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タオバオとはどんなウェブサイトか。そう聞かれれば、商品購入、オークション、中古品売買、ホテル予約などの答えが返ってくるだろう。だが最近、これに新たな答えが加わった。MV(ミュージックビデオ)の先行独占配信だ。
配信されたのは、男性アイドルグループEXOの中国人メンバー張芸興(レイ)の新曲「HONEY」のMV。タオバオのプラットフォーム上での配信から3時間後、Youtubeやテンセント・ミュージック・エンターテインメント・グループ(騰訊音楽娯楽集団、TME)が運営する音楽配信プラットフォームなどでも追ってリリースされた。
シングル、EP(ミニアルバム)、アルバムなど、どんな形態にせよ、中国国内ではTMEや「網易雲音楽」(music.163)などの音楽専門プラットフォームが優先的な配信チャネルとなってきた。より広範囲への拡散を狙う場合は短編動画アプリ「TikTok(ティックトック)」やバラエティ番組など視聴者数の多いメディアが併用されてきたが、いずれもエンターテインメント業界の枠を出ていない。
こうしてみると、ECサイトであるタオバオ上でのMV先行配信はそれ自体きわめて新しいといえるが、タオバオの狙いは何だったのか。
MV配信×オークション
タオバオ上でのMV配信では、タオバオとレイの所属事務所が共同で企画したオークションイベントに組み込むスタイルが取られた。
配信方式は独特だ。まず「張芸興honey」という合言葉をタオバオ上で検索すると、AR(拡張現実)を駆使したトップページが表示される。そこでレイのシンボルカラーである黄色のアイテム(何でも可)をスキャンすると、MVが丸ごと視聴できる仕組みになっていた。
MVの再生が終わると、今度は「レイのオークション会場」という画面に進む。オークションといっても実際に何かの品物を扱うわけではなく、ファンが無料で無制限に入手できる「甜蜜値」と呼ばれるポイントを次々と積み上げていき、新曲を応援するイベントとなっていた。最終的に延べ49万人が参加し、集まったポイントは4539万に上った。
タオバオ側はファンが喜ぶツボを巧みに押さえ、イベントの要所要所に工夫を凝らしていた。ファンとアイドルとの距離はさらに縮まり、さらにはタオバオというプラットフォームに対する好感度を上げることにも成功している。
それでは今後、タオバオでの新曲やMV先行配信が一般的になるだろうか。
答えはおそらくNOだ。
「HONEY」の状況をみてみると、再生・シェア回数、コメント内容などのデータはタオバオ上のみに保存され、他の音楽プラットフォームとは共有されない。そのためファンは新曲の拡散状況を直感的に把握できない。
また現在の中国音楽市場はまだ成熟しておらず、新曲を発表する場が少ない。権威ある音楽ランキングも存在せず、TMEや網易雲音楽などのデジタルアルバム販売枚数が、影響力を測る重要な指標となっている。さらに複数プラットフォームでの並行配信が主流で、独占配信は少数派という状況が長く続いている。
つまり、音楽業界に揺さぶりをかけることではなく、「タオバオは万能」という印象を与え、ユーザーに対する新鮮なコンテンツ体験を提供することこそがタオバオの狙いだったといえる。
ファン「囲い込み」を目指すタオバオ
「HONEY」の先行独占配信の背景には、商品を検索して探すECサイトという位置付けから脱却し、自らコンテンツを発信する「消費関連メディア」としての新たな一面の獲得を目指すタオバオの野心がある。このためアイドル、カルチャー、音楽などとのコラボレーションによりコンテンツの影響力向上を図っている。アクセス数によるメリットがほぼ消失した現在、単なるユーザー数の増加よりも、新たな手段でユーザー滞在時間やアクティブ率を高めることの方が有効だからだ。とりわけアイドルのファンは忠誠心が高く、彼らが財布を開くのに多くの理由はいらない。「アイドルのため」というだけで十分だ。
米アップルや華為技術(ファーウェイ)が熱狂的なファンを抱えるのと同様、タオバオも自身の「淘粉(タオバオファン)」を持ちたいと思っているのかもしれない。
(翻訳・神部明果)
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