「8時間動く」と「8時間役に立つ」は違う 中国ヒューマノイド、商用化の試験が始まった

2026年夏、中国のロボット業界は大きなイベントが相次いだ。7月に上海で開催された「世界人工知能大会(WAIC 2026)」、そして8月の北京での「世界ロボット大会(WRC)」である。

どちらの会場にも人型ロボット(ヒューマノイド)があふれていた。宇樹科技(Unitree Robotics)が人型ロボットのグループダンスや格闘を見せ、加速進化(Booster Robotics)がサッカーのシュートを見せるなど、従来の「歩く・踊る」といったパフォーマンス動作は今なお健在だった。二足ロボットは人だかりができ、四足ロボットは軽快に歩き回り、器用なロボットハンドは柔らかい物体をつかむ。さらに、料理や清掃を披露するロボットまで登場した。一見すると似た印象を受ける2つの大会だが、そこから見えてくる景色は少し異なっていた。

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WAICがエンボディドAIの登場により「AIがついに身体を得た」ことを実感させるイベントだったのに対し、WRCでは「実際に何時間働けるのか」「誰が買うのか」という、極めて現実的な問いが全面に浮き彫りとなったのだ。中国の人型ロボット産業は、派手なデモの時代を終えたわけではない。しかし、単なるデモやパフォーマンスだけでは評価されにくい段階に入ったことは確かだ。

宇樹科技(Unitree Robotics)の有人操縦型の変形メカロボット「GD01」

WAIC:「AIの身体化」とモデルの進化

7月のWAICでは、エンボディドAIが主役の一つになった。ロボットの身体を通じて現実世界を「見て、考えて、動かす」この技術に向け、会場には208種類もの端末と、300台を超える実機が集結したという。出展企業数も前年の80社余りから200社超へと急増した。中国のAI企業、ロボットメーカー、部品メーカー、大学・研究機関が、一斉にエンボディドAIへ照準を向けたと言えるだろう。

WAICでの人型ロボットは、単に「歩く・踊る」存在ではなく、工場、倉庫、案内、問い合わせ対応、カフェなどで働く「AIデバイス」として展示されたのが特徴的だった。人々の視線は、ロボットの「身体」そのものから、それを動かすVLA(視覚・言語・行動モデル)やマルチモーダルモデルなどの「正しく見て、理解し、判断して行動できるか」という頭脳側の進化へとシフトした。

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WRC:「商用化」への厳しいリアル

一方、WRCで注目すべきこととして、初めて「調達日(商談日)」が設定された点を挙げたい。単なる製品発表や技術展示の場を超え、クライアント企業や完成機メーカー、部品メーカーが直接商談し、導入・試用・量産へと結び付ける段階まで来たということである。

これに伴い、業界の焦点は「ロボットに何ができるか」から「誰が購入し、どの作業で、どのように使うのか」へと移った。顧客が人型ロボットに求める評価軸は、歩行性能や外観の精巧さではなく、稼働率、精度、保守性、電池交換の利便性、そして投資回収期間(ROI)になった。言い換えれば「安定して作業を続けられるか」「エラー時に人間を頼らず自己復帰できるか」「故障時の修理体制はどうなっているか」「導入企業は何年で投資を回収できるか」「他の工場や倉庫へ横展開できるか」といったシビアな課題が、急激に現実味を帯びてきた。

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「ヒューマノイド万能説」からの脱却

WRCでは人間そっくりな見た目のリアル志向のロボットが目立った一方で、「必ずしも人型である必要はない」というメッセージも強くなっていた。会場には4メートル級の大型ロボット、半人馬型の輪足ロボット、四足ロボットなど、多様なフォルムが並んだ。産業用ロボットの観点では、地面が平らな工場や倉庫なら、車輪付きの双腕ロボットや自動搬送機の方が「速く、安く、安定して」働ける。また、電力設備や鉱山、災害現場のような危険な場所なら、四足歩行ロボットが向いている。

人型ロボットが価値を発揮するのは、段差、階段、狭い通路、人間用に作られた既存設備、繊細な作業など、「人間向けの環境を改善できない場所」に限られる。短期的には「人型が既存の専用ロボットをすべて置き換える」のではなく、「専用機では対応しきれない工程を人型や双腕ロボットが補う」未来の方が現実的に見える。何でも人型ロボットに任せるのではなく、明確な「適材適所」の生き残り競争が始まっている。

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「8時間勤務」の壁

36Kr中国の記事では、WRC後の中国のエンボディドAI業界について「ロボットが8時間勤務制を迎える」と表現している。言葉としてはキャッチーでイメージしやすいが、実際に導入すると考えるとこれが難しい。ロボットが8時間働くには多くの条件が必要になる。

衣類を畳む銀河通用機器人(Galbot)のヒューマノイド

バッテリーが持続すること。関節モーターが過熱しないこと。カメラやセンサーが照明の変化に対応できること。荷物を落とさないこと。通路で人や障害物にぶつからないこと。想定外のエラー発生時、エンジニアの手を借りずに復帰できること。そして何より重要なのは、単に「8時間電源が入って動作し続ける」のではなく、「8時間ずっと役に立つ仕事をしている」ことなのだ。

すでに一部の中国企業は、「6~8時間の連続作業を可能」「段ボールの積み下ろしや、部品供給で、1日8~10時間の安定運用を実現」と発表している。しかし、同じ8時間であっても、「定常ルートを往復する単純搬送」と「雑然とした倉庫で多様な商品を見分け、判断して掴む作業」とでは難易度がまったく違う。「8時間勤務」は、ロボット業界にとって新しいキャッチコピーであると同時に、商用化の本当の試験問題でもある。

ソフトクリームをカップに入れる智平方(AI² Robotics)のヒューマノイド

星動紀元(ROBOTERA)のヒューマノイド「星動L7」がデモを行う様子

ただし、デモが無意味になったわけではない。宙返りやダンスは、関節の応答速度や全身の姿勢制御といった基礎性能を示す指標でもあり、資金調達や人材採用の場面では依然として強い説得力を持つ。変わったのは、デモだけでは評価が完結しなくなったという点だ。

普及のカギを握るアフターサービス

ロボットが日常的に現場に入れば、当然ながら故障、バッテリー劣化、センサーのズレ、関節の摩耗、ソフトウエアの更新といった問題が日常的に発生する。ここで急浮上するのがアフターサービス体制の重要性だ。

JDドットコムは中国国内にロボット向けアフターサービスセンターを8カ所設け、修理、故障診断、充電・電池交換、試験、回収などを提供している。今後は出張修理の対象を50超の都市へ拡大する計画だという。ロボットが本格的に普及するかどうかは、ロボット本体の性能だけでは決まらない。「壊れたら翌日に直るのか」「代替機が来るのか」「保守契約はいくらか」といった、地味なアフターインフラが必要になる。ロボット修理職人を目指すパソコンやスマートフォンや家電の修理業者は少なくなく、人材数では困らなさそうだ。

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検証期間が始まった

WAICは「AIが身体を得た」可能性を見せた。WRCはその身体を「誰が買い、どう保守し、どれだけ働かせるのか」という現実を突きつけた。この夏、中国のロボット業界で起きたのは、「人型ロボットの完成」ではない。むしろ、人型ロボットが人間の仕事を担えるのかを、実際の数字と現場運用で検証する「過酷なテスト期間」の始まりだった。

これまで人型ロボットの出荷先は、主に大学、研究機関、イベント展示向けのレンタル企業だった。しかし、今後は工場や倉庫などで導入したい企業による購入の割合が徐々に高まっていくだろう。ただし、それはこの検証期間の結果次第だ。

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(文:山谷剛史

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