中国フィンテック大手「陸金所」が米上場 今年同業界で最大規模のIPOとなるも課題は多い

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米国時間10月30日、中国最大の保険会社、中国平安保険傘下のフィンテック企業「陸金所(Lufax)」はニューヨーク証券取引所に上場し、時価総額は約313億ドル(約3兆2700億円)となっている。アリババ系列の金融企業「アント・グループ(螞蟻集団)」も香港・上海での上場を予約しており、株式市場で中国フィンテック企業の存在感が高まりそうだという。

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陸金所(Lufax)は、かつてP2P金融で名を馳せていた頃、上場までの道のりがこれほど険しくなるとは思っていなかっただろう。

過去5年間、P2P金融に対する当局の規制が強まる中、陸金所の上場への姿勢は次第に曖昧になり、その後は話題にも上らなくなった。しかし陸金所は業態の転換を進め、この度、米国証券取引委員会に正式に目論見書を提出した。それによってこれまでベールに包まれていた同社の経営状況も初めて明らかになった。

規制強化によるP2P金融の終焉

目論見書の中で陸金所は、金融的側面のアピールを弱め、テクノロジープラットフォームとしての位置付けを強調している。技術強化のためには多くの資金が必要であり、資金調達が急がれている。

P2P金融ブームが終わり、陸金所は苦境に立たされている。業績は伸びてはいるが、急激な成長とは程遠い。

2017年から19年にかけて陸金所の売上は伸びてはいるものの、伸び率は年々縮小傾向にある。2020年上半期の売上高は前年同期比9.5%増の257億元(約4029億円)となり、伸び率が初めて10%を割り込んだ。売上高の伸び率の鈍化とともに純利益も縮小している。

今年上半期の純利益は同2.7%減で、73億元(約1144億円)となった。

作成:36Kr データ:陸金所 株式目論見書

陸金所の売上高は主にテクノロジープラットフォームによるもので、リテール融資と資産管理の二つのサービスに分かれている。前者については、平安集団傘下のローンプラットフォーム「平安普恵」で個人や小規模事業主へのローンを行っている。後者は富裕層や中間層への資産管理ソリューションの提供だ。

2017年以降、陸金所の売上高は下降傾向にあり、リテール融資業務の売上高は2018年には同92.8%増だったが、今年上半期には同9.1%増にまで鈍化している。資産管理サービスの売上高も減少しており、今年上半期には同53%減となっている。

作成:36Kr データ:陸金所 株式目論見書

陸金所のこれまでの盛衰はすべてP2P金融に帰結する。2011年、平安集団は総合的な金融業務を発展させる一環として陸金所を設立した。陸金所の主要業務は、その後数年間で飛ぶ鳥を落とす勢いとなったP2P金融で、設立の4年後にはP2P金融業界のトップ企業となった。2015年第3四半期には、その業務規模は米国最大の個人向けローン企業「レンディングクラブ(Lending Club)」をも超えた。

陸金所の急成長の要因はP2P金融というアセットライトな業務モデルにあり、陸金所はプラットフォームとして情報だけを仲介することで、信用リスクを負わず、資産規模を急速に拡大した。P2P金融は関連法規が整っていない隙を突いて急成長したが、それはチャンスであったと同時に大きなリスクも引き起こした。

P2P金融は、利率が銀行預金や投資信託商品を上回り、従来の金融モデルに強い衝撃を与えた一方で、リスク管理と信用に関する不備が徐々に露呈し、不正な資金集めや出資金詐欺に近いケースが数多く発生した。

2016年に業界の風向きが変わり、当局による規制が強化され、陸金所の上場プランも頓挫した。関連法規が発効され規制が本格化すると、P2P金融関連の概念株の株価や評価額は急落し、中国国内のP2P金融企業は激しい試練に見舞われた。

2018年にはさらに規制が強まり、P2P金融企業はコンプライアンス強化を迫られるとともにテクノロジーへ重点を移すモデルチェンジを余儀なくされた。

リテール融資と資産管理業務の2本柱

陸金所の上場は緊迫感に満ちている。

競合相手であるアリババ系列の大手フィンテック企業「アント・グループ(螞蟻集団、旧称アント・ファイナンシャル)」は上海と香港での同時上場を発表している。ライバルが相次いで上場する中、その地位を維持するためには陸金所も上場せざるを得ない。

業務内容からすると海外での上場は妥当な選択といえる。目論見書によると2020年6月30日現在、P2P金融の資産残高は478億元(約7400億円)で2017年末の3364億元(約5兆2300億円)から85.5%減少したが、残高がゼロになるまではまだ2年かかる。これは陸金所が中国国内で上場した場合、依然として厳しい監査に直面するということだ。

作成:36Kr データ:陸金所 株式目論見書

陸金所にとってP2P金融は過去の遺産ではあるが、上場に際して完全に切り離すことはできない。

二つの主要業務を売上規模から見ると、リテール融資が売り上げを主導しており、2020年上半期の売り上げの80.7%を占める。資産管理業務は目論見書の中で重点的に言及されているとはいえ、売り上げの2.7%を占めるに過ぎない。資産管理を主要業務に育てるにはまだ時間が必要だ。

新たな業務を発展させるには、過去にP2P金融で獲得した大量の顧客をP2P金融以外の業務の顧客として取り込んでいく必要がある。目論見書によると2020年6月30日時点で、P2P金融からの顧客の残留率は95%だ。

リテール融資についても当局からの監査を受ける可能性はある。リテール融資は平安普恵を通じた貸付業務だが、サービスの対象が、個人から多少リスクが保証された小規模事業者に替わっただけで、陸金所が仲介業者であるという本質に変わりはない。

海外での上場は陸金所にとって、当局の監査を迂回できる、リスクの低い選択肢だ。しかし同時に海外での上場は、中国国内の資本市場でのチャンスを逃すことになる。

今年に入って中国国内の資本市場は改革が進み、ハイテクベンチャー向け株式市場「科創板(スター・マーケット)」や新興企業向け市場「創業板(ChiNext)」への上場が容易になっている。これらの市場では、中国証券監督管理委員会(証監会)が発行価格の決定に大きな力を持っており、新規上場企業には高値がつく傾向にあるが、陸金所はそのチャンスを逃すことになる。

また米国での上場に際して、投資家に2018年から19年の業績の下落を説明し、同じことが繰り返されないことをどのように証明するかも課題だ。中国国内の規制の変化は激しく前もって予想をすることは難しい。

課題は競合他社との差別化

陸金所の上場規模は明らかになっていないが、市場の情報によると20億~30億ドル(約2100億~3100億円)規模になる見通しで、実現すればフィンテック企業としては米市場で最大規模のIPOとなる。

しかし、陸金所にとってフィンテック企業としての道のりは平坦ではない。

今後の業務の柱となる資産管理業務について、大幅な顧客数の拡大は望めないことは分かっており、プラットフォーム型サービスとしては厳しい現実だ。さらに既存顧客の中で富裕層にターゲットを絞った場合、彼らは自由になる資産が多いためハイリスクハイリターンの投資商品を好むが、投資信託商品に対する当局の規制によって、そのような商品を扱うことは難しい。ターゲットを中間層へ広げた場合は、同業他社との競争に直面する。

株式目論見書の中で、陸金所は自らを伝統的な金融企業に立脚したフィンテック企業であるとし、アント・グループや「微衆銀行(WeBank)」のようにインターネット企業から誕生したフィンテックプラットフォームとの業務内容の違いや強みを強調している。しかし、本質的にはどちらも信用貸付に近いサービスを行っている。

一方で陸金所とアント・グループには信用貸付の規模において大きな差がある。

2020年6月30日時点で、アント・グループ傘下の個人向けマイクロファイナンスプラットフォームの登録ユーザー数は10億7000万人、貸付金額は2兆1500億元(約33兆4000億円)。これに対して陸金所のアクティブユーザー数は1280万人、貸付金額は5350億元(約8兆3100億円)だ。

アント・グループはアリババ系列であるため、多くのトラフィックが自動的に集まり、様々な場面で消費者との接点があり、業務規模で陸金所をリードするのは必然的だ。一般向け市場においてはアント・グループの優勢は明らかであり、陸金所は更なる業務モデルチェンジに迫られている。

陸金所が米国市場で成功できるかどうかは、主要業務の不均衡の改善、P2P金融からの脱却、業務モデルチェンジなどの課題をいかに解決するかにかかっている。(翻訳・普洱)

 

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