SiCパワー半導体、中国「利普思」が攻勢 AIデータセンター需要も視野に
中国のパワー半導体スタートアップ「利普思半導体(Leapers Semiconductor)」(以下、利普思)がこのほど、追加のプレシリーズBラウンドで1億元(約20億円)を調達した。出資には揚州市国金投資と揚州龍投資本が参加した。資金は、江蘇省揚州市で進めている車載用SiCパワーモジュールのパッケージング・試験拠点の建設や、市場開拓に充てられる。
利普思は2019年に設立され、第3世代パワー半導体とされるSiC(炭化ケイ素)パワーモジュールの設計、生産、販売を手がけている。設立当初から技術開発を事業戦略の中核に据え、自社開発体制を構築してきた。パッケージ材料やパッケージング技術に関する特許を取得したほか、熱伝導性の高いエポキシ封止材を用いたSiCパワーモジュールを開発した。またサプライヤーと共同で放熱絶縁基板の材料や製造技術を開発し、「ArcBonding」などのチップ表面接続技術や積層バスバー設計を導入することで電力密度と放熱性能の向上を図った。
パワー半導体は電力の変換や制御を担う電子部品である。SiCパワーモジュールは従来のIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)に比べ、耐電圧性能やスイッチング周波数に優れ、エネルギー損失が小さい。電気自動車(EV)の駆動システムや超急速充電、蓄電設備、送配電設備、人工知能(AI)サーバー向け電源など、高電圧・大電力用途での採用が広がっている。
半導体産業ではここ数年、ミドル~ハイエンド市場を中心にIGBTからSiCパワーモジュールへの移行が進んでいる。創業者の丁烜明最高経営責任者(CEO)によると、同社のSiCパワーモジュールは送配電設備や大型EVトラック、変圧器メーカー向けに量産出荷されており、高温・高電圧・大電流といった厳しい環境で活用されている。2026年は既存市場の開拓をさらに進め、主要顧客との連携を拡大する方針という。
利普思の製品ライン
自動車や太陽光発電、エネルギー貯蔵に加え、SiCパワーモジュールはAIデータセンター分野でも拡大が見込まれている。計算需要の増大に伴い、データセンターでは電力供給効率や設置スペースの最適化が課題となっている。SiCパワーモジュールを用いた半導体変圧器(SST)は高電圧直流(HVDC)給電アーキテクチャの中核を担う機器とされ、省エネルギー化や装置の小型化につながることから導入が進む可能性がある。現在、同社が開発した耐圧1200~3300VのSiCパワーモジュールは、国内外の著名なSSTメーカーによる試験が進められており、2027年頃に量産化が実現する見通しだ。
同社は江蘇省無錫市に信頼性試験やファクトリーオートメーション(FA)試験、応用試験を行う研究施設を設け、自動車産業向け品質管理の国際規格「IATF16949」の認証を取得した。無錫工場は2022年に稼働を開始し、年間生産能力は約70万個という。
また、揚州市で建設を進める車載用SiCパワーモジュールの自動パッケージング・試験ラインの投資額は約10億元(約230億円)で、年間300万個の生産能力を計画する。第1期生産ラインは2026年に完成し、27年3月の稼働開始を予定している。
丁CEOによると、揚州工場では車載用途向けに既存ラインより品質・信頼性管理体制を強化するほか、SiCパワーモジュール専用の自動生産ラインを整備する。次世代の埋め込み型パッケージやカスタム製品の開発にも対応する計画だ。モジュール出荷能力は2027年中に200万個を超える見通しで、送配電設備やAIサーバー向け電源での供給拡大を見込む。
揚州市の生産拠点のイメージ
利普思は中国国内市場だけでなく、海外市場の開拓も積極的に進めている。2020年には日本で研究開発拠点となる子会社を設立し、日本人のベテラン技術者を採用した。また、欧州にも販売センターを設け、現地向けソリューションサービスの強化を図っている。製品は世界20カ国以上に輸出されており、25年の売上高に占める海外事業の割合は5割近くに達したという。
*1元=約23円で計算しています。
(翻訳・大谷晶洋)