【分析】シンガポール、ユニコーン企業「量産」できた理由

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シンガポール、ユニコーン企業「量産」できた理由

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シンガポールはアジアの金融、貿易、科学技術、イノベーションの中心地で、東南アジアに存在する企業価値10億ドル(約1150億円)以上の未上場企業「ユニコーン」の半数近くが集まっている。その要因となっているのはスタートアップエコシステムと事業環境だ。政策的支援から投資家の注目、企業に合うイベーションプラットフォーム、イノベーションイベントまでが揃い、あらゆる面で活気に満ちた投資環境が整っている。

東南アジアで相次ぐユニコーンの誕生

東南アジアで昨年生まれたユニコーンの数が世界的に注目されている。シンガポールなど東南アジア諸国連合(ASEAN)主要6カ国に拠点を置くユニコーンは、昨年10月時点で35社に上った。過去8年の新規ユニコーンは年間5社以下だったが、昨年は1~10月だけで19社ものユニコーンが誕生した。

クレディ・スイスのリポートによると、ユニコーン35社のうちフィンテック企業が26%を占めて最多。2位は電子商取引(EC)企業の20%、3位は物流企業の11%。35社のうち15社がシンガポールで設立または本社を構える企業だ。

昨年にユニコーンとなったシンガポール企業には、AI技術の「Advance Intelligence Group」、フリマアプリの「Carousell」、中古車売買プラットフォームの「Carro」、ECプラットフォームの「Moglix」、物流企業の「Ninja Van」、特許・企業情報サービスの「PatSnap」、ゲーミングチェアの「Secretlab」、国際送金プラットフォームの「NIUM」などがある。

中でもPatSnapは、創業者兼CEOのJeffrey Tiong氏がシンガポール国立大学(NUS)卒業後にシンガポール政府の支援を受けて設立、昨年3月にシリーズEで3億ドル(約350億円)を調達し、ユニコーンとなった。

シンガポールがユニコーンを生み出す速さは世界でもトップクラスだ。金融商品比較サイトの英「Money.co.uk」が発表したランキングによると、シンガポールのスタートアップがユニコーンに成長するまでの期間は平均6年11カ月で、米国やオーストラリアとほぼ同じ、中国や日本に次ぐ短さだ。

シンガポールでユニコーンが育つ理由

スイスの調査会社「StartupBlink」が発表した「2021年世界スタートアップエコシステムランキング」 で、5万5000社以上のスタートアップを抱えるシンガポールは東南アジア1位、世界10位となった。シンガポール経済開発庁(EDB)の黄静雯氏は、同国の市場規模は小さいが、スタートアップは国際的な視野を持った商品開発や成長戦略の立案に有利な同国に拠点を置くことを選択していると説明した。人口わずか500万人余りのシンガポールは、スタートアップエコシステムと質の高い事業環境を整え、グローバル化の機会を生んで人材を呼び込んでいる。

また、シンガポール政府は研究開発やイノベーション、人材育成を重視した財政支援も進めている。国立研究財団(NRF)の「研究・イノベーション・企業2025年計画(RIE2025)」は昨年スタート。毎年GDPの1%、総額250億シンガポールドル(約2兆1000億円)を研究とイノベーションに投資する。過去30年で最大の財政支援になる見通しだ。総額の29%に当たる73億シンガポールドル(約6300億円)が学術・研究機関の科学研究能力向上に充てられる予定であることから、同国が人材育成を重視していることが分かる。

シンガポールは世界で最も投資が活発な地域の一つで、企業は誕生と同時に資本の恩恵を受けやすい。米CNBCの報道によると、シンガポールで活動するベンチャーキャピタル(VC)は、スタートアップに約100億ドル(約1兆2000億円)を提供できるという。「Jungle Ventures」「Insignia Venture Partners」「Golden Gate Ventures」などのVCは、本社や支社をシンガポールに設けている。政府系の「EDBI」と「SGInnovate」は、スタートアップへの資金提供を目的に設立された。

シンガポールでは昨年、感染症流行の抑制と科学技術関連の需要拡大によって、VC投資が急増。投資額は165億ドル(約1兆9000億円)、投資案件は303件となり、2020年の52億ドル(約6000億円)、149件に比べ大きく増えた。

シンガポール政府は企業の持続的な成長を後押しするイノベーションプラットフォームの構築にも力を入れている。情報通信メディア開発庁(IMDA)は、学術研究と実用化のギャップ解消を目的とする「オープンイノベーションプラットフォーム(OIP)」を運営している。OIPは企業と政府のニーズを結びつけ、テック企業が業界や技術サービスプロバイダと共に複合的かつ複雑な問題についてイノベーションを進める機会を提供する。また、IMDAはIT企業による需要の把握を後押しするとともに、情報、法律、広報、マーケティング、技術などの面でサポートする「SG:D Spark」プログラムを実施している。政府や企業は、プログラム認定企業からのサービス導入を優先的に検討する。

EDBは昨年5月、主力事業とは異なる分野の新規事業立ち上げを目指す大企業や成熟期にある企業を対象に、総額1000万シンガポールドル(約8億6000万円)を支援するプラットフォーム「Corporate Venture Launchpad」を立ち上げた。企業はこのプラットフォームを利用し、専門知識豊富な「Venture Studio」と協力しながら半年以内に新規事業の立ち上げを目指す。

シンガポールは世界とつながっている。イノベーションを進め、スタートアップが国際市場に進出するためのプラットフォームを提供している。航空および船舶輸送のハブとなるシンガポールで、企業は効率的に地域市場にアクセスできる。シンガポールは昨年12月、同国にとって4件目となる「デジタル経済協定」に関して、韓国との交渉を終えている。コロナ禍が世界のデジタル化を加速させる中、デジタル経済時代の自由貿易協定と見なせるデジタル経済協定は、アフターコロナ時代に主導権を握ろうとする企業を後押しするだろう。

シンガポールは昨年5月、欧米、アフリカ、アジアの47カ国が加盟する「欧州先端技術共同研究計画(EUREKA)」に新規加盟した。EUREKAは1985年に設立され、これまでに7000件以上の国際協力プロジェクトを成功に導き、政府や民間に働きかけて約780億シンガポールドル(約6兆7000億円)の投資を引き出している。加盟国は今後、シンガポールのイノベーションエコシステムとつながり、現地企業も革新的な提携プロジェクトを探せるようになる。

EDBの黄氏は「人類はこの2年間、コロナ禍や気候変動など地球規模の厳しい試練に直面した。この試練によって、人類は持続可能なイノベーションとビジネスモデルをどのように作るかについて再考せざるを得なくなった」と述べた。

黄氏はまた「シンガポールは引き続き、スマート・マニュファクチャリング、デジタル技術、ワンヘルス(One Health)に関する事業とイノベーションエコシステムを構築していく。また、メタバースなどの新たなトレンドも探っていきたい。最終的にはビジネス、科学技術、イノベーションを通じて、社会により良い影響を及ぼす持続可能なシステムとソリューションを世界に提供したい」と今後の展望を語った。
(翻訳・大谷晶洋)

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