動画の次は新薬?バイトダンス、AI創薬チームを分社化し資金調達へ
中国ネット大手の字節跳動(バイトダンス)のAI創薬チームがこのほど分社化し、資金調達を開始したことが分かった。分社化後もバイトダンスが支配的株主の地位を維持する。AI創薬の中核メンバーのほか、アルゴリズムモデル、技術プラットフォーム、既存のパイプラインは、すべて新会社に移管され、引き続きバイトダンスのクラウドサービス部門「火山引擎(Volcano Engine)」がコンピューティングリソースを提供する。
新会社の基盤となるAI創薬チームは2021年に設立され、現在のコアメンバーは約50人。AIを科学研究に活用する「AI for Science(AI4S)」向けアルゴリズムの研究者や、経験豊富な創薬専門家が中心となり、AI創薬向け基盤モデルの開発から産業化までを担ってきた。
TikTokの親会社として知られるバイトダンス。そのAI事業といえば、大規模言語モデルや生成AI「豆包(Doubao)」、クラウドサービスの火山引擎を思い浮かべる人が多い。だが実は、同社は数年前からAI4S(科学のためのAI)分野にも取り組み、AI創薬をめぐる包括的な技術体系を着実に築いてきた。
今回のAI創薬チームの分社化と資金調達は、バイトダンスが進めてきたAI創薬事業が、基礎研究の段階から産業化の段階へと進み始めたことを示しているとみられる。
モデル開発から創薬パイプラインへ
バイトダンスはすでに、タンパク質構造予測モデルの「Protenix」シリーズと「SeedFold」のほか、タンパク質結合体の設計ツール「PXDesign」を発表し、AI創薬プラットフォーム「Anew Labs」を構築している。
現時点で、Anew Labsはタンパク質とリガンドの動的構造予測、全原子・分子生成、自由エネルギー計算、合成可能性予測、仮想細胞(Virtual Cell)などの重要技術を幅広くカバーする。また、炎症性サイトカイン「インターロイキン(IL)-17(AA/AF/FF)」や「IL-4R」など、複数の創薬ターゲットについてもプロジェクトを進めている。
AI創薬チームは2026年4月、米国免疫学会(AAI)の年次総会で、炎症性サイトカイン「IL-17」に関する研究成果として、世界で初めて小分子を利用し、IL-17のAA、AF、FFを同時に阻害することに成功したと発表した。
IL-17経路は、乾癬(かんせん)や強直性脊椎炎などの自己免疫疾患と密接に関係している。また、IL-17AとFを同時に抑制する効果は、既存の抗体医薬品で実証されているため、業界では今回の研究成果が将来的な事業化につながる重要な進展だとして注目されている。
分社化はAI創薬の効率向上のため
事情を知る関係者によると、今回の分社化は単に資金調達が目的ではないという。
AI創薬はモデル開発に加え、ウェットラボ実験や動物実験、臨床試験など多くのプロセスがあり、開発周期が数年に及ぶことも多い。開発周期だけでなく、人材構成や組織管理、リソース配分もネット事業とはまったく異なる。
バイトダンスはAI創薬チームを独立した会社組織とし、バイオテクノロジー業界の特性に合わせた運営体制を導入することで、トップクラスの研究人材や産業人材をより多く呼び込む方針だとみられる。
創薬業界は長い間、コストの高さ、開発周期の長さ、成功率の低さなど、多くの課題に直面してきた。世界的にも巨額の投資が続けられているものの、投資額に見合うような効率向上は実現できていない。そのため、AIは創薬の効率を高めるための重要なツールとして期待を集めている。
ある関係者は、今回の分社化はバイトダンスがAI4Sの産業化に取り組む最初のチャレンジだとしたうえで、「バイオテクノロジーには独特の産業ロジックがある。AI創薬チームが分社化したことで、より柔軟な意思決定が可能になる。バイトダンスは新会社を通じ、中国におけるAI4Sの産業化を推進するルートを模索していく考えだ」と述べた。
(翻訳・田村広子)