「物理法則」を学ぶロボットで大型調達 中国新興、自動車工場の「残る3割」狙う

産業用エンボディドAI(身体性を持つ人工知能)を手がける中国スタートアップ「光象科技(Sunrising AI)」はこのほど、エンジェルラウンドで累計数億元(数十億円)を調達した。珠海科技産業集団、興証資本(Industrial Securities Asset Capital)、松禾資本(Green Pine Capital)、行雲科技(Xingyun Tech)、零一創投(01VC)などが出資した。

調達資金は、物理法則を学習に取り込む「物理ネイティブ基盤モデル(Physics-Native Foundation Model)」の開発や改良に充て、産業現場へのAIロボット導入を進める。

光象科技は2025年4月、清華大学の自動車・モビリティ学院と人工知能学院の支援を受けて設立された。創業者の張涛CEOは、アリババグループ傘下の高徳地図(Amap)で空間認識エンジン開発の責任者を務めた人物で、その技術はすでに数百万台の車載端末に搭載されている。共同創業者の李升波氏は清華大学の教授で、強化学習と自動運転分野の世界的な専門家として知られる。

人型より車輪式――中国・光象科技、自動車工場から始める産業用AIロボットの現実解

同社は、現在のロボット開発で主流となっているVLA(視覚・言語・動作)モデルや、動画世界モデルとは異なる技術手法を採る。張CEOによると、VLAモデルは人間による実演データをもとに動作を学ぶため、学習データに含まれない状況への対応に限界がある。一方、動画世界モデルは映像の変化を予測することを主眼としており、物体の質量や摩擦、慣性といった物理的な特性を正確に扱うのが難しいという。

光象科技が目指すのは、人間の動作を模倣するだけでなく、現実空間とシミュレーション環境を往復しながら、物理法則を自律的に学習するロボットだ。

この構想を支えるのが、強化学習アルゴリズム群「Phi-RL Matrix」、物理データ基盤「Phi-Space」、開発プラットフォーム「Phi-Arch」で構成する技術体系だ。高精度なシミュレーション環境で大規模な物理データを生成し、モデルの学習、検証、実機への導入を一体化する。モデルの開発効率を高め、未学習の作業や環境に対応する汎化能力の向上を図る。

同社は2026年6月、産業用エンボディドAIロボット「Phi-Bot X1」を正式発表した。四輪操舵で全方向へ移動できるシャシーと昇降式の腰部を備え、全身の自由度は27。高さ0~2.5メートルの範囲で作業できる。双腕には全関節で力制御を採用し、1キロヘルツ(kHz)の協調制御とリアルタイムの力覚フィードバックに対応する。機体搭載センサーのみで位置決め精度10ミリメートル、先端繰り返し位置決め精度0.05ミリメートルを実現したほか、約1分での電池交換にも対応するという。正式発表に先立ち、自動車メーカーの生産ラインで初期段階の概念実証(PoC)を完了している。

2026年のATC展示会では、Phi-Bot X1が3日間連続で21.5時間稼働し、自動車生産ラインにおける溶接工程の部品搬入・搬出作業をミスや中断なく完了した。同社によると、移動しながら実施する品質検査では、人手に比べて作業効率が25~40%向上した。導入に必要な期間も、従来の自動化設備では半年以上かかる場合があるのに対し、数日から数週間に短縮できるとしている。

こうした初期段階の検証を通じて商業化の実現可能性を確認したことを受け、光象科技は国内外の複数の自動車メーカーと提携し、部品の搬入・搬出や品質検査などでの導入をさらに進めていく方針だという

張CEOは、自動車製造は産業用ロボットやプログラマブルロジックコントローラー(PLC)の導入が進み、定型的な工程の多くがすでに自動化されていると指摘する。一方、柔軟な判断や頻繁な工程変更が必要な作業では、依然として人手への依存度が高い。同社は、こうした自動化が難しい約3割の工程に、エンボディドAIロボットの事業機会があるとみる。具体的には、溶接工程への部品供給、高所や低所での組み立て、完成車の品質検査など、作業姿勢や安全面で従業員への負担が大きい工程を対象とする。

同社の試算では、中国国内の自動車製造向けロボット市場だけでも約1000億元(約2兆4000億円)に達する。まず自動車工場で対応可能な工程を広げ、導入実績を積み上げた後、他の製造業にも事業を展開する方針だという。

*1元=約24円で計算しています。

(翻訳・田村広子)

日本企業のDXを促進するプラットフォーム「CONNECTO」
無料コンテンツ公開中

最新記事