東京都のEV補助金大幅増額決定、なぜ「中国車」は冷遇されているのか?

7月1日以降に登録される新車を対象に、東京都のZEV(ゼロエミッション車)補助金において最大50万〜60万円の大幅な増額が実施された。しかし、比亜迪(BYD)をはじめとする中国自動車メーカーは、プラス10万円の増額にとどまっている。また、国が実施する「CEV(クリーンエネルギー自動車)補助金」でもBYDへの補助額は年々減額されており、今年4月1日からは米テスラが最高レベルの127万円となる一方で、BYDは全車種が最低レベルの「15万円」にまで引き下げられた。

このように中国車が冷遇される理由は何なのだろうか。現在、日本国内で受け取れる電気自動車(EV)補助金の仕組みからその理由を解説する。

BYD、6月販売40万台突破 増加分はほぼ海外、国内低迷を相殺

EVに対する購入補助金とは?

EV(乗用車や小型商用車)の購入に対する補助金には、大きく分けて国の「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)」と、各自治体が独自に設定している補助金の2種類がある。

購入者は、原則としてこれら国と自治体の補助金を組み合わせて利用することが可能だ。国の補助金は1種類のみだが、自治体の補助金については「東京都」と「港区」のように複数の制度を併用できる場合がある。ただし、これらを利用するには新車の登録日から1か月以内に申請を完了させるなど、各種の諸条件をクリアしなければならない。

また、バスやタクシーといった事業用の商用EVを購入する場合は、別途、国の補助金として主に環境省の「商用車等の電動化促進事業」が、バス会社やEVバスを導入する自治体に対して支払われる。これらの補助金給付額は毎年見直されているが、特に2024年以降に大きな変化が生じた。以下は2026年4月1日以降における最新の補助金上限額である。なお、2027年1月1日からの新しい補助金額についても参考として掲載する。

<参考リンク:令和7年度補正CEV補助金 銘柄ごとの補助金交付額の一覧表

中国EV、価格競争が生んだ「実体のない繁栄」——自動車首脳が語る脱・消耗戦

2026年4月以降のCEV補助金上限額車種

最大補助金額
BEV(普通車)130万円
軽・小型EV 58万円
PHEV(プラグインハイブリッド)85万円
FCV(燃料電池車)150万円

純電気自動車(BEV)では、最大で130万円が国から補助される。なお、CEV補助金は新車契約時(登録時)のみ申請が可能で、原則として新規登録から1カ月以内の申請が必須となっている(一部例外あり)。さらに注意すべき点として、最低処分期間が設定されていることが挙げられ、新車の登録から最低4年(超小型モビリティは3年)の保有が義務付けられている。もしこの処分期間より早く売却・廃車などで車両を手放す場合には、保有していた期間に応じて補助金の一部を返金しなければならない。

補助金額はどのように決まる?

電気自動車の補助金は、乗用車向けのCEV補助金と、主に環境省が管轄する商用車向けの補助金で、その金額を決定するプロセスが全く異なっている。

CEV補助金

CEV補助金は従来、EVとしての性能(一充電あたりの航続距離・電費・充電時間など)を指定の試験機関で測定し、そのデータをもとに金額を決定していた。しかし、2024年度以降は新基準が導入され、決定プロセスに不明瞭な点が増えている。EV性能に加えて、自動車メーカーや輸入元の企業全体の取り組み(充電器設置数などの充電インフラ整備、EV専門整備士の教育体制、サイバーセキュリティ対応など)が評価されるようになった。給電機能(V2H:Vehicle to Home、V2L:Vehicle to Load)の有無も評価ポイントに含まれる。

2024年度以降の新制度で補助金額が大きく減少したのが、BYDに代表される中国製電気自動車である。具体的に、低価格・高性能なBYDの乗用車(ドルフィン、シーライオン、ATTO 3など)は65万円から35万円(30万円減)に、さらに2026年4月1日以降は35万円から15万円(CEV補助金最低レベル)まで減額された。1年前と比べ50万円もの大幅減だ。
また、BYDだけではなく中国製の小型商用車なども一律に2025年と2026年ではすべての車種が補助金減額となっている。

BYD、9分フル充電へ 中国で2万カ所の急速充電網を整備

主な車種例

HWE (HW ELECTRO) 軽商用EV
45~55万円から20~35万円
ASF 小型商用EV
50万円前後から15~30万円
フォロフライ (Followfly) F1シリーズなど
50~58万円から25~35万円

一方、同じ中国製造の輸入EVでも、テスラ「Model Y」などは2025年12月に発表された補助金額が最大127万円と、トヨタ「bZ4X」や日産アリアとほぼ同水準だ。

4月1日以降も減額はなく、2026年7月1日以降の登録では、東京都の補助金引き上げ(EV最大130万円、PHEV最大115万円)により、さらに補助が上乗せされる車種もある。また、JEEPブランドなどのアメリカ製EVへのCEV補助金も全般的に上昇している。

これには日米関税交渉の影響が大きく、米国側から「日本のEV補助金制度が非関税障壁」と指摘された結果、EVと燃料電池車(FCV)の補助額格差を縮小し、テスラなどに恩恵が及ぶよう調整されたのである。

関税100%→6.1%へ転換 BYDなど中国製EVがカナダ市場に参入加速

環境省補助金

バスやタクシーなどの商用EVは、車両価格に応じた補助金額となっている。基本的には同クラスのエンジン・ディーゼル車との差額の3分の2を基準とするため、車両価格が高ければ補助金額も高くなる。車両価格はメーカーや輸入業者側で自由に設定できるため、EVモーターズ・ジャパンのように品質に問題があるバスであっても、高い価格を設定すれば高額な補助金を得やすい仕組みである。乗用車のCEV補助金に比べ、航続距離・充電時間・EVとしての性能などはほぼ自己申告のデータで認められるため、審査がザルと言えるほど大変緩い。補助金交付後の事業報告書に記載する走行距離などの実績についても自己申告がベースとなるため、実際の運行実績が少ない場合でも補助金が減額されることはない。

なお、2026年度の環境省補助金(7月1日現在)では、EVモーターズ・ジャパンのバスは輸入販売元のEVMJが民事再生手続き中で、新車販売を事実上行っていないことなどから対象外となっている。

低品質・高価格の万博EVバス、1社独占で150台受注。なぜBYDは「蚊帳の外」だったのか?ーー後編

4月下旬に今年度の新しい補助金額が発表されたが、輸入バスはBYDとヒョンデのみが対象だった。その後、6月10日になってようやくアルファバス(中国・江蘇常隆客車)、オノエンスター(中国・揚州亜星客車)、カルサン(トルコ・Karsan)の補助金額が公表された。この電気バスに対する補助金では、アメリカ製EVバスが存在しないためか、特にBYDをはじめとした良質な中国製EVバスに対して大幅減額などの厳しい措置は見られない。

BYDはなぜCEV補助金を大幅減額されたのか?

BYDに対するCEV補助金が全車種「15万円」まで大きく減額された理由の一つに、公共・非公共急速充電器といった充電インフラ整備の設置状況が挙げられる。EVとしての性能(航続距離や信頼性など)に問題はないと考えられるため、補助金が最低レベルになったのは、日本国内での充電器設置数が少ないことと関係しているのは確かだ。

中国EV覇者BYD、日本では「新参者」――普及率1.7%の“絶望的市場”で直面した「駐車場拒否」と偏見の壁

中国国内ではBYD独自の超高速充電器の整備が進んでいるが、日本ではディーラーの設置が中心。一方、同じ輸入車でもテスラは独自の急速充電器「スーパーチャージャー」の整備を日本国内で急速に進めており、2025年12月時点で、141箇所・707基に達している。さらに、2027年の設置目標は約200カ所(1000基超)を掲げ、前年比4割増のペースを見込んでいる。

ただし、充電器の設置数だけが減額の理由ではない。CEV補助金の金額決定プロセスには多くの不透明な点がある。これについて、BYDオートジャパン広報部は以下のようにコメントしている。

R8年度のCEV補助金決定については、前回に続き、今回も『不透明な補助金の審査プロセス』で決定されたことをとても残念に思っています。

BYDとしては昨年から関係省庁に、こうした『補助金決定の審査プロセスが不透明』である旨を申し出ており、同時に今後どのような企業努力を行なえば良いのか打診していますが、未だ回答を得られていません。

今回も『説明なき決定通告』のままでは、販売店やお客様に十分な説明責任が果たせず、本来の補助金の目的である『お客様の利益』にもお応えできないので、極めて不公平と感じざるを得ません。

今後も引き続き、関係省庁には透明性のある審査プロセスの履行と、審査結果の開示を求め、お客様の利益確保に努めていきます。(BYDオートジャパン広報部)

なお、日本だけでなく韓国や欧州でも、BYDをはじめとした中国製EVに対して高関税+補助金の制限+現地生産の優遇措置を組み合わせた、いわゆる「中国製EV包囲網」が構築されつつある。世界的に中国メーカーを冷遇し、市場から締め出そうとする動きが強まる中、日本における対応はまだ比較的緩やかな部類かもしれない。しかし、それ自体が「世界が中国製EVを本気で脅威に感じている」証拠でもある。最終的には、世界の自動車メーカーが健全に切磋琢磨し、安くて高品質、信頼性の高いEVが普及していくことが望まれる。

2700万台で世界首位、でも黒字メーカーは5〜6社——中国車「覇権」の虚と実【再掲】

(文:自動車生活ジャーナリスト・加藤久美子)

日本企業のDXを促進するプラットフォーム「CONNECTO」
無料コンテンツ公開中

最新記事