薬局で働くAIロボット、棚改修も不要。中国「Noematrix」、受注1000台規模へ
中国の身体性AI(エンボディドAI)開発スタートアップ「穹徹智能(Noematrix)」はこのほど、新たに数億元(数十億円規模)を調達した。無錫数据集団(Wuxi Data Group)が出資を主導し、上海交通大学AI未来基金や一村資本(V-Capital)などが参加した。これまでにも、サウジアラムコ傘下のProsperity7 Ventures、紅杉中国(HongShan)、C Capital、アリババグループ、Sea(シー)といった著名機関から出資を受けている。
穹徹智能は2023年11月に設立され、エンボディドAI向け基盤モデルと意思決定システムの独自開発を進めている。主力はロボット向け意思決定システム「Noematrix Brain」で、これを軸にデータ収集からモデル学習、導入・検証、ロボット運用までを一貫して支えるソフト・ハード一体型の製品体系を構築した。
エンボディドAI業界では、競争の焦点が「動作デモ」から「実環境での安定的な運用」へと移りつつある。そのためには、ロボットが物理世界の仕組みを理解し、変化の激しい環境にも柔軟に対応できる能力が不可欠となる。こうした課題の解決策として期待されるのが、基盤モデルをはじめとするモデル技術だ。
同社は、実データとシミュレーションデータを組み合わせて学習に使うデータ戦略を採る。「随伴型データ収集」と呼ぶ手法を打ち出し、自社開発の外骨格型データ収集装置「CoMiner」と携帯型端末「RoboPocket」を活用する。データ収集の場を家庭やオフィス、産業現場などに広げ、より低いコストで多様な実データを収集できるようにした。さらに、AIエージェントを組み込んだデータの「クローズドループ」を構築し、タスクの分析やデータ収集戦略の最適化・動的調整を自動化することで、高品質なデータの生成効率を高めたという。
Noematrix Brainは、膨大な実環境データを使って学習と改良を重ねる。ロボットが指示の理解からタスク計画、環境認識、実行結果のフィードバックまで、一連の意思決定を担えるようにする。また、事前学習に加え、力覚・姿勢などマルチモーダルの追加学習とを組み合わせることで、物体との接触状況や物理的な反応をより正確に理解できるようにした結果、実環境におけるロボットのタスク遂行能力が大きく向上したという。

穹徹智能の「随伴型データ収集」ソリューション
この意思決定システムを搭載した同社のロボットは、すでに薬局での本格導入が進んでいる。既存の保管棚を改修する必要はなく、わずか2.5平方メートルほどのスペースがあれば設置できる。店舗の受注システムに接続すれば、従来の環境を保ったまま安定して運用できる。

ロボットが自律的にルートを計画
薬局は、エンボディドAIの先行導入に最適な分野として期待が寄せられている。オンライン注文の処理プロセスは標準化が進んでおり、作業の大半を反復的なピッキングが占めているためだ。また、夜間の注文はまばらであるものの、スタッフを常駐させる必要があり、人件費の負担が大きいという側面もある。とはいえ、実際の作業環境は想像以上に複雑だ。扱う商品は数千種類にも上り、陳列が頻繁に変更されるほか、商品によってサイズも置き方も異なる。小さな眼軟膏やフックにつり下げられた体温計などの特殊な商品にも対応できるかどうかが、システムの実用性を測る重要なポイントとなる。
穹徹智能は、エンボディドAIの商用化で鍵を握るのは、基盤モデルの性能向上というよりも、実環境で生じる多様なエッジケースを解決することだと指摘する。現在、複数の大手薬局チェーンと提携を結んでおり、商用展開の段階に入っている。受注台数はすでに1000台規模に達した。

薬局で作業するロボット
今回の資金を活用し、汎用性と意思決定能力の高いエンボディドAI向け基盤モデルの開発・改良を一段と強化する。あわせて、小売りやホテルサービスなどの現場で、エンボディドAIの導入を加速させる方針だ。
*1元=約24円で計算しています。
(翻訳・畠中裕子)