「原神クラウド版」で成功、デジタル女優もデビュー 中国ベンチャーが目指す「GaaS」

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描画などの画像処理をローカル端末を使わずにインターネット上でリアルタイムで行う「クラウドレンダリング」のソリューションを提供する「蔚領時代科技(WELL-LINK Technologies)」が、シリーズB2 で4000万ドル(約58億円)を調達した。出資を主導したのはシンガポール政府系ファンドのテマセク・ホールディングスで、株主の明勢資本(Future Capital)、鼎暉創新与成長基金(CDH Venture and Growth Capital)も出資に参加。

蔚領時代は2019年の設立以来、3年で合計5回の資金調達を実施し、数億元(数十億〜百数十億円)を調達した。同社にはこれまでスマートフォン大手のシャオミ(小米)をはじめ、シャオミを創業した雷軍氏の率いる順為資本(Shunwei Capital)、同じく雷軍氏が率いる法人向けクラウドサービスの金山雲(キングソフト・クラウド)、ゲームを開発・運営するmiHOYOやCMGE(中国手游)などが出資してきた。蔚領時代は過去1年間に「原神(Genshin)」など人気ゲームのクラウド版を手がけてきた。クラウドゲームの登場でユーザーは端末のスペックを気にする必要がなくなり、ゲーム会社は配信先を増やした。

中国音像与数字出版協会遊戯出版工作委員会(GPC)などがまとめた「2022年1〜6月中国ゲーム産業レポート」によると、中国のモバイルゲームユーザーは6億5000万人。モバイルゲームの売上高はゲーム市場全体の売上高の74.75%、PCゲームの売上高は20.80%となっている。クラウドゲームが進化し続ければ、モバイルゲームのユーザーもモバイル端末を使いながらコンソールゲーム級のゲームを体験できるようになる。

蔚領時代を創業した郭建君CEOによると、中国ではモバイルゲームのユーザー数がPCゲームの何倍にもなる。クラウドゲームはモバイルゲームのユーザーに利便性をもたらし、幅広いデバイスでさまざまなゲームを楽しめるようにしてくれる。蔚領時代の売上高の伸び率は2年連続で400%を超え、今年は数億元(数十億〜百数十億円)の売り上げを見込む。

蔚領時代はGaaS(Graphics as a Service)の時代が到来したことを徐々に認識し、先手を打って産業全体で戦略を掘り下げていくべきだと判断した。昨年末に資金調達を実施して以降は、もともとクラウドゲーム分野で築いていた優位性を基盤に、仮想世界専用サーバーやデジタルヒューマンの開発プラットフォーム、次世代を見据えたソフトウェア「方舟架構」などの事業を拡大させてきた。

サーバーに関しては別会社「硅基大陸科技」を設立し、新しいレンダリング方式やソフトウェアアーキテクチャーを用いて超高密度なGPU(画像処理装置)サーバーを独自に作り上げた。このサーバーによって業界全体がコストを下げられるほか、処理効率も上げられる。硅基大陸科技の初製品はすでに納品がスタートしている。納品先の企業ではレンダリングにかかるコストが25%減らせているといい、GaaS産業で超低コストのハードウェアが実現できる可能性を示した。

中国初の映画レベルのグラフィックを実現したクラウドネイティブのゲーム作品「春草伝」

同社のソフトウェアアーキテクチャーが活用された代表的作品として今年8月にリリースされたのが、中国で初めて映画レベルのグラフィックを実現したクラウドネイティブ(最初からクラウドに完全特化した)のゲーム作品「春草伝(The Grass of Genesis)」だ。ソフトウェアの構造や開発作業の協力体制を徹底的に見直し、映画の産業化基準をゲームの制作理念に取り入れており、これを機に蔚領時代はVR(仮想現実)・AR(拡張現実)分野への取り組みをスタートさせた。

さらに芸能マネジメント事務所「海西伝媒(Haixi Media)」と提携し、作中に登場する「春草」をデジタル女優としてデビューさせた。デジタルヒューマン技術の応用基準を作り続けると同時にコンテンツ制作用のツールチェーンもリリースし、デジタルヒューマンの制作やメタバースでの活用ができるようクリエイターを支援していくという。

ゲームと映画を融合させた「春草伝」について郭CEOは、「AAA(トリプルA)タイトル」に格付けされることよりも、ユーザーが「神の視点」をもって仮想世界に入り、強烈な没入感を得られることを重要視したと説明する。これはメタバースへの参入でも大切にしているポイントだという。これからは「春草伝」をひな形としてすべての技術力を開発者向けOSとしてクラウド上に集約し、大量のツールやエンジンなどを開発者に開放していく。

クラウドゲームから事業をスタートした蔚領時代だが、ハードウェア、ツール、アーキテクチャー、コンテンツのすべてを事業化し、この4つの事業を連携させながら拡大していくことで、クラウドレンダリングを中核とするGaaS産業チェーンの第1フェーズを完成させている。

(翻訳・山下にか)

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