配車サービス最大手「滴滴出行」が貨物輸送に参入 「1日1億件受注」の目標に近づけるか

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今後3年間で「1日1億件以上を受注」という目標をどのように達成するのか。中国配車サービス最大手の「滴滴出行(DiDi Chuxing)」が出した新しい答えは「貨物輸送」だった。

5月18日、「滴滴貨運(DiDi Huoyun)」が浙江省杭州市と四川省成都市で正式にドライバーの募集を開始した。

実は滴滴が貨物輸送に参入する兆しは以前からあった。4月13日には貨物輸送を行う「天津快桔安運貨運有限公司(Tianjin Kuaiju Anyun Freight)」、翌14日には関連技術の開発を手掛ける「北京快桔安運科技有限公司(Beijing Kuaiju Anyun Technology)」を相次いで設立。資本金は2社とも1億元(約15億円)にのぼる。この2社は滴滴を運営する「北京小桔科技有限公司( Beijing Xiaoju Technology )」の完全子会社であり、全株式の49.19%を保有する滴滴の程維CEOが実質的支配者だ。

5月12日、滴滴貨運はWeChat(微信)の公式アカウントをリリース。アカウントの説明には「滴滴貨運ドライバー向けのサービス」とある。

滴滴貨運WeChat公式アカウント

設立から8年、滴滴はすでに時価総額500億ドル(約5兆3500億円)のユニコーン企業に成長した。モビリティ分野において中国国内では向かうところ敵なしだ。現在の滴滴は米Uberのようにその事業をモビリティからフードデリバリー、使い走りサービス、貨物輸送など生活関連サービスの分野に拡大しようとしている。

滴滴は巨大なトラフィックを持つが、それで安泰というわけではない。また貨物輸送も新しい市場ではなく、前にはトラック配車サービス最大手の「満幇集団(Full Truck Alliance Group、FTA)」の姿があり、後ろにはライバル企業が控えている。シェアサイクル大手「哈囉出行(Hello global)」も以前「我々はモビリティと生活関連サービスの分野のチャンスを幅広く見ている。貨物輸送はその一つだ」と表明している。

貨物輸送最大手の満幇集団とどう戦うか

滴滴が参入しようとしている貨物輸送市場には前出の満幇集団のほかにも「貨拉拉(Lalamove)」、「福佑卡車(Fuyou Kache)」、2018年に「58速運」から改称した「快狗打車(KuaiGou DaChe)」など大手企業がひしめいている。満幇集団と福佑卡車は中長距離の幹線輸送に、貨拉拉と快狗打車は市内での配送に重点を置いている。満幇集団は貨物輸送では業界最大手だ。

2017年、2年間の苦しい戦いを経て、当時トラック配車アプリでシェア1位の「貨車幇」を運営する貴陽貨車幇科技と、同2位の「運満満」を運営する江蘇満運軟件科技が合併し満幇集団となった。この合併を主導したのが運満満のエンジェル投資家の王剛氏であり、合併後、同氏は満幇集団の董事長兼CEOに就任した。その後ほどなくして、満幇集団は「国新科創基金(China Reform Fund)」とソフトバンクグループが手掛ける投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」から19億ドル(約2030億円)を調達している。

満幇集団は、調達した資金を新エネルギーや無人運転、グローバル化などの分野と物流のインフラ建設に充てると表明していた。

滴滴は満幇集団の「先輩」として同じく王氏やソフトバンクグループから出資を受けている。程CEOはかつて「滴滴はさらなる高みを目指し、世界でUberやGoogleと戦う」と語っていた。

貨物輸送業界では新参者の滴滴が市場を奪うのは容易ではない。以前のような割引戦略を使っても現在の構図を変えることは難しいと業界関係者は分析している。

まず満幇集団はすでに市場の大半を手中に収めている。2019年8月のデータによれば、中国の幹線輸送貨物車700万台のうち520万台が満幇集団の会員だという。さらに中国の物流企業150万社のうち125万社が満幇集団の会員である。そしてこの業界は注文単価が高く、輸送距離も長いため、配車サービスで行っていたような割引作戦ではきりがない。しかも満幇集団には潤沢な資金がある。

市内の貨物輸送に限っても、難度は高い。市内貨物輸送を規格化するのは配車サービスよりもずっと複雑だ。路線や時間、貨物の種類、重量や体積、車種のニーズ、ドライバーの信用度など、これら全てがプラットフォーム企業には難題となる。より重要なのは、貨物輸送はあまり規格化がされておらず、利用頻度も低いことだ。これは多くの取引件数とドライバーの高い稼働率を実現するのが難しいことを意味する。そのため手数料で利益を上げなければならないが、その難度は配車サービスよりはるかに高い。このほか、市内の貨物輸送は他の収益モデルを開拓することが難しく、トラフィックからのマネタイズも難しい。

滴滴貨運が公式に発表しているドライバー募集広告には「大規模プラットフォームで好待遇」「急いで登録して期間限定イベントに参加しよう」などといった文字が目立つ。

業界関係者は、貨物輸送プラットフォームはドライバーの立場から運営しなければ規模拡大はできないと考えている。今年は業界全体の状況も思わしくなく、貨物輸送ドライバーの人数も限られており、ドライバーに多くの給料を出さないと定着しないという。

滴滴の貨物輸送市場参入について、一番敏感に反応したのがドライバーたちだ。あるSNS上では「貨物輸送市場は貨拉拉に独占させるわけにはいかない」「もし滴滴が貨拉拉に対抗するならきっとまた価格戦争に出るはずだ。少なくともその間は多くの割引があるはずだ」というコメントが見られた。

美団、バイトダンスの背中を追いかける

中国の新興IT御三家「TMD(字節跳動、美団点評、滴滴出行)」の中で滴滴は成長が最も速い企業だった。2017年には時価総額が一時560億ドル(約6兆円)まで上昇。中国の未上場企業の中ではアリババ傘下のフィンテック企業「アント・フィナンシャル(螞蟻金服)」に次ぐ高さとなった。しかし、インターネット業界は入れ替わりが激しい。過去2年の間、滴滴はライドシェアのドライバーが乗客を殺害した事件で世間から強い批判を受けただけでなく、時価総額も大きく下がった。現在、生活関連O2Oサービス企業「美団点評(Meituan Dianping)」の時価総額は約908億ドル(約9兆7200億円)、ニュースアプリ「今日頭条」やショート動画アプリ「TikTok」やを手掛ける「バイトダンス(字節跳動)」の時価総額は約1000億ドル(約10兆7000億円)だが、滴滴の時価総額は500億ドル(約5兆3500億円)前後にすぎない。

滴滴の程CEOが人前に出ることは少ないため、同氏が戦いについての議論が好きで、かつ戦いに強いことはほとんど知られていない。滴滴は戦いの中で成長してきた企業だ。初期には中国国内の配車プラットフォーム各社と戦い、ライバルであった「快的(KuaiDi)」を買収、さらに「Uber中国」を合併したがどれも滴滴の「作戦能力」の高さが現れている。

時価総額では美団とバイトダンスには劣るが、短期的な停滞で程CEOの闘志が衰えることはなかった。過去1年半の間、滴滴が歩みを止めていたのは一方では安全面とコンプライアンスを確実にするためと、もう一方ではグローバル化に力を入れるためだった。同社はブラジルやメキシコ、チリ、コロンビアやコスタリカ、オーストラリアで関連事業を始めている。

滴滴は再び闘志を燃やし始めたようだ。3月24日、社内通達で「1日1億件の受注、中国国内のモビリティ分野で市場シェア8%を超える」という今後3年間の目標を発表している。

3月、同社は新タイプの配送サービス「跑腿(使い走り)」サービスを開始。5月には貨物輸送ドライバーの募集を始めた。どちらも滴滴が過去に試みたことのない分野であり、業界にはすでに時価総額100億ドル(約1兆700億円)近い企業がある。

もしこの2つの業界で市場シェアを獲得することができれば、滴滴の「1日1億件受注」という目標は実現に一歩近づくだろう。規模の拡大と同時に時価総額の上昇も期待でき、これにより時価総額における美団やバイトダンスとの差が縮まることにもなる。過去8年間、滴滴が戦ってきた経験は今財産になろうとしており、時価総額1000億ドル(約10兆7000億円)実現への後押しとなるだろう。

作者:Tech星球(Wechat ID:tech618)、王琳

(翻訳・山口幸子)

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