ヒューマノイド、もう薬局・コンビニで働いてた。「Galbot」が狙う社会実装の現在地【駐在員が見た中国】

「ハイテク中国」にあるのは大きな市場や技術だけではない。

本連載では、日中経済協会北京事務所副所長の宮奥俊介氏が日々中国の現場を歩き回る中で体験した熱気、興奮、期待そして期待外れや裏切りも含め、リアルな姿を伝える。

今回取り上げるのは、ヒューマノイドロボットの開発・製造を手掛ける「Galbot(ガルボット)」のオフィス。設立から3年あまりでCATL(寧徳時代新能源科技)などからの大型調達を繰り返し、評価額がすでに100億元(約2300億円)を超えた。日本での受注も見込み、都内に法人を設立したGalbotの現在地を探った。

中国国際サプライチェーン博Nvidiaブースでも展示された「G1」

創業3年で社員500人超える

「羨ましい!」ーー同僚の中国人スタッフが目を輝かせた。

「毎日オフィスでお菓子が補充されるのはもちろん、頼めば階下のコンビニからロボットが商品を届けてくれるんだよ。しかもエレベーターのボタンも自分で押せるんだから」

これは果たして「福利厚生」と呼べるのだろうか。しかし同僚は、自分が所属するオフィスとの差に、次第に落胆の色を隠せなくなっている。こちらに向けられる視線が痛い。このままでは転職を考え始めるのではーーと焦る筆者をよそに、Galbotの府川葵副総裁と石一璇セールスディレクターは自社の充実した社員向けサービスを次々披露する。

「新しいスタッフが入るたびにパーティーも開かれるんだよ。インターンを含めると社員はもう500人を超えているけど、出入りも多いからね」

Galbot20235月、1992年生まれで清華大学とスタンフォード大学を卒業した王鶴CTOが設立。瞬く間に成長を遂げ、中国ヒューマノイドロボット市場でも注目企業の一つとなった。エンジニアをはじめとするスタッフも2030代が中心だ。だからこそ優秀な人材を引き留めるため、福利厚生やサービスの充実に力を入れているという。

「でもみんな超激務。もちろん社長も含めてね。今朝も、最近恒例になっている朝食ミーティングだったし」

同僚スタッフは次第に冷静さを取り戻している。どうやらまだうちで働き続けてくれそうだ。

薬局、コンビニで働く

Galbotを訪問するのは半年ぶり2度目。福利厚生だけではなく、前回からの進化ぶりにも驚かされた。まず案内されたのはGalbotのヒューマノイドロボット「G1」が働くデリバリー特化の薬局だ。

G1は薬局でピッキングと梱包作業を担当する。薄暗く、空調の音だけが静かに響く地下1階の店舗でオンラインオーダーが届くと品名から度数まで人間以上に正確に識別し、ピッキングを行う。ラベル貼りを完了し、発送準備が整えば、配達員が商品を受け取りに来る。まるで人類がロボットに使われているような錯覚すら覚える。

作業を終えるとG1は自ら充電ブースに戻り、次のオーダーまで小休憩を取る。

「コンタクトレンズはこれで十分だけど、薬局には薬剤師も必要です。G1がピッキングしたものを、薬剤師がチェックして出荷するという流れです」(石セールスディレクター)

G1は引き出しを自ら開け、エア吸引で商品を吸着し、ピッキングを手際よく進めていく。オーダーが完了するたびに充電ブースへ戻るため、24時間体制での稼働が可能で、朝方や夜間にオーダーが集中しがちなコンタクトレンズの需要にも、柔軟に対応できる。しかも人間とは異なり、ロボットは単調な作業に精神的な負担も感じない。

「銀河太空艙」と名付けられたロボットキオスクも見学した。

数平方メートルのカプセル型店舗ではペットボトル飲料を販売するだけでなく、コーヒーやソフトクリームなどの注文を受けるとロボットが調理・サーブしてくれる。待機中は客と軽く会話を交わす余裕も見せ、その接客ぶりは板についている。採用しているAIはアリババクラウド製で、日本語能力はまだ途上とのことだが、「こんにちは!」と元気にあいさつしてくれた。

オーダーから商品提供まで30秒以内。銀河太空艙は北京市内で約50店舗、全国では175店舗を展開している。また、フランチャイズ型でさまざまな店舗を展開しており、アートトイメーカー「POP MART(ポップマート)」の商品を扱う店舗もある。

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ファミマとも協業

50キロの荷物を軽々と持ち上げるS1は、主に工業用としての導入が進み、日本にも1台が出荷済みだ。「S1」の「S」はストロングを意味し、文字通り頑強な作りだが、人が作業導線に入ると自動停止する安全システムも備えている。

屈強なS1

また、GALBOT3月から中国でファミリーマートとコラボ店舗の運営も始めている。こちらは通常のコンビニエンスストアの定員としてG1が働いている。レジに立ち、ホットスナックを含むピッキングを行う。G1から商品を受け取った顧客はセルフ会計を行う流れは非常にスムーズだ。

来客が少ない時間帯は品出し・補充のほか、さまざまな形状の商品を取り出す訓練を行っているそうだ。肉まんなどの柔らかい商品は握りつぶしてしまうことがあり、タバコ販売時の年齢確認機能についてもアップデートが必要だ。実用化に向けた研究が、現在も進められているという。

ファミマで導入されているG1

日本は最重要市場

Galbotのロボットは半年前から格段に進歩しており、開発と実装化のスピードに驚かされる。府川副総裁は、ジャスミンティーのペットボトルを運ぶG1に目を細める。

「日々トレーニングを積むロボットは、まるで自分の子供の成長を見守るよう。『あぁ、もうこんな事も出来るようになったんだ』って」

ヒューマノイド最大手のUNITREE(ユニツリー)がJALGMOとの連携を発表するなど、中国ヒューマノイドロボットの日本市場への関心は高い。

Galbotも今年、日本法人を都内に設立。NVIDIA(エヌヴィディア)をはじめ、BOSCH(ボッシュ)やHYUNDAI(ヒュンダイ)といった外資系企業との連携を深める同社は、日系企業との協業の可能性も探るため、府川副総裁と石セールスディレクターを中心に、日々精力的に営業・渉外活動を展開している。

「日本市場はリスクアセスメントに時間がかかる傾向があって、スピード感の面では少し課題を感じています。ただ、一度信頼を得られれば長期的な関係を築けるというメリットもあるので、創業時から最重要市場の一つとして位置づけているんです」

「ロボットを実装化していくことで、人間が嫌がる仕事を減らし、より楽しく働ける社会を作っていきたい」

流暢な日本語で次々と紡がれる力強い言葉。自身と会社の成長に向け、惜しみなく時間とエネルギーを注ぐ。そして「学び続ける」若者たちとロボットが、鉄腕アトムとドラえもんを産んだ国を目指す。

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(注)本稿の内容は執筆者個人の見解であり、所属組織の公式見解を代表するものではありません。

文:宮奥 俊介

日中経済協会北京事務所副所長。民間企業での勤務経験を経て20208月、一般財団法人日中経済協会に入職。調査部で中国経済情報の収集・発信、セミナー運営、ジャーナル企画編集などを担当。251月からは北京に駐在、日々最新の中国を追いかける。中国のスイーツは黄金糕(蜂窩糕)がお気に入り。立命館大学大学院国際関係研究科修了。

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