【AIがアニメを量産】中国発「AI漫劇」、爆速拡大と淘汰へ

中国発の「AI漫劇」と呼ばれる縦長ショートアニメが、2025年以降に急成長を遂げている。ネット小説や漫画をAI技術で数分間のアニメへ自動生成する新しいコンテンツ形式で、主に抖音(中国版TikTok)などの動画プラットフォームで流通している。制作モデルは主に「オリジナルIP」または「中国産ネット小説IP+AI」が主流で、日本風の作品も一部存在するが、全体としては中国独自の表現が中心だ。

AIとの名の通り、企画から制作までを徹底してAIで行う。オンライン小説のIPのライセンスを取りつつも、そのストーリー構造から、プロットやセリフ、さらにはキャラや背景や演出までもAIで生成する。その結果として、粗い作品も大量に流通する一方、超低コストで大ヒットを生むケースも現れ、テック企業にとって魅力的な実験場となっている。

日中のAI活用における「決定的な思想差」

対照的なのが日本のアニメ産業だ。中国が「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」戦術に対し、日本でのAI導入は、作画補助や動画補完など、労働環境の改善や単純作業の削減を目的としたアシスタント的な役割に留まる。企画、脚本、演出といったコア部分は、依然として人間が担っている。既存の人気漫画やIPを、AIだけで一気にアニメ化・量産するようなプロジェクトは、著作権や作品観への配慮から、公式にはほとんど見られない。

背景には、中国系テック企業が相次いで投入した動画生成AIの存在がある。「AI漫劇元年」と呼ばれた2025年には、バイトダンスの動画生成モデル「Seeddance」をはじめ、スタートアップ企業各社から関連ツールが登場し、テキストから直接、一定クオリティ以上の動画を生成することが現実となった。これにより、かつて専業スタッフが作業する作画・カット割り・動画編集といった工程がAIに置き換わり、生成AIで文章や画像をつくるかのように気軽に試作が可能になった。

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「セカンドチャンス」となったAI漫劇工場

2025年の秋には、早くもAI漫劇業界に変化の兆しが現れた。「AI漫劇は有望である」と確信し、全リソースを投入する起業家たちが続々と登場する。中には既存ビジネスを畳んでまでAI漫劇専業に舵を切ったスタジオもある。

ある起業家は投資機関から資金調達したのち、AIエージェントが分業で制作する環境を構築した。IP選定、脚本やキャラクターや背景の生成、動画出力、さらに広告の投入までをフルでAIで作成するスタジオをつくり、SeedanceのようなAI漫劇制作アプリを組み合わせることで、従来なら1年を要した制作期間を1カ月前後まで短縮され、「少人数スタッフ+AI」で数十話シリーズを量産できる体制を実現した。まだこの時点での中国AI動画ツールは、画像・動画生成、音声合成、編集アプリがバラバラにあり、それをディレクターが人手でつないでいた。一部のスタジオは自前のスクリプトやエージェントを被せ、半自動のAI漫劇工場を目指していた。

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当時、この恩恵を受けていたのは、アニメ・漫画・ゲーム・インターネット業界から転身した30代40代のクリエイターだったと報じられている。中国のIT業界はリタイア年齢が極めて早く、彼らは本来「お役御免」となる年齢であるが、長年の経験で培ったコンテンツ制作の知見を武器に、AIツールを駆使して多数コンテンツを産み出していった。AIは若手クリエイターの参入障壁を下げ制作しやすくしたという一面はあるが、一度業界を経験した中年層にとってのセカンドチャンスでもあったわけだ。彼らは小さなスタジオや個人チームとしてAI漫劇に参入し、個人または数人のチームでAIを活用した制作ラインを回している。90話前後のAI漫劇1本の制作コストはトータルで数十万元(数百万円)程度に抑えられ、大ヒットした作品は億単位の視聴数となり、そこまでなくとも作品がヒットすれば数倍のリターンが見込めた。

目前に迫る業界の「淘汰」

2026年に入ると、中国製AI動画制作ツールの競争激化により進化が加速し、早くも業界のリストラが起きる。「Seedance 2.0」「Kling」「Vidu」などの動画生成モデルが、1シーンを作るツールから、AI脚本やAI絵コンテなどを包括する制作プラットフォームへと変化。さらにテンセントやバイドゥも独立アプリや自社クラウド上の制作プラットフォームを打ち出し、AI漫劇を「クラウド上で完結する映像生産ライン」としてユーザーの囲い込みを始めた。そしてそれを活用して制作するスタジオもまた、その場しのぎの小規模チームが乱立した初期フェーズから、標準化されたプロセスでブランド化も視野に入れた大規模スタジオが競合するフェーズへと移行していく。

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おそろしいことに今後2、3カ月で多くの企業が参入し、採算が合わず撤退し、9カ月後にはごく少数の企業だけが生き残るという予測もある。昨年立ち上がったばかりの業界が、ツールの成長とともに大きく拡大するも、年内には早くもAI漫劇業界の淘汰がおきるというわけだ。中国市場らしいスピード感ではあるが、その変化はあまりに速い。

次の舞台は世界へ

並行して予測されるのが、制作スタジオが生き残りをかけ、中国国外のTikTokやYouTubeに向けて中国発のIPを展開し、世界規模での収益化を図るシナリオだ。韓国発の縦スクロール(縦読み)「ウェブトゥーン」同様に、一定の利用者を日本でも得そうだ。また日本のコンテンツ業界が中国の事例を学び、どのような距離感でAIと向き合うのか。今後そうした視点でもAI漫劇は動向をチェックし続ける必要があるだろう。

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(文:山谷剛史)

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