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2026年の除夕(春節の前日、日本でいう大晦日)に中国で放映される国民的番組「春晩(春節聯歓晩会)」のテクノロジーパートナーに、TikTokを運営するバイトダンスのグラウドサービスプラットフォーム「火山引擎(Volcano Engine)」が採用された。
Volcano Engineが支える製品の中でも今最も勢いがあるのが、AIアシスタントの「豆包(Doubao)」。そのDAU(1日あたりのアクティブユーザー数)は1億を達成しているという。テキストはもちろん、画像や動画のコンテンツ作成や編集にも強い生成AIとして知られており、今やコアユーザーだけでなく、一般的なスマホ利用者にとっても「一度は触ったことがある」レベルにまで浸透している。
中国の生成AIといえば「DeepSeek」を思い浮かべる人も多いだろう。登場当初は「DeepSeekショック」と呼ばれるほどの注目を集めたが、想定を超える利用者の急増にサーバーが追いつかず、度重なるサービス停止に見舞われた。その隙を突く形で、2025年後半から豆包が猛追。2025年9月時点で豆包のMAU(月間アクティブユーザー数)は1億7200万人に増加したが、DeepSeekは1億4400万人まで減少し、豆包は中国コンシューマー向け生成AI市場で圧倒的なトップの座に躍り出た。
「春晩」が映し出してきたハイテクの系譜
春晩は単なる娯楽番組ではない。ここ数年、毎年のようにハイテク技術を番組内で紹介する「ショーケース」としての役割を強めている。たとえば、去年は人型ロボット(ヒューマノイド)が人と一緒に中国の伝統舞踊を披露し、大きな話題を集めた。この演出をきっかけに、ヒューマノイドへの関心が一般層にも広がった。「一度使ってみたい」というレンタル需要も急増し、レンタル業者による購入が進んだ。
【こぼれ話】中国の春節前日の番組「春節聯歓晩会(春晩)」で宇樹科技(UNITREE)のロボット「H1」が集団で踊るパフォーマンスをしました。その時の様子や予行練習の風景が動画に。同番組ではドローンやメタバースなど、その時々で最新トレンドのハイテク技術を導入し紹介することでも知られています pic.twitter.com/JEXqXafVk4
— 36Kr Japan@中国テック・スタートアップ専門メディア (@36krJ) January 29, 2025
ヒューマノイドの開発自体はそれ以前から行われていたが、春晩を通じた可視化によって、「中国はこの産業を国家として後押ししている」というメッセージが一般市民にも伝わった点は大きい。
そこで、春晩はこれまで、どのようなハイテク技術を披露してきたのか、代表的な事例をいくつかピックアップして振り返ってみよう。
2012年の春晩ーー映像技術と配信の進化
2012年には、大型スクリーンを駆使して、当時としては圧倒的な映像美を実現する演出が行われた。番組制作においてはデジタル化・ハイビジョン化が進み、さらに動画サイト「優酷(Youku)」や「愛奇芸(iQiyi)」で同時配信も実施された。これにより、視聴者はテレビに限らず、PCやスマートフォンなどさまざまな端末で番組を見ることができるようになった。
先ごろ、テレビやオーディオ機器事業でソニーとの合弁会社設立を発表したTCLもこの流れと無縁ではない。2011年当時、中国で初めて自社開発パネルの量産化に成功したのがTCL系の企業だった。それまで、中国のテレビメーカーは海外製ディスプレイパネル部品を輸入し、組み立てる形に依存していたが、この量産化は「中国産でもこれだけできる」という象徴的なメッセージを内外に示すものだった。
もうひとつの象徴的な取り組みが優酷や愛奇芸での同時配信である。当時、両サービスは話題性の高いプラットフォームとして急成長しており、大規模イベントに限ってライブ配信を開始していた。春晩での同時配信は、動画配信という新しい試聴体験をより多くの人に体験してもらう狙いがあり、両社が揃ってライブ配信を行った点に大きな意味があった。
2015年の春晩ーー中国キャッシュレス時代の幕開け
2015年にはテンセントの電子決済の微信支付(WeChat Pay)を活用したインタラクティブなキャンペーンが、番組放送と同時に実施された。テレビ画面の指示に従って、微信アプリをインストールしたスマホを振ると、金一封「紅包(お年玉)」がもらえる仕組みである。
アリババの支付宝(Alipay)と微信支付の普及段階にあった当時、多くの視聴者が「テレビの前でキャッシュレスのお金がもらえる」体験に強い関心を示し、家族そろって画面に釘付けになった姿は、中国がキャッシュレス社会へ突入する決定的な瞬間だった。
2016年の春晩ーー演出の主役となったドローン
その翌2016年には、番組演出にドローンによる空撮を本格的に取り入れた。ドローンは2010年代前半に民生用途で徐々に普及がはじまり、2015年にはDJIが4K撮影対応モデルを投入している。ちなみにこの年にも春晩でロボットによるパフォーマンスが行われているが、サイズは小型で、ヒューマノイドと呼べるほどの存在感はなく、去年ほどの大きな話題とはならなかった。
2017年の春晩ーーVR体験の拡張と普及の壁
2017年の春晩からはVR(仮想現実)での視聴にも対応し、その後も毎年のようにメタバース対応など、VRを使った体験を向上させるサービスを用意した。しかしVRはハードルの高さやコンテンツ不足から現在も普及には結びついていない。このほか近年では、AIによる音声字幕、AI手話解説、360度撮影カメラなど、最新技術を活用した演出や新製品の披露が続いている。
2026年の春晩ーー生成AI各社が競う「お年玉合戦」
ちなみに、テンセントの生成AIサービス「元宝(YuanBao)」も、今年の春晩に合わせて総額10億元(約220億円)のお年玉を配布する予定だ。追随する百度(バイドゥ)も「文心(Ernie)」関連製品で5億元(約110億円)の予算を投じ、最高1万元(約22万円)が当たる抽選を実施。前述のバイトダンスの豆包も含め、AI各社が「札束」を武器に一般市民への急普及を狙っている。


最後に
このように春晩は、テクノロジーに関心のない人々にも最新技術をわかりやすく伝え、国家が注力する分野を案に示す重要な番組となった。ただし、お披露目された技術がすべて定着するわけではない。キャッシュレスのように爆発的に普及し生活インフラ化するものもあれば、VRのように長らく模索が続くケースもある。
2026年の春晩で活用されるVolcano Engine(豆包)もまた、生成AIを“見せる”だけでなく、“使いたくなる”仕掛けが用意されるだろう。日本のユーザーにどうやって生成AIを楽しく使ってもらうかの参考にもなれば幸いだ。これを「中国だけの話」で終わらせるにはもったいない。
(文・山谷剛史)
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