「AIエンジニア」が設計図を描く、手直し作業9割減ーー中国のAI CAD企業、建築・電力・船舶に300社導入
2026年に入り、大規模言語モデル(LLM)ブームが落ち着き、世界の人工知能(AI)産業が商用化フェーズへと移行するなか、AIとCAD(コンピューター支援設計)を統合するプラットフォームを開発する中国のスタートアップ「品覧科技(Pinlan Technology)」が注目を集めている。消費者向けの大ヒット製品を狙うのではなく、建築・電力・船舶などの専門分野に特化し、業界が長年抱えてきた非効率を「AIエンジニア」で解決しようとしている。
創業者の李一帆氏は、清華大学と米カーネギーメロン大学を卒業し、2018年にシリコンバレーから帰国して品覧科技を設立した。翌2019年、中国不動産大手・万科企業(Vanke)との協業を通じて、設計業務へのAI導入の糸口を掴んだ。
建築設計の8割は製図作業の繰り返しで、図面1枚当たり平均10回の修正が行われる。一方で、膨大なデジタル図面、仕様書、経験はAIが学習するための理想的なデータになる。ただし、設計図は一般的な画像とは根本的に異なる。レイヤー・記号・寸法など高度に構造化された情報が含まれ、数百枚に及ぶ図面が複雑に関連し合っている。
同社は幾何学や構造力学などの基礎知識をもとに製図のロジックを分解し、業界ノウハウと組み合わせることで、AI CADプラットフォーム「築絵通」を開発した。避雷針のような小さな設備から住宅全体の電気システムまで、実際の設計業務に活用できる。
「築絵通」の画面
製図効率10倍、手直し作業9割減
現在7回のバージョンアップを経た「築絵通」は、LLMや深層学習による画像認識を基盤に、クラウドCAD・図面認識AI・設計特化型LLM・設計AIエージェントといった機能を備える。顧客はプラットフォーム上で専用モデルをトレーニングするだけで、製図の効率を最大10倍に向上させ、手直し作業を従来の1割まで削減できる。すでに建築・発電・船舶などの分野で法人顧客300社以上を抱え、業績は黒字化を達成した。
2023年に中国の不動産市況が悪化したことを機に、同社はビジネスモデルを「ソフトウェアライセンス+導入サービス」へと転換。顧客とのカスタマイズ版共同開発にも対応し、業種ごとの特殊なニーズに応えている。たとえば、中国家電大手ハイアール(Haier)とはエアコン設計ソフトを共同開発し、設計時間を70%短縮。あるホテルチェーンでは客室設計にかかる時間が4時間から1時間へと大幅に短縮されたという。
製品のイメージと活用シーン
日本市場にはODM型で参入
海外展開では、汎用SaaSではなくODM(相手先ブランドによる設計・生産)型の提携方式を採用した。日本市場では現地パートナーに専門家ネットワークと販路を担ってもらい、品覧科技が技術を提供するかたちで参入している。
日本特有の戸建てスタイルや厳格な耐震基準への対応のため、アルゴリズムを現地仕様に再構築した。日本市場では信頼性と丁寧な仕上がりへの要求が高く、既存の設計フローや使用ソフトウェアとの互換性確保が不可欠だ。日中両国にスタッフを配置し、製品開発を継続している。李氏は「海外事業はじっくりと取り組むべきで、まず一つの市場で足場を固めてから他国へ展開したい」と語る。
他社が誰もが注目する動画生成AIや対話型AIの開発に注力するなか、品覧科技が磨き続けるのは、避雷針から原子力発電所のケーブル配線まで手がける「AIエンジニア」としての能力だという。
李氏は「建築設計分野では、業界を深く理解するのに時間がかかる。それがそのまま参入障壁になる」と話す。高度にデジタル化された設計領域で、他社が容易に超えられない技術的な優位性を築くことが同社の目標だ。
*1元=約23円で計算しています。
(翻訳・大谷晶洋)