ロボット「触覚」需要急増 中国・他山科技が数十億円調達、受注残は前年売上高の4倍
人工知能(AI)を活用した触覚センサー技術を手がける中国スタートアップ「他山科技(Tashan Technology)」はこのほど、シリーズBで数億元(数十億円)を調達した。
出資には、Lavender Hill Capital Partnersや洪山資本といった投資機関に加え、車載電子部品大手の均勝電子(Joyson Electronics)や家電大手の奥克斯(AUX)、自動車部品メーカーの鵬翎股份(Pengling Group)など複数の事業会社も出資した。調達資金は主に、触覚センサーおよびセンサーチップの改良、ソリューション開発、触覚データ学習プラットフォームの構築などに充てられる。
他山科技は2017年設立で、北京市に本社を置く。中核チームには清華大学や英マンチェスター大学の出身者が名を連ねる。ARMアーキテクチャーの開発に携わり、英国王立協会と英国王立工学アカデミーのフェローを務めるスティーブ・ファーバー氏がチーフサイエンティストを務める。同社は2019年にマンチェスター大学と共同で「AI触覚センサーラボ」を設立し、チップからセンサー、アルゴリズム、データプラットフォーム、シミュレーションシステムまでを網羅する技術体系を構築してきた。

フィジカルAIの急速な進化に伴い、ロボットの知覚能力では視覚に加えて触覚の重要性が高まっている。カメラなどによる視覚が周囲の環境認識を担うのに対し、触覚は物体の把持や組み立て、操作といった精密作業を支える。ロボットが物理世界との接触を学習するためのデータ源としても使われる。
同社の調べでは、ロボットハンドにおける触覚センサーの搭載率は2025年以降、約20%から60%超まで上昇したという。ロボットの学習に使う実機データへの需要が増えるなか、データ収集からAIモデルの学習、シミュレーション、検証まで、触覚データの用途が広がっている。
他山科技はこうした需要を取り込むため、触覚センサーだけでなく、半導体チップやデータ収集、AI学習、シミュレーションまでを一体的に手がける。
チップでは、アナログ信号処理とデジタル演算を組み合わせたAI触覚センサーチップを開発した。スパイキングニューラルネットワーク(SNN)を採用し、多次元の触覚情報を低消費電力でほぼリアルタイムに処理する。同社によると、この方式のAI触覚センサーチップは世界初という。次世代チップは9月末までの発表を予定する。
センサーでは、指先向けの「TS-F」シリーズやグリッパー向けの「TS-E」シリーズを展開する。TS-Fは物体との距離を捉える近接覚に加え、3次元の力覚や温度差、質感などを検知する。最小0.01ニュートンの力を検出でき、30種類以上の素材を接触せずに識別できるという。
触覚データの収集・学習基盤にも事業を広げている。視覚と触覚を組み合わせたトレーニングプラットフォーム「TS-V」とデータ収集プラットフォーム「TS-VT」を開発した。今年3月には北京市石景山区、5月には湖北省潜江市にデータ拠点を設け、触覚を含むマルチモーダルデータの収集や学習などのサービスを提供する。

チャイナモバイルのイベントで、展示された他山科技の「TS-VT」
シミュレーション分野では、米NVIDIA(エヌビディア)のロボット開発プラットフォーム「Isaac Sim」の触覚分野のシミュレーションパートナーとなっている。独自の触覚シミュレーション技術をIsaac Simや物理シミュレーター「MuJoCo」向けにオープンソースで公開した。
さらに、触覚など複数のデータを収集できるデータグローブの発売を予定する。提携するロボットメーカーの雲迹科技(Yunji Technology)とは、触覚センサーを搭載したサービスロボットも発表し、ホテルなどサービス分野への用途拡大を進めている。
事業面では、世界のロボット関連企業180社以上と取引・提携する。顧客には人型ロボットメーカーの星動紀元(Robotera)、銀河通用(Galbot)、自変量(X Square)のほか、ロボットハンドの因時機器人(Inspire-Robots)、強脳科技(BrainCo)、霊巧智能(DexRobot)などが含まれる。同社によると、中国の人型ロボット向け触覚センサー市場で出荷量ベースのシェアは80%を超えるという。
需要の拡大は業績にも表れ始めた。同社によると、2026年5月末時点の触覚センサーの受注残高は25年の年間売上高の4倍に達し、26年1~5月の売上高はすでに25年通年を上回った。26年はロボット向け製品が売上高全体の約3分の2を占め、自動車向けの3~4倍に達する見通しだ。
*1元=約23円で計算しています。
(翻訳・大谷晶洋)