BYD軽EV「ラッコ」、中国自動車メディアはどう評価?N-BOX・サクラと乗り比べ
中国電気自動車大手の比亜迪(BYD)が日本向けに開発した軽EV「RACCO(ラッコ)」は、2026年7月の発売以来、すでに1800台超を受注したとしている。
BYDとしてだけでなく、海外メーカーが日本の軽規格に合わせて新たに設計した自動車は初として、大きな注目を集めている。その関心の高さは中国でも同様だ。今回は中国の自動車ジャーナリスト数名が来日し、ラッコと日系の競合車種を乗り比べた。
まず、ラッコの特徴を押さえておこう。N-BOXやルークスと同じ「軽ハイトワゴン」型で、価格は214万5000円~249万7000円。いずれも国のCEV補助金15万円の対象となる。一充電走行距離はWLTCモードで、標準グレードの「200」が210km、上位の「300 Plus」「300 Premium」が320kmだ。上位グレードは日産サクラの180kmを上回り、電動スライドドアとともに比較のポイントとなる。
日本メディアではしばしば「黒船」と形容されがちなラッコは、中国メディアの目にはどう映ったのだろうか。今回の試乗ではラッコと同じ軽ハイトワゴンのガソリン車「ホンダ N-BOX」「日産 ルークス」、そしてハイトワゴンではないものの、同じ軽BEVの「日産 サクラ」の計4台を用意して比較した。
航続距離と装備に強み、乗り心地では日系勢に評価

AUTO九局下半、 張効銘氏
自動車メディア「AUTO九局下半」の編集長で、業界30年以上の経験を誇る張効銘氏は、「とても良い印象を受けた。中国で販売されている『BYD シーガル』や『吉利(Geely)星願』『五菱 ビンゴ』といったコンパクトBEVよりも完成度が高い。室内空間が広く使い勝手も良好で、BEVとしてのスペックや細部のデザインは日系競合車と比べても優れている」と語る。
一方で、「競合を圧倒するほどの装備は少ない」と指摘しつつも、「日系の軽BEVにはない約300kmの航続距離や電動スライドドアは大きな優位性がある。走行時のハンドリングや車体安定性もガソリンの軽ハイトワゴンより好印象だ」と評価した。
自動車メディア「東方JM」に加え、YouTubeでは日本語で中国の自動車事情を発信する金木氏は、デザインや仕上がり、足回りのチューニングが中国で販売されているBYD車種に近く、中国のユーザーにとっては特に扱いやすいだろうと分析する。

日本語で中国の自動車事情を発信する、金木氏
日系車種との比較では、「収納スペースやボタン配置は競合車に近い設計思想で、日本の消費者にとっての使いやすさを重視している」とした。一方で、内装のデザインに関しては日系車種の方が洗練されており、個人的には日産サクラの方が好みだと語った。
また、ラッコの日本市場における動向は「軽ハイトワゴンは価格帯や設計がすでに固定化されており、これ以上の革新は望みにくい。ラッコも前席の乗り心地は良かったが、後席では他の軽ハイトワゴンを凌駕するほどではない。競合と比較して目立った装備の差は無く、価格面の優位性も薄いため、そこが課題だ」とした。

車内前列の様子
中国の動画投稿サイト「ビリビリ」で活躍するジャーナリストの陳子豪氏は、ラッコがあらゆる面でホンダN-BOXを参考にしつつ、単純なコピーではなく、中国EVらしい装備を「足し算」の要素として追加し、軽自動車として優れたコストパフォーマンスを実現したと評価する。

自動車系インフルエンサー、陳子豪氏
走りの面では「重厚感があって安定はしているが、路面の細かな凹凸のいなし方はN-BOXの方がまろやか。これは単純にサスペンションの設計だけでは実現できず、ボディやシートといったその他の要素との細かな連携が必要で、ホンダの長年の経験が活きている」と、BYDに足りていない部分を指摘する。
さらに、「空間設計もN-BOXを参考にしているものの、ドアの開閉音やシートスライドの扱いやすさは、構造を真似ただけでは使い勝手まで再現できるわけではない。細かい部分の使い勝手や洗練度はホンダの方がより日本人を理解している」と語った。
日産サクラとの違いについては、「サクラは『都市型BEV』であるのに対し、ラッコは『BEV版N-BOX』を目指している。サクラは全高が低くて車重も軽く、ステアリングは軽快で、狭い路地や駐車場での車体感覚が掴みやすい。市街地でのフィーリングもサクラが優れている。一方でラッコは、後部座席に家族を乗せて移動することを念頭にN-BOXをターゲットとしており、両者のコンセプトは明確に異なる」
販売拡大の鍵は、整備体制とリセール価値

ラッコのハンドル
ジャーナリスト陣に共通していたのは、ラッコが「競争力のある価格で、日本メーカーがまだ提供できていない価値を示した」と認める一方で、日本におけるサポート体制やリセールバリューに課題が残るという認識だ。
中国ではメーカー・ブランドのディーラーだけでなく、街中の整備工場や部品店を頼る傾向が強いが、日本では何かあったらすぐに駆け込めるディーラーへの信頼が厚い。そうした国民性を理解してBYDもこれまでに全国約60カ所の正規店舗を開業しているが、日本メーカーに比べるとまだまだ少ない。また、既存のBYD車オーナーからは車検や点検などのメンテナンスが人員不足で予約変更になったとの声も少なからず聞かれ、今後の販売拡大のためには拠点の数だけでなく、人員拡充も不可欠となる。
日本は輸入車ブランドにとって厳しい市場だが、BYDには中国ブランド特有の壁も立ちはだかる。単なる「中国製BEV」だからといってエビデンスに欠いた批判や、逆に競合と比較して優れてる点だけを盲信するのではなく、個々の消費者の使い方に照らしあわせて最適な軽BEVを選ぶことが重要だろう。
BYDラッコの登場は日本メーカーにとっても良い刺激になっているだろう。これを受けて各社がどのような改良や新モデルを世に送り出すか、市場自体のさらなる前進に期待したい。
(文:中国車研究家・加藤ヒロト)