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中国IT大手のアリババグループは8月4日、2023会計年度第1四半期(2022年4~6月)の決算を発表した。今四半期の売上高は2055億元(約4兆1000億円)、前年同期から0.1%の微減となったが、市場の予測を上回り前年同期の水準を維持した。
営業利益は前年同期比19%減の249億4300万元(約5000億円)だった。これ以前の数四半期に比べて利益関連のさまざまな指標がいくらか改善しており、アリババの経費削減策が功を奏したことがうかがえる。
売上高が市場の予測を上回ったこともあり、香港株式市場のアリババ株は決算発表後、取引開始前に5%値上がりした。それ以前にアリババ株は連日にわたって下落しており、7月末時点で1カ月のうちに20%近く下げ、過去1年間では53%も下げている。
長期的に見ると、ITおよびEC企業の収益の見通しは依然として消費ニーズの回復に依存しているほか、当局による規制、特に米国での上場廃止の可能性が大きなプレッシャーとなっている。米国での上場廃止のリスクを受けて、アリババは先日、香港証券取引所でのセカンダリー上場をプライマリー上場に変更すると発表した。
世界的な不況や繰り返す新型コロナウイルス流行の波、国内外のEC市場の競争激化により、アリババの中核であるEC事業も成長が鈍化している。EC事業を立て直すことが当面の目標だが、長期的な問題として、アリババもアマゾンのように第2の成長曲線を描き出すことができるかどうかが重要なポイントとなる。
市場予測を上回る売上高でも中国のEC事業は頭打ち
アリババの4~6月期の売上高は全体として前年同期と同水準だったが、セグメントごとにみると程度の差こそあれ、いずれも減少している。中国コマース事業(中国小売事業と中国卸売事業)のうち中国小売事業(タオバオ、天猫、直販を含む)は前年同期比2%減少した。グローバルコマース事業は全体で同2%増加したが、そのうちのグローバル小売事業の売上高は同3%減少している。前四半期は、この2つの事業はそれぞれ8%と7%の増加だった。
実際、これまでアリババの成長のけん引役とみられていた中国コマース事業の売上高(グループ全体の売上高の7割ほどを占める)だが、この2年は成長が鈍化している。卸売事業はこれまで四半期ごとに30%近い安定した伸びを見せ、直販事業は急成長期を過ぎた後も四半期当たり2桁ペースで増加してきたが、最も大きな比率を占めるタオバオ系EC事業の落ち込みが大きく、中国コマース事業全体の売上高に深刻な影響が及んでいる。
新型コロナウイルスの度重なる流行が、タオバオ系EC事業にさらなる打撃を与えていることは間違いない。
アリババの張勇(ダニエル・チャン)CEOは前四半期の決算説明会で、上海などで感染拡大に伴う都市封鎖政策が実施されたことにより、4月にタオバオなどEC事業のGMV(流通取引総額)が10%も減少し、徐々に持ち直し始めたのが5月末になってからだと語っていた。今四半期の決算説明会では、タオバオの取引額が四半期を通じて5~6%の減少にとどまったことをアリババ幹部が述べている。
今四半期中に大規模なショッピングイベント「618セール」が開催されたものの、サプライチェーンや物流の停滞により、史上最も盛り上がらない618セールとなった。
トラフィックの伸びが振るわないため、ブランドは当然ながら広告を出したがらず、GMVの減少もプラットフォームの手数料収入の減少を招いている。今四半期、GMVに対する手数料収入の減少幅より広告収入の減少がわずかに大きく、ともに2桁台の減少となっている。中国コマース事業全体の成長を維持するため、アリババは直販事業の比率を高めており、事業者マネジメントによる売上高と直販事業の比率は、現在ほぼ半々になっている。
アリババは4四半期連続で月間アクティブユーザー数(MAU)を公表しておらず、今四半期は年間アクティブ・コンシューマー数(AAC)すらも発表していない。
アリババに近い関係者によると、今年上半期にタオバオ系ECのトラフィックが目に見えて減少、ユーザーのスティッキネス(粘着性)も低下しており、多くのユーザーは何かを購入する時にしかタオバオを開かなくなっているという。アリババにとってはデイリーアクティブユーザー(DAU)を増やすことが喫緊の課題であり、AACの改善よりも重要だ。
低価格を売りにした「タオバオ特価版」は、トラフィック増加を実現する重要分野と見なされ、この1年ほどは四半期ごとに1000万人もの新規ユーザーを獲得してきた。しかしタオバオ特価版ユーザーの購買力は限られており、特価版単独のGMVはこれまで一度も公表されていない。今四半期の決算発表会でアリババ幹部は、消費環境全体が思わしくないなかで、地方都市や農村部での消費の落ち込みがより深刻であると述べている。
次の成長曲線を定めきれないアリババ
こうした状況を、アリババはすでに予期していたかもしれない。
十数年前から、アリババは各分野の強化に着手してきた。数年をかけて事業のグローバル化、フィンテック企業アント・グループ(螞蟻集団)、アリババクラウド、動画配信サービス優酷(Youku)などに投資し、四半期当たり平均100億元(約2000億円)を費やしてきた。
アリババの元従業員数名が36Krのインタビューに応じた際、アリババがアント・グループを立ち上げてフィンテックという上昇気流を見事とらえたことについては全員が言及した。しかしコンプライアンスの問題から、強い規制の下でフィンテック業界全体が大きな調整を経験し、アント・グループのIPO計画は最終的に頓挫した。
このことはアリババの戦略目標の変化にも表れている。これまでアリババの三大戦略は「グローバル化、内需、ビッグデータとクラウドコンピューティング」だったが、今年初めには「消費、クラウドコンピューティング、グローバル化」へと調整された。以前の戦略にあった「ビッグデータ」はアント・グループのことで、最新の戦略からは削除されているうえ、アント・グループの幹部もアリババのパートナーから外れた。
また「内需」が「消費」へと変わったことには、中国国内の消費市場が思わしくないため、他国市場の開拓が必要になったという背景がある。タオバオ、天猫の元総裁だった蒋凡氏が海外デジタル事業部門の総裁となり、全球速売通(アリエクスプレス)、国際貿易(ICBU)、Lazadaなど海外のグローバル事業を担当してきた。しかしこれはかなりの難事業で、バイトダンス(字節跳動)以外の多くのIT大手は数年かけても目立った成果を上げることができていない。
加えて今四半期は、地政学的な不安定さ、米ドルに対するユーロ安などにより、グローバル小売事業の売上高も大きく落ち込んだ。好材料と言えるのは、Lazadaの業績が回復してGMVが大幅増加し、赤字が縮小したことにより、この先東南アジアで下克上を果たせるかもしれないことだ。
「クラウドコンピューティング」は最新戦略にも残り、しかも並び順が前になっている。ただ売上高の規模でいえば、アリババクラウドはEC事業のわずか10分の1にとどまる。
米国のEC最大手アマゾンは何かと中国のEC大手と比較されることが多く、そのクラウド事業であるAWSは、EC企業が第2の成長曲線を描き出した成功事例として注目されてきた。アマゾンは先日、2022年第2四半期(4~6月)決算を発表した。世界経済の縮小を受けてアマゾンの売上高も同様に伸び悩み、1桁台の成長にとどまったが、クラウド事業は立ち上げから20年以上の発展を経て、今期の売上高は市場予想を上回る197億ドル(約2兆6000億円)で成長率33%を実現したほか、純利益も57億ドル(約7600億円)に達し、EC事業や他の事業による損失の大部分を相殺できたとしている。
アリババクラウドはというと、今四半期の売上高成長率は10%にまで低下している。業績面ではこの1年ずっと黒字を維持しているものの、今四半期の利益は2億4700万元(約49億円)にとどまり、利益は依然わずかなままだ。
アリババの元従業員によると、アリババクラウドは現在、国内企業の60%以上をカバーしているが、行政機関や企業は通信機器大手ファーウェイ(華為技術)のクラウドサービスを好む傾向にあるため、政府関連のシステムに食い込むのは困難だという。
アリババは今後もクラウド事業に対する資金投入を続けるとみられるが、投資額をすでに減らしており、節約してなんとか利益を保てている状態だ。前述の元従業員の話では、経費削減のためアリババクラウドも組織調整を行ったという。
張勇CEOが以前に語ったとおり、アリババも「時代からの問い」に直面している。この逆風のなか形勢を逆転できるのかどうか、すでにEC事業の手には負えない状況のように思われる。
(翻訳・畠中裕子)
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