スマホを裏返すと「通知ゼロの画面」、貼る電子ペーパー「Xteink」が売れた理由
無数のアプリや通知、ショート動画で完全に埋め尽くされているスマートフォン。その喧騒から逃れる場所として、これまでずっと見過ごされてきた「ある余白」が、新たなビジネスの舞台として静かに注目を集めている。スマートフォンの背面という未利用のスペースだ。
中国の電子ペーパー端末スタートアップ・閲星曈(Xteink) はこのほど、エンジェルラウンドからシリーズAまで累計5回の資金調達を完了し、総額1億元(約23億円)超を集めたと発表した。投資家には博裕創投(Boyu Capital)、SNS大手の小紅書(RedNote)、経緯創投(Matrix Partners China)、順為資本(Shunwei Capital)などが名を連ねる。資金は生産体制の整備、海外市場の開拓、SNSコミュニティの育成に充てられる。
Xteinkは「超小型・携帯型の電子ペーパー」という新カテゴリーを切り開いた。第一号機は重量わずか70グラム、画面は4.3インチ、厚さは約6ミリでカード1枚分に相当する。価格は300元(約6900円)以下に抑えた。マグネットでスマホの背面に貼り付けて使い、スマホを裏返すだけで、通知もSNSの割り込みもない「純粋な読書空間」に切り替わる。
特筆すべきは、製品の企画から量産検証まで、プロモーション費用がほぼゼロで実現した点だ。小紅書のコミュニティでユーザーと一緒に製品を練り上げ、クラウドファンディングのように初期需要を作りながら、知名度ゼロからの”コールドスタート”を成立させた。「この小さな画面を今の形に磨き上げたのは、ユーザーと一緒になって取り組んだ結果だ」と創業者兼最高経営責任者(CEO)の胡宇沸氏は語った。初期ユーザーの多くがコミュニティを通じて要望や機能案を寄せ、改良の方向を直接左右したという。
狙うのは「電子書籍リーダー」ではなく、注意力の「避難所」

第一号機は重量わずか70グラム、画面は4.3インチ
Xteinkが狙うのは従来の電子書籍リーダー市場ではない。
電子ペーパー業界はもはやニッチなビジネスではない。市場調査会社「洛図科技(RUNTO)」によると、2025年の世界電子ペーパー端末市場規模はすでに142億ドル(約2兆2600億円)を突破し、3年連続で急成長を続けている。しかし従来型リーダーには弱点があった。独立したデバイスは「もう一台持ち歩く」必要があり、スマホのワークフローから切り離され、最終的には使用頻度の低い「お蔵入りガジェット」になりがちだった。
加えて、電子ペーパーのパネル供給はほぼ台湾のE Ink(元太科技)一社が握り、そのシェアは9割超とされる。各社で画面性能に差がつきにくいぶん、競争の軸は「どんな形で、どう使わせるか」へと移っている。
Xteinkの見立ては、ユーザーが必要としているのは、手間がかからず・軽量で、ワンタップでアクセスできる意識のやり場だというものだ。「私たちが提供する本質的な価値は、目への優しさではなく、情報ノイズの遮断だ」と胡氏は語る。
製品は独立したデバイスにはせず、「スマホの自然な一部の延長線」とする。裏返すというたった一つの動作で、漫画・ライトノベル・断片的なニュース・自分向けの情報表示へ。ロック解除も検索も不要で、レコメンドの中から選り分ける必要もない。市場の反応は予想を上回った。2025年第4四半期(10月〜12月)の発売以来、わずか半年で月間販売台数が10倍以上に増加。海外市場でも初月から1万台を突破したという。
スマホのサブ画面から、AIエージェントへ

Xteinkの超小型・携帯型の電子ペーパー
なお中国の電子書籍リーダー市場では、2023年にアマゾンがKindleの現地ストアを終了して撤退した一方、文石(Onyx)など国産勢が「オープンなOS+高付加価値ハード」で台頭。文石は香港取引所に上場を申請するなど、市場はむしろ再び活気づいている。Xteinkは、その波の中から現れた”形を変えた一手”だ。
ハードウエアとしての価値が市場に認められた今、Xteinkの目標は、単なる電子ペーパー端末を作ることにとどまらない。
胡氏によれば、同社は「端末側の電子ペーパー+スマートフォンの演算能力+クラウドAI推論」の3つを連携させるシステムの構築を進めている。ここにAIエージェント機能を融合させることで、小さな画面を「AI時代における、集中力を保ったまま情報へアクセスできる入口」へと進化させる計画だ。
スマホを裏返すと、AIエージェントが、パーソナライズされた情報フィード・スケジュールリマインダー・金融情報・タスクリストを取得できるようになる。情報が「プッシュされる」から「サブスクライブされる」へ、「受け身で受け取る」から「能動的に取りにいく」への転換を実現する。この機能を搭載した新製品は2026年後半にかけてリリースされる見込みだ。
*1元=約23円、1ドル=約159円で計算しています。
(編集・翻訳:36Kr Japan編集部)