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聴力の問題は、歯科的または眼科的な問題に比べ軽視されがちだ。ところが、世界保健機関(WHO)のデータによれば、世界では65歳以上の人々の3分の1が難聴を抱えていることが分かる。また中国では約1億5000万人に聴力障害があり、60歳以上の難聴者の割合は11%に上る。難聴の主な治療法には、投薬治療や手術、補聴器の装着、人工内耳の埋め込みなどがある。
聴力に恒久的な損傷がある場合、投薬治療や手術は効果のないことが多い。また、現在主流となっている空気伝導型補聴器については、世界六大補聴器メーカーが市場を独占しており、高性能なものは約30~60万円と高価な上、主に感音声難聴を対象としている。人工内耳の埋め込みについても、費用が高額な上、大きな手術痕が残るなどの問題があり、実際に手術を受ける患者は極めて限られている。一方、骨伝導型補聴器は、一側性難聴や伝音難聴、混合性難聴(伝音難聴と感音難聴の合併タイプ)に対応するため、片側の内耳と神経に問題がなければ利用できる。
骨伝導型補聴器の開発・製造・販売を手掛ける「声佗医療(ソニタス メディカル、Sonitus Medical)」は2016年に設立され、上海国際医学パークに本社を構えている。同社は昨年、「沂景資本(Qijing Investment)」から数千万元(数億円)を転換社債で調達している。
同社の3代目となる製品、歯骨伝導型補聴器「SoundBite™」(中国では「品音®牙骨伝導聴力系統」)はこのほど、中国国家食品薬品監督管理局の医療機器登録証を取得し、一側性難聴に対応する中国補聴器市場の空白を埋めた。また同製品はすでに米国食品医薬品局(FDA)の認証を取得しており、市場に流通する世界唯一の歯骨伝導型補聴器となっている。
人間が音を感知する方法には空気伝導と骨伝導の2種類がある。骨伝導はさらに振動によるものと圧力によるものとに分かれるが、両者における音波の伝導経路はいずれも頭蓋骨-骨迷路-内リンパ液-ラセン器-聴覚神経-大脳皮質聴覚野のようになっている。通常は骨伝導に頼って音を感知する必要はないが、外耳や中耳に病変が起こり、音波の伝導が阻害された場合、骨伝導で聴力を補うことができる。
SoundBite™はこの原理に基づいて開発された。耳掛け型のマイクで受信した音声信号を、近接電磁誘導(NFMI)技術を用いて歯に取り付けた機器に伝達すると音声信号が振動に変換され、歯から頭蓋骨に振動が伝わることで聴力を補う仕組みになっている。
SoundBite™では、歯の上と耳の後ろに機器を装着するだけでよく、現在市場に流通している骨固定型補聴器(BAHA)など他の骨伝導を利用した補聴器のように外科手術の必要がない。SoundBite™最大の利点は、完全な非侵襲性と装着しても目立たないことにある。
SoundBite™の技術は、2006年に米国のシリコンバレーで設立されたスタートアップ「Sonitus Medical」が開発したものだが、声佗医療が同技術を買収し、全ての知的財産権を取得した。また、同社は社名の英文表記もSonitus Medicalから引き継いでいる。同製品は現在、128件の知的財産権と特許権を自社で取得しており、中国のほか米国、日本、EUなどの22カ国・地域をカバーしている。同社CEOの普強凌氏は、同製品の価格を代表的な埋め込み型補聴器の3分の1に抑えられるとしている。
SoundBite™は市場導入初期において、医療機関や補聴器を扱う優良機関への直接販売モデルを構築し、段階的に代理店販売のルートを模索していく。普氏は、従来の空気伝導型補聴器市場の最大の弱点は、製品の深刻な画一化を原因とする中間業者への過度の依存により、メーカーが小売価格をコントロールしにくくなっていることだと指摘。同社はこの局面を打開していきたいとの考えを示した。
現在、中国と米国は一側性難聴患者だけでも約4000万人の難聴者を抱えている。SoundBite™は今後、これまで適切な補聴器を入手できなかった一側性難聴や伝音難聴などの患者のニーズを満たしていくだろう。声佗医療が昨年、数百万元(数千万円)を投じて建設した工場はすでに稼働しており、SoundBite™も同工場で製造される。工場の生産能力は市場のニーズに従って適宜調整していく方針だという。
(翻訳・田村広子)
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