シミュレーションで学び、現場で働く。中国・DexForce、「AIロボの頭脳」で商用化加速

過熱する人型ロボット(ヒューマノイド)ブームの陰で、「現場で本当に使えるロボット」に注力する企業群が存在感を高めている。2021年に設立された「跨維智能(DexForce)」はその代表格だ。

同社は広東省深圳市に本社を置くハイテク企業で、香港中文大学深圳校の賈奎教授が立ち上げた。「汎用型フィジカルAIの実現」をミッションに掲げ、シミュレーション環境で学習させたAIモデルを現実世界に適応させる「Sim2Real」技術を軸に、エンボディドAI(身体性AI)の汎用的な社会実装を目指している。2025年7月には、2回のシリーズAで数億元(数十億円)を調達しており、出資を主導した成都科創投と洪泰基金(Hongtai Aplas)のほか、レノボ・キャピタルなどの既存株主も参加した。

DexForceはロボット本体の開発に注力するだけでなく、「エンジン-頭脳-本体」からなるトータルの技術体系を構築している。基盤となるのは、シミュレーション・データエンジン「DexVerse」で、3D基盤モデルと生成AIを活用して高品質な訓練データを生成する。中間層にはAIの頭脳に当たる世界モデル「DexWorldModel」などがあり、産業用ロボットや協働ロボット、人型ロボットに高度な判断力や実行能力を与える。最上層では「DexForce W1」「DexForce W1 Pro」といった人型ロボット製品も展開する。

自己認識能力を持つ「エンボディドAI」、応用拡大へ 合成データ活用してロボットアームの性能を向上

同社のアプローチは、シミュレーション環境でロボットを訓練してから、それを実際の生産現場へ迅速に展開するというものだ。従来のロボットでは作業工程ごとにプログラミングや調整が必要だったが、DexForceはカメラのみを使った3D認識技術とサブミリメートルレベルの操作精度を組み合わせることで、ロボットの汎化能力の向上を図っている。しかもこの手法なら、ロボットの開発や導入にかかる時間を大幅に短縮できるという。

商用化に向けて、同社は2本柱の戦略を進めている。1つはスマート製造分野で、「ロボットの頭脳」といったAIモデルやビジョンセンサーを提供する。ABBやKUKAをはじめとする国内外の主要ロボットメーカーの本体に導入可能で、既存設備を入れ替えることなくフレキシブルな生産体制を実現できる。顧客には中国家電メーカーの美的(Midea)、海爾集団(ハイアール)、海信集団(ハイセンス)のほか、EV大手の比亜迪(BYD)、電子部品メーカー藍思科技(Lens Technology)など大手企業が含まれる。

DexForceの新製品発表会の様子

もう1つは「ロボット本体」と「頭脳」をセットで提供するソリューションだ。最新の人型ロボット「DexForce W1 Pro」は、初代モデルの7自由度ロボットアームをベースに、AIを活用した協調設計により運動学モデルと機構パラメータを最適化。その結果、両腕の作業空間と到達可能範囲が75%広がり、アームをクロスさせる複雑な動きや狭い空間での障害物回避が可能になった。ビジョンシステムとの連携により、繰り返し位置決め精度は0.5mm以下を実現、エンドエフェクタには用途に応じて6自由度のロボットハンドや二指グリッパーを選択でき、産業用途から商業用途まで幅広く対応できる。

現在は、AIを活用した観光・文化産業向け事業を強化している。すでに複数のパートナー企業と提携を結び、今後3年間で数千台のスマートロボットを投入する計画だ。まずは、ティードリンク、コーヒー、カクテル、ポップコーン、アイスクリームの販売や24時間営業の小売店などで重点的に導入を進めていく。その後は、観光地や遊園地、ホテル、スマートビル管理などの分野にも拡大し、人材確保の難しさや業務効率のばらつき、サービスの画一化といった業界の課題解決を目指すという。

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*1元=約24円で計算しています。

(翻訳・畠中裕子)

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