「身につけないAI」 中国発スリープテック、睡眠ランプで無接触測定
AIグラス、AIイヤホンやスマートリングなどのウェアラブルデバイスが次々と登場する中、「身に着けないAI」を目指すスタートアップが現れた。
中国発の睡眠AI(スリープテック)企業・格物科技(XSmart)は今年5月、独自開発のランプ型睡眠デバイス「Sleepal AI Lamp」を海外クラウドファンディングサイトのKickstarterで発売した。価格は449ドル(約7万1000円)で、掲載開始から48時間で調達額は20万ドル(約3200万円)を突破した。
なぜAI睡眠ランプなのか?
創業者の範典氏は小米(シャオミ)の創業メンバーの一人で、IoTプラットフォーム部門責任者などを歴任した人物だ。独立後すぐに製品を市場投入するのではなく、約3年を技術開発に費やした。しかも、スマートウォッチやスマートリングではなく、「ランプ型睡眠デバイス」という新カテゴリーに注目した。
起業に至ったきっかけは、自らが睡眠時無呼吸症候群(OSA)を患ったことにある。範氏は睡眠状態を改善すべく、CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)装置やスマートマットレス、睡眠トラッキングベルトなどを試した。しかし、これらの製品はずっと装着しなければならず、充電の煩わしさや生活習慣を変える必要もあり、長期的な使用には向かないことに気づいた。
そこで、ユーザーに一切の負担をかけない「ゼロ・フリクション(摩擦ゼロ)」の睡眠モニタリングデバイスを開発した。利用者は何も身につける必要がなく、ランプとしてベッドサイドに置くだけで、自動的に睡眠データの計測ができる。
非接触の計測技術を支えるのが、60GHzミリ波レーダー、マイクアレイ、サーモグラフィー、環境センサーを組み合わせたセンサーシステムである。ミリ波レーダーで0.1ミリレベルの胸郭の動きを検知し、呼吸や心拍、体動などのデータを取得する。同時にマイクがいびきや環境音を識別し、環境センサーが部屋の光や温度などの睡眠環境データを非接触で記録する仕組みだ。

マルチモーダルセンシングを搭載
スマートウオッチでは手首に光を照射するPPG(光電容積脈波)技術を使って睡眠状態を推計するのに対し、このような非接触型のアプローチなら、より多くの睡眠データを取得できる上、デバイスの装着に伴う不便さや煩わしさを解消できる。
真の価値を生むのは「データ」
睡眠AIの開発で難しいのは、信頼性の高いアルゴリズムを構築することだ。
睡眠医学では、一般的にPSG(終夜睡眠ポリグラフ検査)がゴールデンスタンダードとされており、専門病院で脳波や心電図など多くのセンサーを体に取り付け、一晩にわたる測定を経て睡眠段階を判定する。
格物科技はAIモデルの開発に向けて、過去3年間にわたり複数の病院の睡眠センターと提携し、累計2000泊分を超えるPSGデータを収集してきた。データ整備のために毎年数百万元(数千万円)規模の投資を継続している。これらのデータに基づき、バイタルサイン識別、睡眠ステージ判定、無呼吸検知、寝相識別、いびき分析など7つの特化型AIモデルを確立した。
これを基盤とするSleepal AI Lampは、単に睡眠データの記録にとどまらず、睡眠の質が低下した原因まで分析する。例えば、仰向けで寝ることでいびきが悪化しているのか、あるいは騒音や光、就寝前の運動が睡眠に影響しているのかを判定し、個々に合わせた改善策を提案する。
同社はこのほど、ドイツの睡眠医学の専門家トーマス・ペンツェル氏と共同で論文を発表。病院で取得した1022泊分のPSGデータを用いて検証した結果、Sleepal AI Lampの睡眠ステージ判定アルゴリズムはκ(カッパ)値0.695を達成し、Apple Watch(0.68)やOura Ring(0.65)を上回る精度を実証した。
睡眠分析にとどまらず、家庭向け健康AIに

浅い睡眠に入ったタイミングで徐々に光を点灯させることで自然な目覚めを促す
Sleepal AI Lampには、サーカディアンリズム(概日リズム)に対応した照明、スマートアラーム、ホワイトノイズなどの機能も搭載されている。例えば、深い睡眠の最中に突如アラームを鳴らすのではなく、浅い睡眠に入ったタイミングで徐々に光を点灯させることで自然な目覚めを促す。また、夜間に起床した際にはランプが自動で点灯し、ベッドに戻ると自動で消灯するようになっている。
格物科技は「デバイスの販売+サブスクリプション」のビジネスモデルを採用する方針である。
範氏にとって睡眠デバイス開発は通過点に過ぎない。今後、睡眠モニタリングで培ったマルチモダールセンシング技術を、浴室での転倒検知や食事管理といった生活全体へと拡張することを目指している。バイタルデータを継続的に取得し、AIと組み合わせることで、生活習慣病などの慢性疾患リスクのスクリーニングや総合的な健康管理サービスを提供していく考えだ。
*1ドル=約158円で計算しています。
(36Kr Japan編集部)