたミュージシャン達が、中国の音楽シーンを変えていくことに期待したい。
(翻訳・桃紅柳緑)
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