フィジカルAI、次の争奪戦は「実世界データ」 ロボットに“経験”を教えるRopediaが大型調達
フィジカルAI向けデータ基盤を手がける「Ropedia」はこのほど、エンジェルラウンドで数千万ドル(数十億円)を調達した。複数のベンチャーキャピタルに加え、スマート製造やAIモデル分野の企業も出資に参加した。資金は中核となる技術チームの拡充、ハードウエアの量産化、データ製品の大規模な納品に充てる。
Ropediaは2025年後半に設立され、シンガポールに本社を置く。米国シリコンバレーにもオフィスを設けている。コアチームは清華大学や南洋理工大学、Meta、Googleなどの出身者から成る。
AIロボット分野が急成長するなか、実世界データの不足がフィジカルAIの学習を阻む大きなボトルネックとなっている。ロボット向けAIモデルの学習には、視覚情報だけでなく、物理的サイズ、動的なやり取り、手と物体の関係性、動作軌道、シーンの意味情報など、多次元のデータが求められる。しかし、従来のデータ収集方法は高価な機器や複雑な環境構築を必要とするうえ、得られた生データを学習可能なデータに変換するために長い処理工程を経なければならない。
こうした課題を解決すべく、Ropediaは現実世界のデータ基盤を低コストで構築することを目指している。その中核となるのはデータ収集デバイスではなく、独自開発のデータエンジン「Experience Engine」だ。これをベースに、データの収集から加工、学習、検証までをカバーするデータ生産体制を作り上げ、さまざまなタイプの生データを、AIモデルの学習や評価にそのまま使える「実世界の経験値」へと自動変換する。
同社がすでに製品化したデータ収集システム「HOMIE」は、頭部に装着したデバイスを通じ、人の動きや周囲の環境の変化、物体との関わりといった情報を一人称視点で収集できる。

データ収集システム「HOMIE」
創業者の陳昭熹CEOは「データは高価であるほどよいというわけではない。重要なのは、コストや品質、規模、タスクとの関連性の高さに加え、そのデータが実際にAIモデルの性能向上につながり、評価可能な学習サイクルに組み込めるかどうかである」と語る。
同社が構築を進めるデータ基盤は3層構造となっている。「Sense」層で視覚情報や手の動き、触覚、空間的な動作データを収集。「Experience Engine」がデータのクリーニング、アノテーション、品質検査、データベースへの登録を行う。「Deliver」層ではAIモデルの学習と検証を通じて、取得したデータの実用価値を評価し、その結果を次のデータ収集に反映する。
データセキュリティーの面では、クラウドや専用区画、顧客サーバーへのオンプレミス導入といった複数の方式に対応しており、生データを外部に持ち出すことなく、データの構造化処理や提供を行うことができる。
2026年3月には、現実世界における人の経験を基に構築したデータセット「Xperience-10M」をオープンソースで公開した。現実世界での人の行動や周囲とのやり取り約1000万件を収録しており、データ規模は1ペタバイトに迫る。すでにアリババの「Qwen-VLA」や、大暁机器人(ACE Robotics)の「ACE-Ego-0」、米アレン人工知能研究所(Ai2)の「MolmoMotion」といったモデルの研究や学習に活用され、累計ダウンロード数は270万回を突破した。現在約1800社以上のデータ利用機関にサービスを提供しており、うち500社超がデータ利用契約を結んでいるほか、エンボディドAIメーカーやIT企業20社余りも同社の顧客となっている。
データの価値も、AIモデルの学習成果を通じて実証され始めている。「ACE-Ego-0」には、Xperience-10Mから435.7時間分の一人称視点動画が利用された。アブレーション実験では、ロボットデータと人の動画を組み合わせて学習したモデルのタスク成功率が72.8%に達し、ロボットデータのみを使ったモデルを4.5ポイント上回った。
同社の売上高はこの6カ月で約5倍に増加し、売上高の6~7割を北米市場が占めたという。2026年8月に発表予定の次世代マルチモーダルデータ収集システムでは、一人称視点の視覚情報や手の動き、人の動き、空間位置などの情報をさらに統合的に取得できるようになる。

次世代のデータ可視化システムのデモ
陳CEOは、マルチモーダルデータで重要なのはセンサーの数を増やすことではなく、視覚や動作、接触、空間状態を同じ時間軸、同じ座標系で記録し、モデルが学習できる物理的な動きを再現することだと説明する。例えば脱着やネジ回し、組み立てなどの作業には触覚データが不可欠であり、見た目が似た動作でも力のかかり具合や作業の結果が大きく異なることがある。動画だけでこの違いを判別することは難しい。だからこそ、マルチモーダルデータが次世代ロボットの基盤モデルや世界モデルの学習において重要なデータソースになるのだという。

*1ドル=約159円で計算しています。
(翻訳・畠中裕子)