「中国なしにAIグラスは作れない」――世界サプライチェーンの80%を掌握する製造大国の実力

中国にいれば、AIグラスの開発はは驚くほど身近だ。

「3日で試作品が仕上がり、7日あれば発売できる」。これは決して誇張ではなく、深圳「華強北電子街」に代表される珠江デルタ地域の製造業の実力を示す言葉で、「深圳スピード」とも呼ばれている。さらに、中国の上海市、江蘇省、浙江省、安徽省にまたがる長江デルタ地域には、世界最先端の光導波路技術やマイクロLEDディスプレー技術などが集結している。

米バンク・オブ・アメリカ(BofA)のリポートでは、さらに衝撃的なデータが示された。世界のAIグラスのサプライチェーンを構成する企業の実に80%以上が中国に集中しているというのだ。

シリコンバレーが「次世代のパーソナルコンピューティングの入り口」と期待を寄せるAIグラスだが、その生命線とも言うべき産業基盤は事実上、中国が掌握している。チップから光学モジュール、完成品の組み立てに至るまで、中国はすでに下請けの立場を脱し、技術や産業を主導する存在へとその役割を変えつつある。

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光学モジュールとチップ——コストの7割を握る「2大急所」

AIグラスのコスト構造を見ると、光学モジュールが40%以上、チップが30%以上を占め、この2つだけで総コストの7割以上に及んでいる。中国企業はこの2つの分野で、目覚ましい技術進歩を遂げてきた。

シャオミのAIグラスの構成部品とサプライヤー(画像:Wellsenn XR)

光学モジュール

光学モジュールは、AIグラスのディスプレー品質と軽量化の鍵を握る重要部品だ。長年にわたり、高性能の光導波路技術は欧米や日本企業の独占状態にあった。しかし浙江省湖州市で、清華大学系スタートアップの「至格科技(Greatar)」が、ナノテクノロジーを応用した光学製造プロセスを開発、世界的な課題とされてきた虹色の光のちらつきを解消し、レンズを4グラム以下に抑えることに成功した。

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一方、上海の「JBD(顕耀顕示科技)」は、マイクロディスプレー分野で独走状態にある。同社が開発したマイクロLED光学エンジンは、わずか0.15立方センチと豆粒ほどのサイズで、消費電力も業界平均より40%も低い。「高輝度・小型・低消費電力」という三拍子がそろったことで、長時間の装着にも耐えるAIグラス実現に向けた技術基盤を構築した。

情報処理を担うチップ

チップ開発の分野でも、中国企業の存在は際立っている。広東省珠海市に拠点を置く「恒玄科技(Bestechnic)」は、超低消費電力のAIチップを武器に、米メタのAIグラス「Ray-ban Meta」の主要サプライヤーとなった。

福建省の「瑞芯微電子(Rockchip)」は、10TOPSの演算性能を備えたチップをシャオミのAIグラス向けに供給しており、端末上での複雑なAI処理を支えている。さらに、「全志科技(Allwinner)」や「星宸科技(SigmaStar)」といったメーカーが、圧倒的なコスパでロー・ミドルエンド市場を一気に押し広げ、AIグラスの裾野を大きく広げた。

スマホで磨いた技術が、AIグラスに転用

中国産業の底力は、垂直統合の完成度にも表れている。

電子機器の受託製造大手「歌爾股份(ゴアテック)」「立訊精密工業(ラックスシェア)」「藍思科技(Lens Technology)」は、スマホ時代に培った精密部品組立のノウハウをAIグラス分野へと応用している。例えば藍思科技は、生産ラインに20工程以上の精密プロセスを組み込み、AIグラスの製品重量を49グラムまで軽量化するとともに、組み立て誤差を肉眼では判別できないレベルにまで抑えた。米メタとオークリー(Oakley)がコラボしているスマートグラス「Oakley Meta HSTN」はゴアテックが製造を手がけており、パッケージには同社のロゴ「GTK」がはっきりと印字されている。

データによれば、2025年には華強北だけで、AIグラスが世界50カ国以上に輸出され、販売台数は月平均で10万台を突破した。最先端技術が短期間で大衆市場に届く——それが中国サプライチェーンの実力だ。

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「5%の薄利」から10年——中国工場はなぜ世界をリードできたのか

2012年に発表された「Google Glass」は、1500ドル(約23万4000円)と高価で、当時は「ギーク向け高級ガジェット」と受け止められていた。その後、Facebook社(現・メタ)によるVRデバイスメーカー「Oculus」の買収で、VRブームが巻き起こる。一方で、マイクロソフトは自社開発の「HoloLens」を武器に法人向け市場を開拓し、NASAやメルセデス・ベンツといった顧客を獲得していった。スマートグラス産業が立ち上がった頃の2012~15年は、シリコンバレーがイノベーションの主導権を握り、コア技術を欠いていた中国の受託製造工場は5%にも満たない薄利しか得られなかった。

しかし、中国企業はその状況に甘んじることはなかった。技術的な格差という現実を前に、中国勢は3段階の成長戦略を打ち出した。

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(36Kr Japan編集部)

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