日中関係冷え込んでも、ジャンプ・セガ・アニメイトの出店ラッシュが続く背景【駐在員が見た中国】

「ハイテク中国」にあるのは大きな市場や技術だけではない。

本連載では、日中経済協会北京事務所副所長の宮奥俊介氏が日々中国の現場を歩き回る中で体験した熱気、興奮、期待そして期待外れや裏切りも含め、リアルな姿を伝える。

デパートや老舗が集まり「北京の銀座」とも称される王府井に、今、かつてない光景が広がっている。駅を降りてショッピングモールの地下フロアに足を踏み入れると、カラフルな髪のコスプレイヤーたちが行き交い、ガチャガチャやポスターがびっしりと並ぶ。フロアは熱気に満ちている。アニメ・ゲーム文化の聖地が、いま確かに北京に根付き始めている。そしてそこには、日本の存在感が色濃く見え隠れするーー。

壁一面のガチャガチャ

逆風の中でも底堅い日本コンテンツ

2025年11月、高市早苗首相の台湾有事を巡る発言をきっかけに日中関係が急激に悪化し、アニメ・ゲームを含むコンテンツ業界も大きな影響を受けた。中国の映画市場では、『クレヨンしんちゃん』『はたらく細胞』など期待されていた日本作品の公開が相次いで延期された。映画祭では、例年行われていた「日本映画ウィーク」の開催が見送られるなど、イベントへも波及した。

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中国のアニメファンの間にも緊張が走り、SNSでは日本文化への愛情と複雑な心情を吐露する声が錯綜した。「もう日本のアニメは中国で見られなくなるのか」。そんな悲観的な声も聞かれ始めた。

ところが、である。逆風が吹き荒れる中でも、北京の街では日本のコンテンツ店舗の出店が加速している。むしろ、その動きは活発化していると言ってもいい。

お馴染みのテーマ曲が流れるジャンプショップ

平日の昼下がり、筆者が訪れたのは北京の一等地・王府井に出店した「Shonen Jump Shop Cafe(少年ジャンプカフェ)」だ。26年4月、ディズニーストアやコスプレ衣装を販売する専門店も入居する人気商業施設「喜悦購物中心」にオープンした、華北エリア初の公式ライセンス店舗である。

カフェも併設された店内には、『ONE PIECE』『NARUTO』『ヒカルの碁』『鬼滅の刃』『SPY×FAMILY』『ドラゴンボール』『ハイキュー!!』といった人気タイトルを中心に、フィギュアや文具、アパレルなど、グッズがずらりと並ぶ。日本語のテーマ曲が爆音で流れる中、10代から30代の若者たちを中心に連日賑わいを見せている。

トレカショップのポケカは高値で取引される

同施設の地下フロアには、『Fate』シリーズや『魔法少女まどか☆マギカ』など、大ヒットIPを擁するアニプレックスも直営店を構えている。こちらでも『鬼滅の刃』のグッズは圧倒的な人気を誇っている様子で、ショーケースの前に立ち止まる若いカップルの手には、主要キャラクターである竈門炭治郎や胡蝶しのぶのアクリルスタンドが握られていた。

アニプレックスでは鬼滅の刃グッズが並ぶ

アニメイト、セガストアも

今年6月にはアニメイト北京も同施設に移転オープンした。同社によると『呪術廻戦』、『SAKAMOTO DAYS』などのキャラクターグッズに加え、書籍コーナーを新設。コミックや画集、雑誌まで幅広く取りそろえ、より本格的な「アニメイト体験」を提供している。店内には「アニプリ(Animate Print)」と呼ばれる、約1分でオリジナルカードを作成できる機械も導入され、若者の「推し活」需要をがっちりとつかんでいる。

ガンプラファンが連日集う

喜悦購物中心を出て、続いて訪れたのは、同じく王府井にある商業施設「銀泰in 88」だ。こちらに入居するのは、ガンダムベース北京旗艦店(24年オープン)。ガンプラファン向けに限定キットの販売や製作スペースも提供する店内には、親子連れの姿も目立ち、世代を超えたガンダム人気の広がりを感じさせる。

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なお、この銀泰in 88には、LEGO(レゴ)、HUAWEI(ファーウェイ)旗艦店のほか、ヒューマノイドロボットを手掛けるUnitree(宇樹科技、ユニツリー)の直営店も入居する。レゴブロックからHUAWEIのプレミアム自動車「尊界800S」、そしてロボットまで同じフロアで販売されている。

Unitree初の直営店舗

そして今年7月、新たに北京に出店したのはセガストアだ。王府井がある市中心部から車で東へ約30分。大型ショッピングモール「朝陽大悦城」にオープンした同店は、中国では上海に次ぐ2店舗目となる。華北エリア初の旗艦店であり、『ソニック』『ペルソナ』『龍が如く』シリーズなど、セガが誇る人気IPのグッズがずらりと並ぶ。

配信減っても空間はにぎわう

日中関係?逆風?―そんな声はどこへやら、と言わんばかりの出店ラッシュである。なぜこうしたコンテンツ業界は、続々と中国を目指すのか。

第一に、やはり中国市場の大きさだ。国家統計局によれば、24年の文化・関連産業付加価値は6兆2094億元(約14兆6700億円)に達し、GDPに占める割合は4.61%に上った。日本のコンテンツ業界にとって、中国はもはや「なくてはならない」巨大マーケットの一つなのである。

加えて、中国の若者の消費行動が「情緒的消費」へとシフトしたことも背景にある。推しキャラのアクリルスタンドや缶バッジに生活の潤いやコミュニティへの帰属意識を求め、SNSを通じて常に最新情報を追い続けるその熱意は、消費行動に直結している。

そうした“推し活”が緊張を超えて、リアルな店舗空間を創り出しているのだ。

レゴストアにはワンピースとのコラボ商品も

確かに映画の公開自粛、イベント延期などコンテンツ業界への逆風は続いている。検閲や配信制限の強化で、日本アニメの視聴環境も厳しくなっている。成長を遂げつつある国産アニメの保護という背景もあるのだろう。ForbesでKalai Chik氏が独自に集計したデータによると 、BiliBili(ビリビリ:中国発アニメ・ゲーム・音楽・生配信などのプラットフォーム)での日本アニメ新作配信数は2020〜2023年の平均(26本)と比べて、直近では半数(平均13本)にまで減少したという。最近会った中国の友人も『葬送のフリーレン』の続きが見られなくなったことに憤っていた。

それでも今回訪れた各店舗は、そんな現実をものともせず熱気を帯びていた。セガストアのレジを後にしたカップルが、紙袋を抱えて笑顔でエスカレーターに向かって行く。そんな背中を見送りながら、思う。どんなに緊張した時代にあっても人を笑顔にするコンテンツと、それを求める力は決して止められない。北京の街角には、希望のような熱気が確かに流れているのだ。

新製品ラッシュの裏側、中国の雑貨チェーンがなぜ「儲からない」のか

(注)本稿の内容は執筆者個人の見解であり、所属組織の公式見解を代表するものではありません。

文:宮奥 俊介

日中経済協会北京事務所副所長。民間企業での勤務経験を経て2020年8月、一般財団法人日中経済協会に入職。調査部で中国経済情報の収集・発信、セミナー運営、ジャーナル企画編集などを担当。25年1月からは北京に駐在、日々最新の中国を追いかける。最近面白かったアニメは「日本三國」。立命館大学大学院国際関係研究科修了。

36Kr連載:駐在員が見た中国

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