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中国の自動車市場で電動化や知能化が急速に進む中、日本の大手総合化学メーカー旭化成の「深圳共創センター」(広東省深圳市前海深港現代サービス業協力区に2023年3月設立)が注目を集めている。100年以上の歴史を持ち、化学・医薬・電子などの分野でグローバル産業チェーンの上流を担ってきた旭化成が、従来の一方的なイノベーションモデルを転換。現地の自動車メーカーなどとの同一施設での「共創」を通じ、急速に進化する中国市場のニーズに対応している。
深圳市は電子情報産業や電気自動車(EV)産業で中国トップレベルにある。旭化成グループで半導体事業を手がける旭化成エレクトロニクス(AKM)は、センサーやアナログ信号処理、アルゴリズムなどのコア技術を有し、電子部品分野で長年にわたり深圳市場の重要なサプライヤーとなってきた。
中国では現在、EV産業が爆発的に成長し、巨大な市場ニーズが生まれている。旭化成が深圳共創センターを設立したのは、既存のビジネスモデルでは顧客のニーズを満たせなくなったと判断し、戦略転換を図るためだという。旭化成電子科技(上海)深圳分公司の張北平高級総監は「これまでの一方的なサプライモデルを転換し、より多くのパートナーとともに、自分たちのビジネスに資する新たな価値を共に創造する必要があった」と指摘する。
同センターを訪れた企業はすでに90社を超え、月平均20回以上の技術ディスカッションが行われている。顧客や第三者企業との深い交流は技術の進化と開発を促している。張氏は「共創ラボを立ち上げ、車載オーディオチップやセンサー、エンジニアリングプラスチック、シート生地などわれわれの電子製品や樹脂・繊維製品の新たな使い方について、中国のEVメーカーと共に検討している」と説明した。
AKMの中国副総経理として日本から異動したばかりの増田智也氏も「デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進している国や地域は多いが、中国は巨大な市場規模と高速な開発サイクルを併せ持つことで際立っている」と指摘。「中国EVがここまで発展するとは予想していなかった」とし、日本企業にとっては、中国市場のスピードと変化にどう対応するかが喫緊の課題だと述べた。
張北平氏によると、同センターの主要事業の一つとなっているのが、車載音響分野の研究開発だ。オーディオチップだけではなく、車内の空間構造やスピーカー配置、内装材料など、車載音響の良しあしを左右するほぼ全ての内容をカバー。エンドユーザーの運転体験を高めるため、人工知能(AI)技術も積極的に取り入れ、車内ノイズの低減という難題の解決を図っている。
顧客との頻繁なやりとりを開発に生かす同センターでは、技術革新のスピードが旭化成の他の海外拠点を大きく上回っているという。例えば中国の新エネ車市場での車内エンターテインメント需要の高まりに合わせ、スマートコックピット向けの音響ソリューションを開発。関連する技術やソリューションは現在、日本の本社に取り入れられ、日本市場での「ハイスタンダード」となりつつある。
「中国の自動車市場で起こっていることは海外市場でもいつか起こる可能性がある」。張氏は、同センターが中国の自動車産業とともに成長していくことは、中国の急速な技術革新を日本さらには世界に伝え、世界の自動車産業の発展を後押しすることになるとの見方を示した。【新華社深圳】
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