工場の熟練ノウハウ、AIで継承。中国新興、製造業向けAI基盤で約24億円調達
米マイクロソフト出身の技術者が創業した中国スタートアップ「智用開物(AI4C)」が、製造業向けAI基盤の開発を進めている。独自の「産業セマンティックエンジン」により、製造現場に蓄積された専門知識をAIが理解・活用できる形に変換し、工場へのAI導入を後押しする。
同社は2026年4月、追加のエンジェルラウンドで約1億元(約24億円)を調達した。過去1年間で3回目の資金調達となる。今回の出資は瑞楓資本が主導し、創享投資(Creation Venture)や電子機器受託製造大手・立訊精密(ラックスシェア)創業者のファミリーオフィスなども加わった。
2024年1月に設立された智用開物は、「産業セマンティックエンジン」と産業向けマルチエージェントシステムを組み合わせ、複製造現場の専門知識や運用ルールをAIが理解・実行できる形へ変換する技術を開発している。製造業でAI活用が進みにくい要因の一つとされる、現場固有の知識やノウハウの継承を効率化する狙いだ。
経営陣にはマイクロソフト出身者が並ぶ。管震CEOはマイクロソフト中国法人でチーフテクニカルアドバイザーを務めたAI分野の専門家で、趙銘COOもマイクロソフトCTOオフィスでチーフアーキテクトを歴任した。
AIで生産効率向上
多くのソフトウエア開発企業が単純なデジタル化支援にとどまっているのに対し、智用開物は実際の生産ラインにまで踏み込んだサービスで差別化を図る。同社のシステムは、産業用通信規格「OPC UA」などに対応し、ミリ秒単位で応答するリアルタイム処理を実現。複数のAIエージェントがロボットアームや製造設備を協調制御し、生産計画の立案や工程最適化などを担う。
現在、3つの製品ラインを展開している。1つ目は、企業向けのAIエージェント「NCREW」だ。企業は職種ごとの標準作業手順書(SOP)などを登録するだけで、AIが業務内容を学習し、数分から数時間で業務を遂行できるようになる。一部の業務では、AIエージェント1体で従業員6~10人分に匹敵する生産性を実現できるという。

職種別AIエージェント提供プラットフォーム
2つ目は、情報通信技術(ICT)や設備製造、自動車といった業界向けアプリケーションで、BOM(部品表)管理や生産計画、サプライチェーン予測を支援する。
3つ目は、「産業セマンティックエンジン」を中心とした基盤プラットフォーム。データや用語の定義を統一し、熟練者のノウハウを構造化するとともに、複数のAIエージェントを連携させる基盤として機能する。マルチエージェントの協調運用や他企業への展開を支援する。
大企業から中小企業へ展開
智用開物のソリューションは、すでに複数の大手メーカーで導入が進む。例えば今回の出資に参加したラックスシェアでは、複数の生産ラインでAIエージェントが活用されている。生産計画AIは従来6人で担っていた業務を処理し、SOP作成の自動化率は80%に達したという。また、生産ラインのトラブル対応効率は8倍、設備保守の効率は40%向上した。繁忙期に採用する臨時スタッフの研修期間も、従来の約1日半から2時間へ短縮できたとしている。
事業化に向けては、3段階の戦略を採用している。まず業界を代表する大企業へプラットフォームや高付加価値ソリューションを提供し、その後は独立系ソフトウエアベンダー(ISV)と連携して既存ソフトのAI対応を支援する。最終的には、中小企業向けに標準化した職種別AIエージェントを販売代理店経由で展開する計画だ。
管CEOは、年内に研究開発、生産計画、サプライチェーン管理、品質管理など幅広い業務を対象とする汎用AIエージェントを投入する方針を明らかにした。今後は設備製造、自動車部品、精密電子加工などの分野で大手企業と連携し、「産業セマンティックエンジン」の標準化も共同で進める考えだ。
*1元=約24円で計算しています。
(翻訳・畠中裕子)