コンベヤーから“自動運転”へ 中国企業、磁気浮上で生産ライン刷新
工場の生産ラインといえば、製品が一定方向に流れながら加工されていくコンベヤー方式を思い浮かべる人が多いだろう。効率的ではあるが、工程変更や多品種生産への対応が難しく、「効率と柔軟性の両立」は製造業が長年抱えてきた課題だ。この問題に、磁気浮上技術で挑む中国企業がある。
広東省佛山市に拠点を置く「増広智能(RobustMotion)」は2018年の設立。6自由度の平面磁気浮上搬送システムにおけるコア技術を持つ、中国唯一の企業とされる。約5年の開発期間を経て、2023年に製品化し、その後2年ほどで量産体制と商用化を実現した。
主力製品の磁気浮上スマート搬送システム「MagiFloater」は、業界内で「空飛ぶじゅうたん」と呼ばれている。モジュール化された固定子を組み合わせた平らな作業エリアの上を、わずかに浮いた状態のムーバー(搬送台)が自由に移動する仕組みだ。最大2Gの加速度と、マイクロメートル単位の位置決め精度を実現している。
従来のコンベヤーが「鉄道」のように決まった方向へ進むだけだったのに対し、磁気浮上搬送システムではムーバーの追い越しや合流、回転が可能になるなど「道路」に近い特徴を持つ。各ムーバーが独立して動き、移動中に塗装や組み立て、検査などの工程を並行してこなすこともできる。

「テーブル型」の生産ライン
創業者の黄安傑氏は、「これまでは生産ラインの効率を高めるために柔軟性を犠牲にせざるを得なかったが、磁気浮上技術がその制約を解消できる」と語る。
このシステムを支えるのは、極めて複雑な基盤技術だ。増広智能はマイクロ秒レベルの同期通信が可能な通信プロトコルを独自開発し、50マイクロ秒以内に1万台以上の駆動ユニットを協調制御できる体制を整えた。また磁場計算を通じて6軸位置制御を実現し、エンコーダーやビジョンシステムを使わずに、マイクロメートル単位の精度を達成。さらに、磁気回路の設計や最適化向けに、複数の物理現象を組み合わせたシミュレーションソフトも開発している。
海外製品の多くは「あらかじめ走行ルートを設計する」方式を採用しており、ユーザー自身がルート計画をプログラミングして、ムーバー同士が衝突しないよう設計しなければならないという。これに対し、増広智能では「自動運転」方式を採用、ユーザーは始点と終点を設定するだけで、あとはシステムが走行制御から衝突回避、ルート最適化まで全てを自律的に処理する。

スマート制御の6自由度のムーバーで、生産ラインの「自動運転化」を実現
黄氏は、エンボディドAI(身体性を持つ人工知能)の進化に伴い、業界のボトルネックは徐々にアルゴリズムからハードウエアそのものに移行していくと見る。「今後の鍵を握るのは、小型で高速、高精度、しかも長寿命の実行システムを提供できるかどうかだ」と話す。磁気浮上システムは、従来の機械構造と比べて摩耗がほとんどないため、10年にわたって安定した精度を保てるほか、生産ラインの占有面積を約60%削減できるという。

「搬送と加工工程」を一体化した新型生産ライン
現在、増広智能のシステムは、半導体や電子機器、自動車製造、バイオ医療など高度製造分野で広く導入されている。今後はシステムの速度・積載能力・精度をさらに高め、リチウムイオン電池など大型製品を扱う分野への展開も視野に入れる。
「先進製造業における柔軟性と効率への追求に終わりはない。私たちの役割は、その可能性をさらに広げていくことだ」。黄氏はそう話す。
(翻訳・畠中裕子)