DJI元技術顧問らが創業 ドローン向け「AI頭脳」、GPS圏外でも自律飛行へ
ドローン向け自律飛行AIを開発する中国スタートアップ「硅羽科技(SPARO)」はこのほど、雲時資本(Seas Capital)や普洛斯隠山資本(Hidden Hill Capital)などから新たに資金を調達した。設立から半年足らずで4回目の資金調達となり、調達額は累計で数億元(数十億円)に達している。資金は主に、人材採用や商用化、技術開発に充てる。
硅羽科技は2026年2月に深圳市で設立。同社はドローンそのものではなく、自律飛行を支えるAI基盤の開発を目指す。
現在、ドローンは空撮や巡回点検、測量など幅広い分野で活用が進んでいる。しかし、既存製品の多くはGPSや事前設定した飛行ルート、操縦士による遠隔操作などに大きく依存しているため、地下や屋内、暗所、煙が充満した環境などでは位置推定やナビゲーションの精度が大きく低下するうえ、周囲の環境に応じて作業を調整することは困難だった。
硅羽科技は、これまで外部設備や操縦士に頼っていた環境認識、判断、経路計画、作業遂行といった機能を、全てドローン本体に組み込むことで、自律的に判断しタスクを遂行する「空飛ぶAIエージェント」を作り上げようとしている。
同社の強みは、センサーによる「認識」、制御を担う「小脳」、判断を下す「大脳」、複数機の協調制御までをカバーするフルスタックの独自技術にある。カメラやLiDAR、慣性センサーなど複数のセンサーを組み合わせることで、GPS信号が届かない環境や暗所、煙のなかでもセンチメートル級の位置推定が可能になる。
また、自律ナビゲーションモデルが空間構造や環境の変化を理解するため、従来のSLAMによるマッピングのみに頼ることなく、自律的に飛行経路を計画できる。障害物回避の応答時間は5ミリ秒以下にまで短縮されており、秒速20メートルの高速飛行中でも、動く障害物を即座に認識して回避できるという。

未知の環境もリアルタイムに把握
これまでのドローンが主に「見る」役割を担ってきたのに対し、硅羽科技は「作業する能力」を持たせることを目指し、空中での細かな作業を可能にするシステムの開発を進めている。また、1000機規模のドローンによる協調作業にも対応し、物流や産業点検、緊急救援などの現場で高度な自動作業を実現する。
同社が投資家から注目を集める別の大きな理由は、メンバーのバックグラウンドにある。創業者の張富氏は、香港大学工学部機械工学科の終身准教授で、英Clarivateの世界上位1%のトップ研究者にも選出された。過去5年間の世界ロボット研究者影響力ランキングでは5位、中国系研究者としてはトップに立っている。かつてはドローン世界最大手のDJI(大疆創新)で8年にわたり技術顧問を務めた。香港大学MaRS研究室で開発した自己位置推定・マッピングシステム「FAST-LIVO2」は、ロボティクス分野のトップジャーナル「IEEE Transactions on Robotics」が世界最高の論文に対して贈る「King-Sun Fu Memorial Best Transactions Paper Award」を受賞した。同賞が中国チームに贈られるのは史上2例目となる。
設立わずか半年ながら、すでにドローンメーカーや物流企業など数十社の初期顧客を獲得している。今後は2つの分野で製品開発を進める方針だという。1つは完成機を開発し、実際の現場で自律飛行やタスク遂行能力を検証すること。もう1つは位置推定やナビゲーション、障害物回避など中核機能をパッケージ化し、自律飛行AIモジュールとしてマルチコプターや固定翼機、eVTOLなどさまざまな飛行プラットフォームに提供することだ。
張氏は、DJIなど業界大手と競合するのではなく、「新たな市場」を狙っていると強調する。DJIが成熟した飛行プラットフォームを確立したのに対し、硅羽科技はそれに搭載する「頭脳」を提供する役割を担う。将来的には、開発者やエコシステムパートナー向けにSim2Realプラットフォームを構築し、技術開発から大規模展開までを支えるインフラの整備を進める計画だという。
*1元=約24円で計算しています。
(翻訳・畠中裕子)