ロボットハンドメーカー8割が採用 中国・Daimon Robotics、視触覚センサーで数十億円調達
ロボットやフィジカルAI向けの高性能な視触覚センサーやシステムを開発する中国スタートアップ「戴盟機器人(Daimon Robotics)」はこのほど、アント・グループなどから数億元(数十億円)の戦略出資を獲得した。2カ月前にシリーズAで1億元(約24億円)規模の資金を調達したのに続き、今年2回目の大型調達となる。
アント・グループはこれまでにも、宇樹科技(Unitree)や星海図(Galaxea AI)などロボット業界を代表する企業に出資している。ロボットの本体から「頭脳」であるAIシステムまでの幅広い分野に資金を投じてきたが、ロボットの中核部品分野に出資したのは今回が初となる。
Daimonは2021年12月、香港科技大学ロボティクス研究所を母体として設立され、23年8月に正式に事業を開始した。本社を深圳市に置き、香港などに研究開発センターを設けている。共同創業者でチーフサイエンティストの王煜氏は、米カーネギーメロン大学ロボティクス研究所のマシュー・T・メイソン教授のもとで博士号を取得し、触覚センシングやロボットの精密操作に関する研究に長年取り組んできた。創業者の段江嘩CEOは中国科学院で博士号を取得し、香港科技大学で博士研究員を務めた経歴を持ち、10年にわたりロボットの操作学習を研究している。
Daimonは「知覚・データ・モデル・実装」の全工程をカバーする高い技術力を備えている。同社の視触覚センシングデバイスはすでに1万個規模の出荷を実現。出荷量は世界トップで、ロボットハンドメーカーの約80%が製品を採用しているという。また、触覚を含む全モダリティで物理的な接触能力を評価する世界初のベンチマーク「RobOmni」も発表している。
同社は、視覚・触覚・言語・動作(VTLA)を統合した技術体系を早くから提唱してきた。2024年には主流の視覚・言語・動作(VLA)アーキテクチャに触覚を取り入れて、VTLAによるエンドツーエンドモデルのアプローチを打ち出した。これを基盤として、世界初となる触覚ベースの世界モデル「Daimon-TWM(Tactile-grounded World Model)」を発表。物理的認識や推論・意思決定、瞬時の操作制御を初めて1つのモデルに統合し、ロボットの緻密な操作を可能にする「頭脳」の構築を目指す。

物理的認識や推論・意思決定、瞬時の操作制御を初めて1つのモデルに統合
このモデルは、接触の多い実環境のタスクにおいて、高い成功率と干渉への耐性を示すことが実証されている。また、異なるロボット本体、ロボットアーム、ロボットハンド、センサーにも展開できる優れた汎用性と汎化能力を備えている。例えば、世界人工知能大会(WAIC)で披露した筆記具をペンケースに片付けるデモンストレーションでは、ロボットが柔らかく形を変えるペンケースにうまく対応しながらファスナーを開け、筆記具を入れ、閉じるという一連の作業を完了。途中で作業を妨害されても自律的に計画を立て直し、外部からの干渉にも対応できる能力を示した。現場での成功率は95%に達したという。

「Daimon-TWM」でガラス片を片付けるタスクを実行
現在、この技術は電子機器の精密製造や自動車のスマート生産ラインなど、実際の生産現場で検証が進んでおり、USBの抜き差しやラベル貼り、壊れやすい製品の仕分けといった繊細な力加減が求められる工程に導入されている。ミリ単位の位置合わせが必要なUSBポートなどへの接続作業では、位置が正しいか、引っかかりが生じていないかを触覚から判断し、向きや力加減を調整する。位置がずれた時にも、無理に押し込むのではなく、いったん手を戻してから再び位置を合わせるようにする。
さらに、大規模に展開している触覚センシングデバイスとデータ収集システムを基盤として、世界最大規模となる触覚を含む全モダリティの物理世界データセット「Daimon-Infinity」を構築した。シミュレーションデータから、ロボット本体を使わずに収集したデータ、遠隔操作データまでをカバーするデータのピラミッドを作り上げ、触覚を含む全てのモダリティの操作データを数十万時間分蓄積した。年内には数百万時間にまで拡大する計画だという。
データ収集については、中国移動(チャイナモバイル)と共同で、家庭をデータ収集の場として活用する取り組みを展開している。湖南省郴州市に世界初の「エンボディドAI向けデータ収集拠点」を開設し、まずはデータ収集用デバイスを1000セット投入する。フル稼働すれば、年間100万時間分の実際の操作データを収集できる見込みだ。

チャイナモバイルと共同で、家庭をデータ収集の場として活用する取り組みを展開
商用化も順調に進んでいる。これまでに200社余りにサービスを提供しており、うち海外の顧客は50社を超える。製品はすでにOpenAIやFigure、Physical Intelligence、Skild AI、Meta、Google DeepMind、BMWなどに導入されているほか、複数の企業とモデル導入プロジェクトやPoC(概念実証)も進めている。また、電気機器大手の匯川技術(INOVANCE)や米EV大手テスラのサプライヤーとも取引しており、産業自動化やロボット業界のサプライチェーンにも参入を果たしている。
*1元=約24円で計算しています。
(翻訳・畠中裕子)