「今は車輪式が現実解」 中国・智往未来、物流ピッキング特化のAIロボット展開
エンボディドAI(身体性を持つ人工知能)分野では、多くの企業が二足歩行の人型ロボット(ヒューマノイド)開発やシミュレーション訓練に投資している。そうしたなか、そうしたなか、あえて車輪式シャシーと双腕を組み合わせた構成を選び、物流のピッキング作業に特化する中国スタートアップがある。
江蘇省南京市に本社を置く「智往未来(Zinovate)」は、中国科学院南京ソフトウェア技術研究院の研究チームが前身で、同研究院のインキュベーションを経て2025年11月に設立された。創業者の孫浚凱氏はかつてAIチップ大手・地平線機器人(Horizon Robotics)のスマートコックピット事業の総責任者を務め、量産の実績を持つ。

「仮想から現実へ」のギャップをどう越えるか
エンボディドAIを実環境で汎化させるうえで最大の課題は、仮想から現実へ適用する際のギャップ(Sim2Realギャップ)だ。従来のオフライン強化学習はシミュレーションデータに依存するため、実環境での成功率が低い。オンライン強化学習は精度が高いものの、学習に必要な時間が長く、SKUが百万点規模になるEC倉庫で活用するのは難しい。
智往未来はこのボトルネックを解決するため、「Human-in-the-Loop(HITL、人間が運用プロセスに関与する仕組み)」型オンライン強化学習を取り入れた。人によるリアルタイムの修正と強化学習の目標を結びつけ、少量のデモデータをベースとした短時間のオンライン学習により、タスク成功率を大幅に向上させ、データ効率も桁違いに高めた。
初代ロボット「Armstrong」は、すでに中国トップクラスの物流企業が現場で検証済みだ。2代目の「Armstrong Pro」は2026年上期にリリースされる予定で、世界的な外資系製薬企業の倉庫への導入も決まっており、2026年中に100台規模の出荷を計画している。
今は車輪式が「現実解」
孫氏によると、物流現場では、商品を取り出して配送ボックスに入れるピッキング作業が人件費全体の60%以上を占める。SKUが数十万から数百万点にのぼるため、従来のような自動化システムで完全に対応するのは不可能だが、AIモデルはまさにこうした分野を得意とする。
コスト構造も需要拡大を後押ししている。倉庫作業スタッフ1人当たりの人件費は年間5万~10万元(約110万~230万円)だが、ロボットなら2~3年で投資を回収できる。技術が進化しコスト低下が進めば、自動化に対するニーズは大手企業以外にも広がる可能性がある。
技術開発に際し、智往未来は二足歩行型を完全に選択肢から外した。孫氏は、二足歩行ロボットは構造が複雑で安定性に欠け、サプライチェーンも成熟していないため、企業が求める効率や信頼性を満たすのは難しいと指摘する。これに対し、車輪型は構造が安定しておりコストも低く、産業現場ではすでに主流となっている。
現在、中国の二足歩行ロボットの出荷台数はまだ1万台にも届かず、生産量が少ないためコスト削減も難しい状況にある。ただ孫氏も、最終的には「二足歩行+双腕ロボットハンド」が主流になると認めている。なぜなら、人間間と同じ構造を持つロボットこそが、物理世界で最も汎用性が高いからだ。ただしその実現には、テスラや宇樹科技(Unitree Robotics)などが生産規模を100万台レベルまで拡大し、コストを現在の数分の一に引き下げることが前提となる。「その段階になれば車輪型のメリットも薄れる。しかし今はまだその時ではない」と孫氏は話す。
物流から家庭へ——ロボット普及の通過点
智往未来は今後3〜5年で物流分野に集中し、シーンに特化したAIモデルの構築を進める。その後、小売りや家庭向けサービスへと事業を広げる計画だ。
孫氏は、倉庫でのピッキング作業と家庭内の片づけや荷物の整理は動作として非常に近いと指摘する。物流分野で実績を積み上げることが、ロボットを家庭に浸透させるための重要な通過点になると考えている。
*1元=約23円で計算しています。
(翻訳・36Kr Japan編集部)