「メモリーの壁」を3D集積技術で破る――中国・算苗科技、推論特化AIチップで230億円調達

中国発の人工知能(AI)チップメーカー「算苗科技(Sunmmio Technology)」がこのほど、2回にわたる資金調達で総額10億元(約230億円)近くを集めた。プレシリーズAは源碼資本(Source Code Capital)と石渓資本(Stony Creek Capital)が主導し、聯想創投(Lenovo Capital)なども参加。続くプレシリーズA1では襄禾資本(Xiang He Capital)が主導し、国開金融(CDB Capital)など政府系ファンドも出資した。資金は、100%国産のAIチップ開発と量産に充てられる。

算苗科技は中国科学院の汪福全博士によって設立された。半導体大手の米NVIDIA(エヌビディア)がGPUの世界市場を支配する中、3次元(3D)集積技術を採用することでAI処理のボトルネックとなっている「メモリーの壁」を解消しようとしている。

GPUとの真正面の勝負は避ける――推論特化ASICで差別化

算苗科技は、汎用GPU市場でエヌビディアとの直接対決に挑むのではなく、AIモデルの推論に特化したASIC(特定用途向け集積回路)を開発することにした。

汪博士は、従来のAIチップの課題は計算能力の不足ではなく、メモリー帯域幅による制約だと指摘する。「CoWoS」などの2.5D集積技術では、チップが小さな工場のようになり、基板上に並列配置されたメモリー(原材料)とコア(加工場)がデータバス(ベルトコンベヤー)で接続される。そのため、計算速度が大きく上昇した際のバス幅がボトルネックとなっている。

「NVIDIA H100チップはAIが推論を実行する際、計算ユニットの最大70%がデータの転送を待つ間にアイドル状態となっている。過去20年間で、コアの計算能力は6万倍増加したが、メモリー帯域幅はわずか100倍増にとどまっている」と説明した。

同社が採用した3D集積技術は、メモリーをコアの上に集積し、数十万本のシリコン貫通電極(TSV)を通じて垂直方向の高速データ転送を実現するものだ。これによって、メモリー帯域幅は16~32テラバイト毎秒(TB/s)と、NVIDIA B200チップの4倍に向上する。

推論特化型の開発を選んだ背景には市場の構造がある。AIモデルのトレーニングを担うのはごく一部の大手企業に限られ、将来的には計算リソースの9割が推論に充てられると汪博士はみる。コストと消費電力が重視される推論用途では、汎用性を切り捨てることで性能とコスト効率を両立できるという判断だ。

同社が開発した推論チップ「A4」は12ナノメートル(nm)プロセスを採用。「Llama」「Mixtral」などの大規模言語モデル(LLM)におけるスループットは、4nmプロセスのNVIDIA H200比で1.26〜2.19倍に達したという。

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暗号資産マイニングで磨いた3D技術、AIへ転用

算苗科技はもともと、暗号資産のマイニング技術を開発していた。2021年リリースのマイニング用サーバー「JASMINER X4」は3D集積技術を採用し、40nmプロセスでありながら、エヌビディアの7nmプロセス・グラフィックカードの20倍という電力効率を実現した。これにより、エヌビディアや米半導体AMDのグラフィックカードをマイニング分野から押し退け、8億元(約180億円)の売り上げをもたらした。

算苗科技の出発点は暗号資産のマイニングチップだった。2021年にリリースしたマイニング用サーバー「JASMINER X4」は3D集積技術を採用し、40nmプロセスながらエヌビディアの7nmグラフィックカードの20倍の電力効率を実現。エヌビディアやAMDをマイニング分野から押し退け、8億元(約180億円)の売上をもたらした。

ChatGPTがLLMブームを巻き起こした際、汪博士はAI推論がマイニングと同じ「メモリーの壁」に直面していることに気づき、AIチップ開発へと軸足を移した。マイニング時代に構築した3Dチップのサプライチェーンが、そのまま競争力の源泉となっている。

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「国産化」より「グローバル競争」

算苗科技のコアメンバーは、中国科学院計算技術研究所や声学研究所、清華大学などの出身者が多く、国産CPU「龍芯(Longson)」の開発者やマイクロリサーチアジアの主席研究員もいる。汪博士は「国産化というキーワードが業界に溢れているが、当社は設立当初からグローバル競争を見据え、世界トップクラスのチップメーカーを目指してきた」と強調する。

今後はエヌビディアが拡大見込みの市場シェアを取りにいくとともに、企業が自社でAIモデルを運用するオンプレミス需要にも照準を合わせる。3D集積技術による低消費電力という強みは、電力効率が特に重視されるエッジデバイス分野でも競争力になると見込む。

汪博士は、米国のエンジニアが「抽象的思考」やソフトウエア開発に長けているのに対し、中国のエンジニアは「具体的思考」やハードウエアの改良が得意なため、中国メーカーには、限られたスペースで最高の性能を実現するASIC設計の資質があるとの見解を示した。ASIC開発でもマイニング分野での成功を再現し、中国メーカーとしてチップ市場の一角を占めたいとしている。

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*1元=約23円で計算しています。

(翻訳・大谷晶洋)

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