ロボット盲導犬から階段昇降車椅子まで⋯「老博会」で見えた中国高齢者介護の近未来
2026年6月上旬、通称「上海老博会」と呼ばれる上海国際高齢者介護・補助機器・リハビリテーション医学博覧会が開催された。この博覧会は全国各地の高齢者介護サービスを俯瞰できる、国内有数のオフライン・プラットフォームとして機能している。少子高齢化社会が急速に進み、早急に対応が必要となる中国での注目の高齢者対策展示会だ。
会場には高齢者向け機器メーカーに加え高齢者介護施設や金融機関など様々な企業が集結し、在宅介護向けリフォームからスマート高齢者介護プラットフォームまで、幅広いソリューションが一同に展示されていた。
本稿では様々な製品から4つのプロダクトを紹介したい。北京万易の盲導犬型ロボット、科大国創の運転支援助行ロボット「S5」、中山小神童(XSTO)の全地形対応ロボット「X13」、そして斯維馳(Switch)のパーソナルモビリティ「M6」はいずれも、これまで施設や研究現場に閉じ込められていた技術を、家庭とコミュニティにまで引き出そうとする試みから生まれたものである。
北京万易のスマート盲導犬「大易」は、4足歩行ロボの足がそれぞれ車輪で、従来の盲導犬に取り付けている「U字型ハーネス」のような持ち手がある。室内の家具配置を学習し、「ベッドから玄関」「キッチンからトイレ」といった家庭内ルートを記憶し、廊下や段差を考慮しながら視覚障害者の一歩一歩を誘導するという。これまで、盲導犬が主に利用者の屋外の安全を担ってきたが、このロボット犬は家の中と外をつなぐ存在として位置づけられている。

スマート盲導犬「大易」
科大国創のブースではサンシェードのついたマッサージチェアのようなパーソナルモビリティ「ZHILUAN SS」を展示。歩行アシストロボットで、高齢者や歩行が困難な方向けの製品となる。車載向け自動運転レベル2(L2)を導入し、運転アシストや障害物検知、自動ブレーキなどの機能を備えている。半固体電池を採用して約40キロの航続距離を実現しているほか、エレベーターの中や狭い廊下でもスムーズに方向転換もできる。昇降可能なシートは「座ったまま棚の上のものを取る」といった在宅の細かなニーズに応え、家庭内では動く椅子として機能するため、、リビングと寝室の間をどう移動するかという問題に向けられている。さらに、ベンチレーション、シートヒーター、マッサージ機能をサポートしたゼログラビティシートも搭載されている。

パーソナルモビリティ「ZHILUAN SS」
中山小神童(XSTO)の「X13」は、車椅子に乗ったまま階段の昇り降りができる電動モビリティだ。平地では通常の電動車椅子として機能し、階段や段差を検知するとキャタピラモードに自動切替をして昇降を行う。階段でしか昇り降りのできない数階建ての古い団地や玄関前の数段の階段など、中国でよくある高齢者の移動のボトルネックを解決する製品だ。リハビリ施設のためのツールではなく、自宅に加えて近場を行き来できるスマートモビリティとして設計されている。

XSTOの「X13」

車椅子に乗ったまま階段の昇り降りができる
斯維馳のパーソナルモビリティ「M6」もまた、自宅や地域社会での暮らしに優しく寄り添う設計が特徴だ。家庭内や団地の通路で起こりがちな衝突や転倒のリスクをあらかじめ想定し、障害物検知と自動減速・停止機能だけでなく、バックカメラやワンタッチSOSの呼び出し、転倒時の自動通報機能まで備えている。わずか数秒で折りたためるため、玄関や廊下の隅といった限られたスペースに保管せざるを得ない都市部の住環境にもスマートに対応する。

斯維馳のパーソナルモビリティ「M6」は数秒で折りたためる
以上の製品に共通して見えるのは、「最先端の介護テクノロジーが、施設から自宅や地域社会へと急速に広がっている」という大きな潮流である。今年の高齢者介護博覧会でも、ロボットやパワードスーツ(外骨格)はリハビリ病院や介護施設だけでなく、一般家庭や地域コミュニティを想定している。これは、中国が掲げる「9073」高齢者介護モデルである在宅介護90%、地域密着型介護7%、施設型介護3%の方針とぴたりと重なる。限られたスペース、古い建物、介護資源が少ない環境でも、誰でも安心して確実に使える機器が求められているのだ。
展示会の構成も「高齢者の1日」を意識したものだ。午前に健診、昼に改修相談、午後にロボットとモビリティを試し、夕方に金融・決済相談するといった流れを、会場内に凝縮させた構成になっている。例えば、健康チェックコーナーでは血圧や体組成の測定、簡易診断が提供され、在宅リフォーム相談コーナーでは、段差解消や手すり設置、バリアフリートイレなどの見積もり・設計相談が行われる。高齢者介護サービスの体験ゾーンでは、デイサービスや訪問介護の模擬プログラムが紹介され、最後に支払い・金融サービスガイドで年金管理や介護費用の資金計画を相談できるという具合だ。
こうした背景から、ハードウエア以外の展示も「自宅での利用」を想定したものになっている。たとえば中国銀聯(チャイナ・ユニオンペイ)が打ち出す「高齢者に優しい決済+高齢者介護サービス」モデル。これは、高齢者向けに介護施設、医療・健康、在宅介護、日常生活消費の特典を一体化し、在宅のまま複数の介護・生活サービスを決済・管理できる仕組みを整えている。支払いの入り口から、すでに「家にいながら利用する」ことを前提にした設計になっているわけだ。
総じて中国の高齢者介護産業は、業界全体が「在宅介護」向けの製品とサービスの開発にフォーカスしている。外骨格や全地形対応ロボットは、エレベーターのない古い階段と狭い廊下を前提に再設計され、スマート盲導犬やスマートモビリティは玄関からエレベーター、廊下からリビングまでを視野に入れている。さらに、介護用スマートベッドや在宅向け介護金融商品といった「見えないインフラ」が家庭に持ち込まれ、施設に行かなくても安全安心を在宅環境に実装しようとしている。ヒューマノイドよりも先に実用的な高齢者向けモビリティが家の中にまで入り、これまで移動の自由を制限されていた人々が再び自立して動けるようになる日は、そう遠くないかもしれない。
(文:山谷剛史)