粗利率60%超の衝撃ーー中国「Unitree」、なぜ人型ロボットで稼げるのか

世界的に注目を集める、中国の人型ロボット(ヒューマノイド)メーカー「宇樹科技(Unitree Robotics)」が、IPO前の上場目論見書を公開し、その収益性の高さが業界に衝撃を与えた。2025年1~9月期の粗利率は59.5%に達しており、事業分野別では四足歩行ロボットが55.5%、人型ロボットが62.9%、ロボット部品が60.4%だった。

すでに上場を果たした「優必選(UBTECH)」の直近3年の平均粗利率が37%程度にとどまるのと比べると、Unitreeがいかに突出しているかがわかる。2026年1〜3月期に過去最高の粗利率48.2%を記録した米Appleでさえ、10ポイント以上も下回る。

ロボット業界全体が「巨額の投資・低収益」という課題に直面するなか、Unitreeが値下げを続けながらも、驚異的な収益を維持できているのはなぜなのか。

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電池一本から始まるコスト管理

Unitreeの高収益を支える第一の柱は、創業者・王興興氏の徹底したコスト管理意識だ。同氏の強い節約志向はすでに企業文化として組織全体に浸透している。

よく知られたエピソードがある。王氏はある日、会議室のリモコンを分解し、すぐさま社内チャットで全社員に向けて、コストパフォーマンスの低いブランドの電池を切り替えるようにと指示を出した。事情をよく知る社員によれば、王氏は普段から質素な生活を送っており、持ち家も車も所有せず、会社近くの賃貸マンションから毎日歩いて出勤しているという。

記者が浙江省杭州市にあるUnitreeのオフィスビルを訪れた際も、質素な内装が非常に印象的だった。このビルは、もともと国有企業のオフィスとして利用されていたという。実際、目論見書にも「同社および子会社はいずれも自社保有の不動産を持たない」と記載されており、全て賃貸物件を活用することで固定費を抑制している。

徹底したコスト管理は、財務データにもはっきり表れている。2025年1~9月期の管理費の比率はわずか4.2%と、業界平均の6分の1に抑えられている。販売費比率も6.5%と低く、同業上場企業の半分程度にとどまり、Appleの6.6%すら下回る。この「超低燃費」ともいえる企業体質が、同社に大きな収益をもたらしているのだ。

技術の「使い回し」が生む競争力

コスト管理のさらに根底にあるのは、Unitreeが一貫して追求してきたフルスタックの自社開発戦略である。

目論見書によると、同社の独自開発技術は大きく3層にまたがる。エンボディドAIや強化学習、運動制御などの中核アルゴリズム、熱やエネルギー管理・モーター制御のシステム層、モーターや減速機・ロボットハンド・LiDARいったコア部品だ。

ルービックキューブを操るロボットハンド「Unitree Dex5-1」

一貫した自社開発の最大の強みは、技術モジュールの共用が可能な点にある。四足歩行ロボットと人型ロボットの製品ラインでは、関節制御、機械構造、バッテリー管理、アルゴリズムなど多くの技術を共用でき、重複する研究開発への投資を大幅に削減するとともに、試作から量産への移行もスピードアップできる。あるロボット業界関係者は「Unitreeの四足歩行ロボットは、競合他社を大きく下回るコストで生産できている。これまでに蓄積してきた研究開発と生産のノウハウが、強固な競争力を作り上げている」と語る。

自社生産と外部委託の使い分け

多くのAIロボット企業が商用化のスピードを優先して、外部メーカーに設計から製造まで委託するODM生産を選ぶなか、Unitreeは自社生産ラインを核に据えながら、外部との協業も組み合わせるハイブリッド方式をとる。

具体的には、コア部品の生産やロボット本体の組み立て工程は自社で行い、プリント基板実装(PCBA)や射出成形といった標準化工程は委託を活用している。

在庫管理では、「受注連動型生産+安全在庫」という戦略を採用する。販売計画をもとに生産ペースを決定しつつ、一定の在庫を確保することで突発的な注文にも対応できる仕組みだ。また毎月の会議を通じて、販売・生産・調達の各部門間で情報共有を進めている。こうした運営体制の効果は数字にも直結しており、2025年の四足歩行ロボットの生産販売率(生産量に占める販売量の比率)は86%に達した。人型ロボットでは96%に上り、生産した3700台のうち、3551台が販売されたということだ。

コスト削減の効果は、製品価格の引き下げにも反映されている。2025年1~9月期、同社の四足歩行ロボットの平均販売価格は2万7200元(約63万円)で前年同期比15.8%減となったほか、人型ロボットも35.7%減の16万7600元(約390万円)になった。値下げを進めながら利益を確保できていることは、紛れもなく効率的なコスト管理のたまものと言える。

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“春晩”が火をつけた需要爆発

もっとも、60%という高い粗利率は、コスト管理だけで実現できるものではない。継続的に売上高規模の拡大も不可欠だ。

Unitreeの売上高はこれまで緩やかに伸びてきたわけではなく、2025年に入って急激に跳ね上がった。22年から24年にかけての年間売上高は1~3億元(約20億~70億円)で推移し、一時はUBTECHの10分の1ほどだった。しかし25年1~9月期には、売上高が11億5000万元(約260億円)へと急拡大。関係者によれば、10~12月期の繁忙期を加味すると、年間売上高は20億元(約460億円)近くに達するという。

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この急拡大をもたらした最大の転機が、2025年の国民的年越し番組「春節聯歓晩会(春晩)」だ。Unitreeの人型ロボットがステージで華麗なパフォーマンスを見せたことで、認知度が一気に上がった。同社はこのチャンスをすぐさま販売につなげ、商業イベントや展覧会などの分野で、一般消費者向け市場の新たな用途を切り開いた。こうした追い風のもと、25年通年では四足歩行ロボット1万8000台以上、人型ロボット5500台の販売を達成した。

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一方で、同社が以前から注力してきた巡回点検や防災救援、スマートシティーといった業界向け市場も安定した成長を続けている。さらに、自社開発のロボット部品も「第3の柱」へと成長している。2025年1~9月期、ロボットハンドや協働ロボットアーム、LiDARなどコア部品の売上高が6000万元(約14億円)以上に達したという。

こうした複数の要素が重なり合ったことで、2025年の急激な増収と黒字転換が実現したのだ。

「稼げるロボット企業」という証明

IPO目前のUnitreeの示した実績は、業界の常識を覆すものだった。「巨額の投資で規模拡大を図る」というロボット業界の固定観念を打ち破り、徹底的なコスト管理・一貫した自社開発・的確な商用化戦略によって、高収益と急成長を同時に実現できることを証明した。

もちろん、60%という粗利率は現時点での成果であって、永続的な優位性を意味するものではない。エンボディドAIをめぐる競争が激化するなか、価格競争や開発競争もさらに厳しさを増す見通しだ。Unitreeにとって、この高い収益力を維持できるかどうかが最大の課題になる。

*1元=約23円で計算しています。

(翻訳・畠中裕子)

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