“先に飛んだ者が勝つとは限らない” 水素ハイブリッドeVTOL、中国新興の逆張り戦略
水素ガスタービンと電池を組み合わせた、ハイブリッド電動垂直離着陸機(eVTOL)を開発する中国企業「華喜航空(Worthy Aerotech)」がこのほど、シードラウンドで民銀国際(Minyin International)から数千万元(数億円超)を調達した。資金は、中核技術の開発や実証機の試験飛行、耐空証明の取得、商用化に充てられる。
創業者の張鑫氏は、南京航空航天大学ヘリコプター学科を卒業後、2022年に清華大学の噴霧燃焼・推進研究室に勤務し、25年3月に同社を立ち上げた。現在主流となっている純電動eVTOLではなく、水素ガスタービンと電池によって駆動力を生み出すハイブリッド方式を採用する。同社はこの方式を手がける世界初のメーカーと自社を位置づける。
純電動ではなく「水素ハイブリッド」を選んだ理由
eVTOLメーカーの多くが短距離を移動する「空飛ぶタクシー」の開発に注力する中、華喜航空は長距離・長時間飛行を強みとする路線を選んだ。従来のマルチローター(複数回転翼)構成に推力ベクタリングシステムを組み合わせることで、さまざまな方向への機動性を確保した。
最大離陸重量2.5トン、航続距離1000km以上、飛行時速324~350km、積載量約500kgの性能を有し、航続距離と飛行可能時間が長いeVTOLの商用化を目指している。実現すれば、その運用半径は現在主流の純電動eVTOLに比べて4倍以上に拡大するという。
張氏の考え方はシンプルだ。「水素1kgの発電量が32~33キロワット時(kWh)に上る一方、リチウムイオン電池1kgでは0.25~0.3kWhにとどまる。これは設計の最適化で縮められる差ではなく、物理的な特性の違いによるものだ」と説明する。一般的な純電動eVTOLは、安全マージンを差し引いた実際の航続距離が150~160キロメートルほどだが、同社の製品は半径800キロメートル以上の運用範囲を確保できる見込みだ。また、1座席キロメートル当たりのユニットコストは、短距離移動向けeVTOLの半分もしくはそれ以下に抑えられ、商用の配車サービスと同じ水準になるという。
水素エネルギーには、圧縮水素貯蔵や熱管理といった技術的な課題がある。同社は、水素ガスタービン発電システムを独自に開発したうえ、タービンの排熱を利用して水素燃料を加熱・気化させることで、エネルギー効率を向上させた。張氏によると、工業副産物として生産される水素は価格が1kg当たり10元(約230円)ほどに下がっており、今後2~3年以内にグリーン水素もこの水準に近づく見通しだ。
段階的な実証から商用化へ
同社は8分の1、4分の1、2分の1、実物大の順に実証機を開発し、段階的に性能を検証する計画だ。1/8サイズはこれまでに1000回以上の試験飛行を終え、飛行制御アルゴリズムや動力ユニットが一部故障した際の安全な離着陸性能を確認している。
注目なのは、1人乗り超軽量スポーツeVTOL「WorthyAero R1」として開発されている1/4サイズの実証機だ。小型・軽量なため、中国、米国、欧州のいずれの地域でも耐空証明を取得するための複雑な手続きが不要で、商用化を進めやすいという。すでに中国の海南省やカナダ、ロシアなどの観光・文化関連企業や富裕層から数十機分の購入意向が寄せられており、2026年は同製品だけで数千万元(数億円超)の売り上げを見込んでいる。

スポーツeVTOL「WorthyAero R1」
事業戦略は、貨物輸送から旅客輸送へと段階的に進める方針だ。2.5トンクラスの貨物用eVTOLは、遠隔地や発電所・鉱山、海上作業拠点などの交通が不便で、距離が長く時間的制約も伴う場所への貨物輸送が主な用途となる。また、旅客用eVTOLは救急医療や観光向けを中心に、都市間移動向けにも製品ラインを徐々に拡大していく。
1/2サイズの実証機は、2026年にプロトタイプの完成、27年に耐空証明の取得が計画されている。2.5トンクラスの貨物用eVTOLは、27~28年に耐空証明の完成と耐空証明取得を目指す。
張氏は「技術的に実現可能でも、耐空証明が取れるとは限らない。耐空証明を取得できても、事業として成り立つかは別の話だ。『低空経済』で最後に勝つのは、先に空を飛ぶことではなく、ビジネスとして確立できた者だ」と語る。
*1元=約23円で計算しています。
(翻訳・大谷晶洋)