中国の動画配信に「Netflixスタイル」は合わないのか?

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テンセントが2018年第3四半期(7月~9月)の決算を発表した。オンラインゲーム事業の売上高は前年同期比で縮小したものの、オンライン広告事業が大きく伸びた。

オンライン広告事業の内、メディア広告部門の売上高は前年同期比23%増の50億9000万元(約825億円)。テレビドラマ、オリジナルバラエティ番組の成功により動画広告数が増加したようだ。動画配信サイト「騰訊視頻(テンセント・ビデオ)」の広告収入は前年同期比34%増となり、特に第1四半期の動画広告の売上高は前年同期比64%増となった。

騰訊視頻と比べ、ライバルである「愛奇芸(iQIYI)」の低迷は明らかだ。同社の第3四半期決算では、オンライン広告の売上高は前年同期比で9%減、前四半期と比べても8%減の24億元となっている。

愛奇芸の幹部はこの数字について、オンライン広告の減収は「正常」であり、市場環境の影響が大きいと分析する。マクロ経済の低迷でスポンサーの広告予算は全体的にカットされており、また、今年は大型イベントであるサッカーW杯が開催されたため、大手スポンサーの広告費が一部に集中。中小スポンサーの大部分はゲーム会社だが、こちらもゲーム業界への規制が影響して広告費が減少した。加えて、愛奇芸のコンプライアンス上、いくつかのスポンサーとの契約を打ち切ったことも関係しているようだ。

とは言え、同様の市場環境下にある騰訊視頻は、広告収入を大きく伸ばしている。愛奇芸に一体何が起きているのだろうか?

人気コンテンツの欠如

今夏、愛奇芸で配信されたドラマ「延禧攻略(Story of Yanxi Palace)」が記録を打ち立てた。日間再生数が6億回を突破し、2018年のテレビ/ネットドラマで視聴率1位になったのだ。

一方で、エンターテイメント専門の市場調査会社「芸恩」が独自に集計する「播映指数(再生回数や人気度などを総合して数値化したもの)」によると、ネットドラマで上位を占めたのは、騰訊視頻と優酷(Youku)の作品が多い。バラエティ番組のランキングには愛奇芸の作品が2本ランクインしているが、「芒果TV(Mango TV)」や騰訊視頻、優酷の新作が軒並み人気を獲得し、旧作も根強い人気を維持していることに比べると、どうしても愛奇芸のパフォーマンスは見劣りしてしまう。

騰訊視頻は多様なジャンルで結果を出しているが、愛奇芸の人気コンテンツは限定的だということが分かる。コンスタントに人気作品が出せなければ、今後の業績に影響するだろう。

愛奇芸は11月下旬にオリジナルドラマ「国風美少年」、12月中旬にリアリティ番組「演員的品格」の配信を控えているが、この2作品が今年の総決算となるはずだ。

新サービスが広告事業の足かせに

「中国版Netflix」と謳われてきた愛奇芸だが、Netflixの売り上げは月額利用料が主だ。高品質なオリジナルコンテンツを継続的に提供することで成立するビジネスモデルであり、シリーズものの作品を全話まとめて配信することで、多くの新会員も獲得できる。

一方、愛奇芸のビジネスモデルは複雑だ。会費以外に、広告が重要な収入源となっている。現在、愛奇芸は収入源の多角化を図っており、10年以内に「ネット界のディズニー」になることを最終目標に掲げている。

しかし、会費と広告費の両面で収入を伸ばすという戦略には、矛盾も存在している。有料会員は広告をスキップすることができるが、それだけ表示される広告が減ってしまい、広告事業に影響を及ぼすからだ。Netflixのケースでは、シリーズドラマの放映で、1話終了ごとに他作品の番宣をはさんだ場合、会員の約25%が解約したというデータもある。

また、今年6月に愛奇芸が導入した会員向けサービスも広告事業に影響を与えている。このサービスは一部のドラマ作品を対象に、全話まとめて視聴できるサービス(Netflixスタイル)で、会員は短期間の内にまとめて鑑賞する傾向が強い。そのため、作品自体の「消費期限」が短くなり、作品をヒットさせることがより困難になっているのだ。これも広告事業に影響してくるだろう。

広告収入の伸び率を2桁に戻せるか

第3四半期決算で愛奇芸の幹部は「今後、中小のスポンサー広告は通常運転に戻る」「低俗な広告による悪影響は今四半期期で終わる」「次の四半期では新規広告が増加し、今期の損失をカバーできる」などと強気の姿勢を示している。

騰訊視頻が今年のオリジナルドラマやバラエティを昨年よりも大幅に増やしている点も注目に値する。騰訊視頻の会員数は愛奇芸の8070万人を上回る8200万人に達している。

アリババ系の優酷、テンセント系の騰訊視頻と比べ、愛奇芸が資金やマーケティング面で劣るのは致し方ない。今年3月に上場を果たした愛奇芸に対するバイドゥ(百度)の資金援助は限定的で、優酷や騰訊視頻のような巨大な「生態圏」の力を借りることもできない。そのため、愛奇芸は戦略的パートナーを確保することが肝心だ。例えば、京東との提携は、同社の会員サービスにも良い効果を及ぼしている。

各動画配信サイトのコンテンツ能力には格差があるとはいえ、今のところ圧倒的な勝者が存在しないのも事実だ。愛奇芸が巻き返すには、結局のところ、大ヒット作品を継続的に制作・配信していくしかない。
(翻訳・飯塚竜二)

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