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報酬を前払いにすれば、働き手の満足感が高まるのではないか。フィリピンではそうなる可能性がある。
こうしたサービスを最も早く体験できるのはフリーランスで働く人々だ。彼らは収入が不安定なために銀行の金融サービスを受けられない。中国の市場調査会社「智研諮詢(Intelligence Research Group)」が発表したリポートによると、フィリピンの成人のうち80%は銀行口座を開設しておらず、90%はクレジットカードを持っていないという。
「FRESH APP」はフリーランスで働くフィリピンの人向けに開発されたアプリで、新興ネット銀行と仕事マッチングプラットフォームをつなぎ、BNPL(後払い決済)、EWA(報酬前払い)、分割払いなどの金融サービスを提供している。
FRESH APPのバックエンドにある仕事マッチングプラットフォームでは、フリーランスで働く人が自身の状況に合わせて仕事を受注でき、企業などの発注者は必要な仕事の情報を掲載できる。フリーランスは受注した仕事を終えると、発注者が検収した後に報酬を得られる。こうしたプラットフォームではモビリティサービス、クラウドソーシング、家事代行、Airbnbのような空室レンタルといった仕事が取引されている。
また、ギグエコノミー(単発・短期の仕事を請ける働き方)の規模も拡大している。クレジットカードのMastercardによると、2023年末にギグエコノミーの規模は4550億ドル(約53兆8000億円)に上る見込み。会計事務所デロイトの調査データによると、先進国のミレニアル世代では正社員の64%が副業を希望しているという。Mastercardは2023年に世界のフリーランス人口が9億人以上になると予測した。
報酬も上がっている。越境決済プラットフォーム「Payoneer(ペイオニア)」が発表したリポートによると、フリーランスの時給は世界平均で2018年の19ドル(約2200円)から2020年の21ドル(約2500円)に上昇、大多数の国の平均時給を上回り、間接的にフリーランスの供給不足を示している。
FRESH APPのフロントエンドでは、フィンテックの発展によってさまざまな人が金融サービスを享受できるようになった。創業者の呂士貝CEOによると、新興ネット銀行は「デジタルバンク」と「ネオバンク」の2種類に分けられる。デジタルバンクは銀行業の免許を有し、ネオバンクはそのプラットフォームを利用してサービスを提供する。
FRESH APPはすでに貸金業者として登録済みで、将来的にはデジタルバンクと提携するネオバンクを目指している。
新興ネット銀行は決済方法の変化も後押ししている。フィリピンのデジタル決済普及率は2024年までに30%を超えるとの予測もあり、従来型銀行のデジタル化も進む見通しだ。
FRESH APP は設立から2カ月後の昨年11月にサービスを開始した。呂CEOによると、今年1月末時点の登録ユーザーは1万人を超え、借入完済後の再契約率も9割に達した。
また、若者が多く、フリーランスの割合が高いこともFRESH APPがフィリピンから事業をスタートした理由だ。呂CEOによると、フィリピンの人口1億1000万人のうち約10%(1100万人)を占めるフリーランスは年齢も若く、自由度の高い仕事を選ぶ傾向がある。英語を母国語としているため、世界各地でカスタマーサービスに従事しやすいという特性もある。
将来的にFRESH APPは仕事マッチングプラットフォームと提携してユーザーデータを共有し、潜在ユーザーの発見能力を向上させる方針だ。また、インドへの進出も計画しているという。
呂CEOはこれまでにも複数の金融サービスアプリ運営企業で役員を務め、数百万人のユーザーにサービスを提供してきた。CRO(最高リスク責任者)のDavid Ma氏は中国科学院修士、米エール大学統計学博士で、米国のシティバンクやバンク・オブ・アメリカで管理職の経験がある。
(翻訳・大谷晶洋)
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